第20話 セレストに返却された『虹』は?(隣国王視点)
兄上からとあるお嬢さんをお迎えするのに、国布をわざわざ貸して欲しいと甥の王太子も込みで連絡があったため……まあ、国賓のためなら、と貸したまでは良かったんだが。
返却され、自分で戻ってきた国布の色を見て……私だけじゃなく、妻らもギョッとしたのは無理もなかった。
「よ、汚れが!?」
「ない! どこにもない!? 何百年もの澱も!!?」
「誰!? 誰がこんなにも美しく!!?」
セレスト側の秘術で定期的に汚れを『移す』程度はしてきたが、『洗う』に等しいスキルの持ち主は誰もいなかった。いつもは滞在しているアースト側のライオネルがその作業を主にしているせいで手袋は必須。
顔などへの皮膚侵食もそろそろ……と思っていたのを労わろうとしたが。これではおそらく、その必要もなくなるかもしれない。
(国布でこの仕上がり。ってことは、リデルが迎えに使った理由はそのお嬢さんに、スキルを使わせたと言うことだが)
何処のどの国にそんな逸材が埋もれていたんだ!?
国賓以上に、神職としてでも我らが『イリスに代価』を受ける側にとっては……法皇にも等しき方ではないか!!? 一日は経っているし、兄上らからもまだ連絡がないと言うことは……御披露目に時間をかけているのかもしれん。
であれば、ライオネルが戻ってくるまで我らがすべきことは!!
「皆の者! もし、国布をこのように仕立ててくださったのが若い女性であれば。我らはその方に感謝を込めて『紡ぎ』の仕事をひとつせねばならん!!」
アーストが極上に染め上げることの出来る『何か』を作ろうにも。ドレスではいかんし、女性であればマントは派手になってしまう。しかしながら、このまま大恩人を無視するような行為はしたくない。
「陛下。今し方、魔法鳥がこちらに」
近習のひとりが、手紙に戻された魔法鳥を持ってきてくれた。差出人は兄上……アーストの国王だが、わざわざ急ぎで寄越すとは珍しい。
便箋を取り出せば、端的にだがアースト側に来いとの知らせだった。国布を洗ってくださった愛らしい女性が、王太子のリデルが婚約者として連れてきたと。
さらに、ここ数十年の染め上げ側での代価が……その方のお陰で、素顔を取り戻せた??
最後のには、堪らず声を上げてしまったとも!!
「……なるほど。我らが求めていたスキルを持つ『乙女』を東側が受ける、か。イリスの伝承通りだ!」
日が昇る位置から沈む位置へ。
輝きから、安寧の昏さへと。
いくら虹色が美しくとも、夜空の星々の煌めきには敵わない。
染め上げは、すべての色を操るのだからな。
「支度をするぞ。私と王妃。それと、王女も」
「「はい!!」」
どのような乙女か楽しみではあるが、兄上がさっさと来いと言うのなら行くしかあるまい。
次回はまた明日〜




