第35話 さてさて(クロノソティス視点)
レイシアは今頃……あの国でどれだけ楽しんでいるかはわからないけど。
僕は僕で、ちゃんと封印したという『ジャディス国』の方へと転移を繰り返して向かっていく。あの『汚れ』として付着していた『穢れ』を埋めるための場所として……僕が狭間で寝ていながらも、座標を統一した『イリス両国』にとっての隣国。
レイシアには、酷な思いをさせていただろうけど……意外に図太いから、あの子が赤子の頃に血族のひとりにお願いして、その国で『人柱』になってもらっていた。
スキルを態と、濁した表記にして。
態と、穢れの受け手として周りの『存在』すらも害悪なものに仕立て上げ。
ただただ、自分が惨めな受け手にしておかないと……この国への罪悪感を持ってほしくなかったからね?
だって、ここは。
「誰も存在しない。冥府の入り口だと、レイシア以外も知ったらぞっとするだろうから」
数百年前に、この地は大きな地割れと共に亡骸の国となり。
あまりの人数の多さに、僕は穢れを少し受けながら『狭間の神』としての役割を果たすのに『色』を明け渡した。それを少しずつ紡いでは染めて、浄化していくのが……イリスの血族。
僕の都合ではなく、この国とかほかの国のために動いてたって知ったら……あの子たちは、どんな思いでこの国の跡地を見に来るだろうか。今は穢れが抜けたことで万々歳とか思っているかもしれないけど……真実はこんなだと知ったら、あの子たちは本来優しいから嘆くで済まないだろうね?
「僕自ら、ここで聖浄をしても……それは一瞬で終わらせてしまうだけ。せめて、封印の深さだけは変えておこうか?」
下手に、レイシアの仕事を奪ってはいけない。
あの子はイリスの未来として、ここに連れてきた血族がいるかもしれないと……リデルたちなら、簡単に予想がつくだろう。そこの旅路はこれから始めた方がいいんだ。今までの苦労をかけた旅路の途中にも、まだここに似た穢れは多く存在する。
けど、ここ以上があるかどうかは、まだ力を完全に取り戻していない僕ですらわからない。調べることは簡単でも、それはレイシアの今後のためを思うと非常によろしくない。
「あの子は、イリスの統合のための王妃になってほしい。リデルと魂を別つ存在だったと……自分の力で気づいてほしいんだ」
虹の世界を統べるじい様の次世代は、僕、クロノソティス。
孫の中でも長兄として、穢れを受け、揺蕩う流浪の神。
一部の伝承には最高神とか描かれているけど、多分この世界の今では違うだろうね?
態と穢れを溜め込み、次世代のときが来るまで放置しぱなっしなんだから。
「あーあ。フィーとかレイんとこも大変だったのに。僕だけが後始末大変組だからなぁ? 長男って、本当に面倒」
番う女神もまだ誕生していない。下の兄弟姉妹たちにはそれぞれいるのに、僕だけいないのは……哀しいし淋しい。けれど、この段階に来るまで、それは約束されていたことだから……まったく悔しくはない。
「じい様が言うには、この穢れの中で生まれるって言ってたけど……混ざりまくった魂は浄化させるか? レイシアに『元婚約者』に見せてたバカも穢れだって見せたくないだろうし」
レイシアの言祝ぎを、無意識でも紡がせていたのは僕が残した記憶たちだ。これから、共に、『神』と『巫女姫』として繋がりが出来るのであれば……これから紡ぐそれを記憶として残そう。
虹の彼方の先、実はここに繋がることを信じて。
彼らの旅路が、途中は幸多からんことを願うために。
『晴れ渡る、虹の穂先に
我撫でる 雨の草花
土のにおいを、さあ嗅ごう
我らの芳しい 湯の華の香さ
燈火を見よう その先を
穢れを洗い流す 我が虹の髪を』
それから僕は、紡げるだけ言祝ぎを言の葉に乗せ。魂たちだけは冥府へと送る手助けをしてあげたんだ。
次回はまた明日〜




