第18話 朝餉の言祝ぎ
「ああ、驚かせてごめんなさいね? レイシアさん、私とそこにいらっしゃる方がリデルの親よ」
「こんな恰好ですまないね? いきなり見せると、もの凄く驚かせるだろうから」
ということは、手以外のところまで汚れが? なんということでしょう!? 今すぐに言祝ぎを紡いで、その汚れを落とさねば!!?
などと意気込みましたが、お腹が空いているのか……虫さんが大音量で鳴りました!! わたくしも、ヴェールか何かを羽織りたいですわぁあ!!?
「あら? お腹空いていらして? 料理長を控えさせて良かったわ。出来立てのを振る舞ってもらわなきゃ」
「その方がいいね? リデル、案内は頼んだよ。先に食べさせてあげなさい」
「……わかった」
恥ずかしいままですが、音を落ち着かせるためにはご飯を食べなくてはいけませんもの。
言われた席に座れば、どうぞと給仕の方々から出来立てのご飯を並べていただけました!? 私はあのクロノ様のお導きもあり、この場に居られるのだと……念入りに食事の祈りを捧げてから、食べ始めました。
どれも温かい食事で涙が出てしまうくらい、美味しいですわ!!
「美味しいかしら? レイシアさん?」
「はい! とっても!!」
わたくしの前に、王妃様が座られましたが……やはり布は外されていらっしゃいません。わたくしが驚かないように気遣っていらっしゃるのならば。
ある程度、お腹が満たされた今なら大丈夫でしょう。このまま始めていいかもしれませんが、ひとつ確認を取りたかったですわ。
その布に汚れを染み込ませていいかを。
「あら? これはいいけれど……」
「使い捨ての頭巾のようなものだしね? 私たちは構わないが」
「であれば、その後のことに使わせていただきたいのです!!」
「「その後??」」
虹が出来上がるまで、体に染み込んでしまうのはどんな汚れかを。
クロノ様がおっしゃっていた、『境目の汚れ』がもし本当の『穢れ』であれば。
聖浄というスキルが本物であるのなら、完全には難しくとも『薄める』効能があるかもしれません。
なので、御二方には椅子に座っていただいたままです。
『永久など、無きに在らず』
『身に染みた穢れの外の紐付け』
『我らが流れの糸口通りに、『黒の汚れ』を薄めよ。外に流れようぞ』
うまくいくように、祈る姿勢で言祝ぎを紡いでいけば。
真っ黒に染まるはずの、陛下方の頭巾に……刺繍のように虹が水紋のそれと同じような柄に染まっていくようでした。まだ……まだ……と虹の濃さが均一になり、わたくしの頭の中で綴じ目を終えたような、合図がありました。
目を開ければ、世にも美しい虹の頭巾が二つも出来上がっていましたわ。
「……大丈夫だと思いますわ。その、少し外されても」
お顔を見せてくださるかわかりませんでしたが、考えていたことは実行出来ましたもの。
リデルが息子としてそっと王妃様の頭巾をずらしてましたが、国王様の中も確認すると……思いっきり引き剥がしましたわ!?
「どういうことだ!? 四十年分の『穢れ』が!!?」
年数を聞くと凄い汚れだったようですが、頭巾から出てきた初老のご夫婦には……お美しいお姿以外の汚れは一切ありませんでしたわ!!
次回はまた明日〜




