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義弟という存在。

慌ただしいお茶の時間が過ぎ、エンライ様ともっと色々お話ししたかったなぁ。

なんて考えつつも執務室へ戻りました。

エンライ様も本当はもっと時間を取りたいんだろうけど、自分の身内の乱入とあっては、流石に文句は言えず。こちらをチラチラと名残惜しそうに見ながらも魔獣討伐隊の方へお戻りになりました。

ライアス様に関しては、エンライ様は最後まで申し訳なさそうな顔をしていたけど《いつかはこの地に来る》と言われていた存在なら、今のうちにオッサンに躾してもらって正解だと思う。

【ウサギ君とカワウソ君】のお話を聞いた限りでは、かなりのクソガキだったカワウソ君を《今の補佐のヨアン》にまで躾けた《狸爺》の手腕を実際に体験している以上、ヨアンが見限らない限りどうにかなるんじゃないかと思う。

まだ幼いし。どうにか矯正は出来るはず。

信じてます!!第二のお父様!!


数分後・・・。

どったんばったん。

大きな音が聞こえる。

コレは・・・・。

疲れているだろうに、ライアス様は寝ることよりも稽古を選んだのだろうか?

と、お父様を見てみるけど

「ライアス殿は眠らないことを選んだのだろう。問題ない。体力を使い切れば勝手に寝る。昔のあいつもこんなもんだった。懐かしいな。あの頃も1週間位は24時間、屋敷中をどったんばったんと走り回る音や物の壊れる音、淡々とあいつを叱る声が聞こえきてな・・・。そうだな、ミーニャ、あの音を気にせずに仕事ができる様になりなさい。エンライが来てからお前も浮ついているだろう。集中力を養う良い機会だ。私が声をかけるまで、仕事に集中しなさい。食事を作る時間には声をかける。始めろ。」

と、思い出話の後には領主様としての命令を頂いた。

なるほど。私にとっても良い訓練という訳ですね。

確かに、エンライ様がいると思うとソワソワするし、食事の事を考えたりしてしまいそうなので、ちょうどいいでしょう。

これを機会に仕事とプライベートのハッキリとした線引きをいたしましょう。

頑張ります!!

と、集中することを心に決める。

どったんばったん。

《ンギャーーーーー!!!!!》

《だ、だからーーー!!!!!!ヴゥワァァァァン!!!》

《ごっつん!!!!》

という、少年の謎の叫び声と波動が響き渡る打撲音。

それでも仕事の手は止めず。

1つ問題があるとすれば、謎のBGMが大音量すぎて、お父様達との会話が聞こえないという事。

なので会話は筆談ですることに。

これもまた、何かの役に立つ日が来るかもしれないんだと、お父様は笑ってらっしゃった。

出来る領主様の余裕のある笑顔、一領民として頼もしく思います!!

ちなみに。

お父様と周囲の幹部の方々は昔、補佐のオッサンの時に同じ経験をしているからか、筆談がもの凄く速かった。

私は読むのも書くのも遅く、皆を待たせるという状態に。

コレは後で特訓せねば。

自分への課題を新たに見つけ、練習の予定も立てつつ、しばらくぶりの仕事に没頭する。



トントン、と肩を叩かれ、顔を上げると

「仕事はここまででいい。エンライとの食事の準備をしてきなさい。私とエンライの護衛達の食事は料理長が作ったもので構わないが、補佐には何か手作りのデザートを作ってやりなさい。エンライの弟の為に精神を削っているんだ。エンライも納得するだろう。」

とのメモをお父様からいただきました。

未だにどったんばったん、淡々と責める声が響いているので、本当に長期戦である。

ずっとあの状態だったのなら、補佐のオッサンはずっと魔法を使いっぱなしなんじゃなかろうか?

魔法もなしにあのエンライ様の家系の【対人特化】と呼ばれる子供を捕まえておくことは出来ないだろう。

いくら魔法が上手いとはいえ、凄く疲れているはずだ。

・・・。

なんだか領地の為とはいえ、ここまで頑張ってくれているオッサンに目頭が熱くなってきた。

よし、補佐のオッサンには、フルーツと生クリームたっぷりのオムレットを用意してあげよう。

生クリームもいつもよりも上等なもので、魔獣討伐隊の帰りのお疲れ会で使ってる高価なやつ。

私の愛する旦那様であるエンライ様の弟、私の義弟が迷惑をかけているのだから、私が労うのが当然よね。

エンライ様の妻として!!

むふふ。

何だか、ちょっとした所でエンライ様との繋がりを感じてニヤニヤしてしまう。

エンライ様の為に動ける権利を持ってるんだもんね。

奥さんですから!私!!

幸せだなぁ~。

ニマニマしてしまうし、浮かれまくってるけど、許してほしい。

新婚なんだから!!!!!

そう思いながら退出の挨拶を完璧に済ませ、部屋を退出させていただいて、急いで調理場へ向かう。

未だに聞こえてくるどったんばったん、《もうやだぁぁぁぁぁ!!!》という声は聞こえなかったことにしておく。

今日もエンライ様の為に、栄養バランスを考えて、お肉を中心に野菜もたくさん、食べ応えも考えて献立を構成。

オジ様たちが口にする分の事も考えて、あっさりとした物も少し考えて料理長へ指示しておく。

勿論、エンライ様の分は私が作るけども。

オッサン、基、第二のお父様ヨアンの分の《特別お疲れオムレット》も作成済みである。

当然、エンライ様の分もオムレットは作っておいた。

後で二人で食後のお茶の時に食べるのだ。

まったりとした食後の時間に、今日の話をしながら、愛を囁きあいなが・・・

【どったんばったん!!!!!!】

・・・・・・。

う~ん、2人の時間とれると良いなぁ~。

そう思いながら急いで着替えを始める。

エンライ様たちを呼びに行ってもらったので、そろそろいらっしゃるはず。

盛り付けは他の人達に任せてあるし。

準備は完璧。

後は食堂に向かうだけ!

いざ、出陣!!

と、気合を入れてきたんだけど・・・。

何だか違和感。

静かになった気がする。

あれ?どったんばったんの大騒ぎと叫び声はどうした?

そう思いながらダイニングに到着すると、そこには既に上座に座ったお父様。

それから椅子の後ろに突っ立ったままのライアス様と、その背後に立っているヨアン。

不思議に思っているとエンライ様が入ってきた。

「遅くなってすまん!・・・・・・どうした?座んねーのか?」

と言いつつ、さっと私を抱えて席に運ぶエンライ様。

ブレない男です。素敵です。

私用の子供椅子を自分の椅子のギリギリに移動させ、私を座らさせてから、頭をポンポンと撫でて自分の席に着くエンライ様。

流れる様に、当然のことの様に私に触れていくエンライ様にドキドキが止まらない。

本当に行動イケメンだな!!この人!!

と内心荒ぶっていると、震える様に少年の声が響いた。

「あ、あの、先ほどは申し訳、ございませんでした。...えと、またご一緒させて、いた、だける?機会をくださってありがとうございます。ま、まだ食べる、じゃない、えっと、食事のマナーが出来ませんので、ヨアン殿に、ご指導いただき、ながらでもお許しいただけますか?」

と、ライアス様が真っ青な顔で、時々、横を向いて、耳を澄ませて言葉を紡ぎ、頭を下げた。

ヨアンの口元が動いているので、訂正などを入れているのだろう。

対するお父様は

「うむ、許そう。騒がず、大人しく、ヨアンの指示通りに食しなさい。ここでは多少はマナーの失敗をしても構わない。練習の場だと思って構わない。学びなさい。貴族に生まれた以上、無知は罪だ。学べる機会があるのに学ばぬ馬鹿は弱者だ。弱き者だ。お前の望むのは弱者ではないだろう?」

とお父様が問うと、涙目ながらに頷くライアス様。

それに対し、エンライ様は

「弱者・・・。なるほど、そう言われっとやんねぇ訳にいかねぇよなぁ。遺伝子レベルで《強さ》を追い求めてんだ。男を見せる時だな、愚弟よぉ。」

と、ニヤニヤと意地悪に笑うエンライ様、悪役顔もセクシーで素敵です!


そんなこんなでお食事開始。

あちらこちらから誉め言葉が響き、

「んあぁ~!うめぇなぁ。初めて見る食いもんばっかだが、うめぇんだよなぁ。流石、俺の嫁、俺のミーニャ。」

と、エンライ様から頭を撫でてもらう。

本来なら、こんなのマナー違反なんだけど、ライアス様はそれどころではない。

必死にヨアンの指示を聞き、手を動かしながら、お父様との会話もぽつぽつとこなしている。

手元に集中しながらだが、最初の手づかみで食事しようとした時よりもだいぶまともになっている。

そんなライアス様を見ながら、エンライ様がヨアンに質問をした。

「なあ、どうやったら、その愚弟がそんなに真面目に学ぶようになるんだ?ウチではどうにもならなかったんだぞ?コツとかあったら教えてくれ。」

と。

うん。私も気になる。

そんな私たちの質問に対して、少しキョトンとした幼い顔で口を開くヨアン。


「え?コツですか?う~ん、そうですね、簡単ですよ。人質を取れば良いんです。」

と、笑顔で言い放つ補佐のオッサン。

ん???

人質?何ぞや?

皆の頭上には疑問符が浮かんでいるぞ。

詳しい説明をお願いします、第二のお父様。

皆の視線を感じてか、フフッと軽く笑ってから続いた言葉は

「簡単に言えば、ライアス様の愛馬、フォフィを隠して人質ならぬ、馬質にしてあります。《お前がきちんと学ばないと、お友達のフォフィは馬鍋になりますからね》って宣言しておきましたよ。」

って、笑顔で返答するヨアンさん、サイコパスか?

エンライ様を筆頭に護衛のオジ様方も食事の手が止まった。

勿論、私の手も止まった。

お父様だけが【ハハハッ、簡単で良い手だな。】なんて笑顔でお食事続行されてますけど。


「言ったでしょう?ライアス様は本能で行動、察知してるんですよ。ん~と、確か、エンライ様の時は【家族みんなの首が飛ぶから学んでくれ】って言われて椅子に括り付けられて必死に最低限の事を学んだんですよね?それはエンライ様が【みんなの命を守る為に頑張ることが出来る人】だったからです。でも、こいつ、いや、ライアス様は違います。こいつ、本能で分かってるんですよ。【自分が頑張らなくても、下手なことをしても周囲が助けてくれる。《家族は自分の命は自分で守れる奴等》だ。オレが守る必要はない】って事。実際、そっちの御当主様やエンライ様なんかが優秀であるがゆえに、こいつが問題を起こしてもどうにかなっているでしょう?だから、危機感が無いんです。無知の状態でも自分は何も失わないのを分かってるんです。」

と、ここで一度言葉を切り、ニコニコとわざとらしい笑顔を見せるヨアン。

「なので、ライアス様が唯一の擁護対象としている《フォフィ》を馬質にしたんです。大切な親友のフォフィは《ライアス様に護って貰わないと生きていけない生物》ですからね。食べ物、水、手入れ、寝る場所、馬具、走り込みの場所などなど、フォフィはライアス様がいないと生きていけないですからね。ライアス様が【学ぶのを辞めた時=フォフィの命を諦める時】と言う事ですよ。家族の命と言われてもピンとこなかった、この おバカさんもやっと【やべぇ!!!!!】ってなったみたいですよ。んで、やっとこさ腹くくって、私にマナーを教えてほしいと頭を下げられましてね。1週間ではありますが、詰め込めるだけ叩き込んでみせますよ。」

と、答えるヨアンに、顔を青くしながら、涙を流すライアス様。

おそらくフォフィの事が心配でならないらしい。

「ちゃんと、あ、きちんと、学び、ます、から、フォ、フォフィ、大事に、してくだ、さい。お友達なんです、お、お願い、いたします。」

と、必死に頭を下げるライアス様。

少し可哀そうかとは思うけど、今後、エンライ様の足を引っ張るかもしれない事を考えると、今のうちがまだ修正出来る範囲だと思うので、どうにか頑張ってほしい。

エンライ様も少し眉を下げながらも、ヨアンに軽く頭を下げた。

まるで、自分には出来なかったことを任せて申し訳ない、お前を信用して任せる、弟を頼む。

そんな態度で。

ヨアンもそれを理解したのか、顔を引き締め、エンライ様に頭を下げた。

俯き、そんな無言のやり取りを見ていなかったはずのライアス様が

「エン兄さま、ごめんなさい。今まで、ごめんなさい。迷惑いっぱい、、、ごめんなさい。」

とずびずびと泣いてしまった。

「今から頑張れ。挽回しろ。死ぬ気で学べ。ヨアンを筆頭に、ミーニャやオヤジ、俺や俺の周りの護衛のオッサン共からの【忠告】もきちんと聞け。そうすればもっと強くなれる。もっとお前を大事に思う人間が増える。俺とお前の違い、分かるな?俺の周りには沢山の人間がいる。小言を言ってくれる人間がいる。お前の周りには?ウチの家族とフォフィ、それ以外にいるか?考えろ。マナー以外にも多くの事をヨアンから学べ。」

と、ライアス様の頭を少し乱暴に撫でながら、諭すエンライ様。

エンライ様の言葉に何度も何度も頷くライアス様を見て、周囲には安堵の空気が流れる。

どうにもならない小僧かと思っていたけど、どうにかなりそうで安心した。

それに、ライアス様が来たことでエンライ様を取られるのかもと、嫉妬したけど、エンライ様の【兄】としての姿を見れるのは正直、嬉しい。

私を甘やかしてくれる姿や、お父様達とじゃれてる姿も素敵だけど、弟をどうにかしてやりたい、兄としての立派な姿を見せたいみたいな姿もギャップがあって良い。

新たな一面を見せてくれるエンライ様。

この一点だけは、ライアス様に感謝しなくては。


その後、泣き止んだライアス様はヨアンの指示を聞きながら、必死にナイフとフォークを動かし、お父様との会話を頑張った。

それを優しい表情で見つめ、見守るエンライ様の姿が父親の様で、ドキドキしてしまう。

きっと、私達の子供が出来ても、こんな感じで優しく見守ってくれるんじゃないかなぁ。

なんて、未来を想像して私も微笑ましく思ってしまう。

1週間という短い期間だが、ライアス様に《義姉様》と呼んでもらえるように頑張ろう!!

そう心に決めました。


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