第30話 何も知らない元悪役令嬢(リデル視点)
レティは、本気で『イリス両国』の忌み嫌われてきた異聞すら知らされていなかったようだ。王族のことで、俺の異名すら知らなかったことに、顔をぽかんとさせているだけ。
自分自身も、あの国では爪弾きだとさせられていたせいにしても……少し、おかしい気がした。態と、な裏工作があってもおかしくない気がしたのだ。それについて、アディルカはレティを問い詰める方に集中してもらった方がいいので、俺は弟のライオスを輪の端に引き寄せた。
「……どう思う?」
「我らの一族以外、外に流れたイリスの血族の末裔でしょうか? クロノ様の念話も一向にありませんが、僕ら以外に血族がいてもちっともおかしくありません」
「その可能性に逆に気づくべきだったな。傍流かはともかく、レティの美貌があれだけ変わったのも納得がいく」
態と、『活かせない』国とその家に養女などで匿わせ。
態と、俺のようにイリスでも直系の血族に、レティを『見つけ』させるように仕向けたのならば。クロノ様にも知られずに関与出来る血族は、俺の知る範囲でも限られてくる。しかし、傍流でもそこからさらに辿るのは容易ではない。
これは、慎重に進めていくべき案件だ。レティがイリスの王族直系に近い血族であれば、父上の言う通り……アーストとセレストの統合に大反対する阿呆な小国たちが黙っているはずがない。
レティにも、そんな連中らの道具にもさせたくなかった。俺は、スモアのクッキーを美味しそうにほおばって喜んでくれるあの笑顔をもう一度見たいんだ。
「……兄上。しっかりと、義姉上への気持ちを自覚されたんですね? 僕にはわかりますよ」
「……お前も慕っているのでは?」
「僕には、アディがいますよ? そこは昔からの片想いなので心配無用です」
「……ルカには散々振り回されているのにか」
「いいんです。やんちゃな姫がかわいいんですよ」
「……そうか」
物好きだというとややこしくなるので、そのくらいで返事をしておくことにした。とりあえず、レティのいたあの国の系譜などをもう一度調べ直す必要がある。クロノ様が、封印とやらをかけた意味が別にあるのならば……あの穢れを通じて、国の『呪物』とかでも取り除く必要があったのか?
そもそもの、イリス両国の分裂と作業の分担がいつだったかも伝承を読み直さないといけないな。
「とりあえず、義姉上が大変そうなので助太刀しましょうか?」
「……ああ」
ルカに俺たちが他国から酷い忌避を受けていたのを知ると、今度は大粒の涙をこぼすだけでなく嗚咽を必死に我慢していた。俺の渡したハンカチでは足りないので、皆のを差し出すほどだった。穢れを移した叔父上らの頭巾はさすがに使わなかったが。
次回はまた明日〜




