ドタバタ新婚生活。
う~ん、ねむい・・・。
「ミーニャ様!!起きてください!!緊急事態です!!まだ早いですが起きてください!!お願いします!!」
という、侍女の叫び声が夢の中に響く。
「っ!?起きたわっ!!なに!?何事!?」
ヌイールの優秀な侍女が叫ぶだなんてっ!!と、飛び起きた私。
私の目の前には洋服、下着、櫛などの身支度の品々を手に待ち構えている侍女集団が・・・。
「実は・・・。エンライ様方が朝日が昇る前から活動を始めまして・・・。」
と、身支度を侍女にまかせて詳しい話を聞いてみると
『予定よりも早く活動を始めたエンライ様一行。昨日の話通り、補佐のオッサンを連れて狩りに行き、予定よりも早い時間で帰宅。時間が余って暇になったエンライ様は魔獣討伐隊の宿舎に殴り込みをかけ、全員を叩き起こし、そのまま普段の訓練を開始させた。その様子を見ながら、何やらグループを複数に分け、その集団をそれぞれ2人のオジ様方が指導し始めた。エンライ様は全体の管理&突然の不意打ち要員。でビシバシ指導し、そして現在、汗を流す準備をしている。』
との報告。
コレは・・・・。
この後、【食事】という大イベントの発生ではないですか!?
もしや、私がたたき起こされたのって!?
『大至急、ご飯作ってください!!』
って事だよね!?
そう周囲を見てみると、侍女たちからの頷きが返ってきた。
いやぁぁぁぁぁ!!
幸せな夫婦の特権の1回を逃す危機だわ!!
急がないと!!
まさか、そんなに早く活動を始めるとは思わなかった!!
長旅の翌日、しかも大宴会の翌日よ?
もう少しゆったりとすると思うじゃない!?
エンライ様にとっては初めての土地なわけだし!?
って思ったけど、まあ、エンライ様だもんな・・・。
誰も行った事のないダンジョンを突き進んでる人だもの。
それにあの性格だし、初めての土地とか全然気にしないんだろうな・・・。
逞しくて素敵だわぁ~。
って、違う違う!!惚れ直してる場合じゃなかった!!
うちの保存庫に残っている食材を思い浮かべながら、何を作るか組み立てていく。
そうしている間にも侍女たちは全力で手を動かしてくれて素早く支度完了。
「終わりました!キッチンへどうぞ!!」
の掛け声で、廊下を全力ダッシュ。
しようとしたら、
「こんな朝早くに申し訳ございません、ミーニャ夫人。」
「坊の為に直ぐに動いてくださる姿を拝見できて有難く思います。」
と、エンライ様付きの2人のオジ様が待ち受けていた。
2人の表情はどこか嬉しそうな、優しい顔をしていた。
「おはようございます。エンライ様のためなれば、徹夜明けであろうとも、最高の朝食を食べていただけるように尽力いたしますわ!それと、私にももっと砕けた口調でお願いしても?」
ってか驚いた!!
扉の外にいる気配なんてなかったから調理場まで走るところだったよ、危なかった。
2人のオジ様は私を護るようにとエンライ様に指示されてここで見張りをしていたらしい。
「では、坊に対してほどではありませんが、崩させてもらいます。これから護衛として周囲を護ることになっているので、入室禁止の場所以外は我らも共に行動させてください。」
とのことなので、ではでは、共に調理場までGO!!
誰にも見られないことを願って、全力で早歩き!!
無事に到着したところで、オジ様方には入室禁止を告げ、外に待機してもらい、すぐに料理長に指示を出す。
「保存庫にある魚は?それならこの厚さに切って!キノコは!?それとこれで、魚と一緒にバターの包み焼の準備お願い!!こっちは・・・」
と、指示を出しながら、自分も手を動かす。
エンライ様とお父様と第二のお父様の分は私が作るから!!
ちなみに、エンライ様付きのオジ様方と魔獣討伐隊幹部の分は料理長が担当。
更に、魔獣討伐隊の他の方々の分は副料理長以下のメンバーに後で作って貰うことになる。
どんどんと時短で副菜、スープを作っていると、補佐のオッサンが走ってきた。
「お嬢様!おはようございます!これ、エンライ様が狩ったお肉です!お嬢様に料理してほしいとのことで、運んできました!!」
と、ここで今日の分のお肉の追加が入りました。
「おはよう!任せて!」
そのお肉を受け取り、素早く切り分け、おろし煮にしていく。
器に盛りつけていると、あちらこちらからザワザワと声が聞こえる。
一般兵の人達もお腹がすいたらしく、いつもより早い時間なのに食堂に長蛇の列ができている。
副料理長たちもてんやわんや。
それを横目にようやく完成!!
既にエンライ様が待っているという部屋にお運びします。
運んでもらう間に、面倒だけど私はお着換え。
料理するときの恰好ではなくて、ちゃんと朝食用の洋服に着替えます。
勿論、料理が冷めない様に、急いで急いで支度を終えました。
急いで食事の部屋へ行くと・・・。
《ぎゅるるるるるる》
と、おそらくエンライ様のだと思われるお腹の音が響いておりました。
「お待たせして申し訳ございません。皆様、おはようございます、朝ごはんにしましょう!」
入室した瞬間にそう宣言した私は間違ってない。
貴族としては間違いだろうが、エンライ様の妻としては間違ってない。
だって!!
凄く切なそうな顔してるんだもの!!
眉が若干、八の字になってて、寂しい子供みたいな顔してるんだもの。
周囲がオジ様方だけだから気を抜いているんだろうけど、とてつもなく可愛い!
ニヤケそうになる顔を必死でこらえていると、私に気づいたエンライ様が立ち上がり、いつものヒョイッくるっからのほっぺにチューが・・・。
朝から嬉恥ずかし照れちゃいます!!
「ミーニャ!!わりぃな。聞いた話だとまだ寝てる時間なんだろ?起こしちまってすまん。本当はもっと遅く起きる予定だったんだがな・・・。何年も続けてきたルーティンはそうそう変えられなくてな・・。そのまま動いた結果が《ぎょるるるる》とまあ、腹が減ってな。無理なら諦めるか・・・とも考えたんだが、作ってくれたんだってな。嬉しいぜ。凄く。」
と、どこかばつが悪そうな顔をしながらも、軽く添えた手で頭を撫でてくれるエンライ様。
「大丈夫です!むしろ、起こしてもらえない方が悲しいです。【1日3回の幸せの確認】ですもの!!夫婦の愛を噛み締める大切な時間を1回逃すことになるんですから! 朝からお疲れ様です。今日も沢山の食事を用意させていただきましたから、お腹いっぱい食べてくださいね。ささ、温かいうちにお召し上がりください。」
そういうと、私を隣の席に下ろし、膝をついて目線を合わせてから頭を優しくなでて
「ああ、ありがとうな。お前からの愛を噛み締める、大事な時間だもんな。味わって食うからな。」
と、甘い言葉を聞くのと同時に私が赤面した。
私の旦那様、イケメン過ぎる。
イチャイチャしていると、未だに頭を優しく撫でているエンライ様に声がかかった。
「冷めるぞ?良いのか?夫婦の愛が冷めていくぞ?早く食わなくて良いのか?」
と、いつの間にか部屋に入ってきたらしい、お父様が既にフォークとナイフで食事を開始していた。
「ああ、相変わらず美味いな。」
と、私には微笑みながら感想を言ってくれるお父様、好きです。
「って!?うお!?いたのかよ、オヤジ。食う!食う!・・・にしても、嫌な言い方しやがって。」
と、ぶつぶつ文句を言いながらも《いただきます》と両手を合わせて、食事を開始するエンライ様。
「んあ~、美味い。全部初めて食う味だな。ミーニャに出会うまでに食ってきた飯は何だったんだろうな?こんなに差があるなんてよ・・・。お前が俺に食わせてくれるのは温かくて、ジューシーで腹にたまる様な、俺の事を考えてくれてる、最高の飯だよな。」
と、嬉しそうに頷きながら、ゆっくりと口に運んでいく。
対してお父様は
「美味いのは当然だ。ミーニャの手作りだぞ?私は昔から食べていたから慣れ親しんだ味だがな。・・・嫌味の一つも言いたくなるわ。私は領主としての仕事もあるんだぞ?なのに、朝からあんなに働かせて・・・。」
と、どうやらエンライ様は魔獣討伐隊の皆以外にお父様もたたき起こしたらしい。
凄い行動力です。そして、本当に遠慮が無くなっていて、凄い。
「モグ、そりゃ、しょうがねぇだろ。オヤジが討伐隊の頭なんだからよ。おっ、ミーニャ、この肉うめぇ。さっき獲ったヤツか?あっさりしてて柔らかくて良いな、初めて食ったわ。この味。良いな。うめぇ。」
と、美味しいものがあると直ぐに褒めてくれるエンライ様、素敵。
そう和気藹々と朝食を終えた後、コーヒーを飲みながら今後の予定を話し合う。
この間にオジ様方と補佐のオッサンは数人に分かれて今から食事をとる事に。
「領地の案内なんかはそのうち、補佐のオッサンでも引き連れて見てくるから良い。それよりもよ、魔獣討伐隊、思ったよりも深刻だな。マジで少数精鋭。若いのが育ってねぇのが何より痛ぇわ。使えるレベルの奴らは爺が多い。自分の事で一杯いっぱいな感じだな。教えるのも基礎だけで、組手とか実際の対戦方式、魔獣の詳しい知識が少ないのがイマイチな理由じゃねぇか?まあ、面倒見れる奴が少ないせいだとは思うが・・・。勿体ねぇな・・・。後、奇襲に弱い。俺からの横やりに耐えられねぇ奴が多かったのが気になる。俺の私兵が来たら、合同でガンガン扱くぞ?ウチの若い奴の方が、こっちの若い奴等よりも柔軟に対応できる。実力差で組を分けて、実戦あるのみだな。」
と、エンライ様が今後の魔獣討伐隊の育て方について、お父様にお伺いを立てる。
それに対してお父様は、さも当然の様に
「好きにしていい。俺は魔獣討伐隊の最高責任者でもあるが、領主の仕事が忙しいからな。今後はお前に任せる。正直、俺も補佐も年だしな。お前が仕切って若いのを育ててくれることに期待している。とにかく、やってみろ。問題があれば言え。ある程度の融通はきかせてやる。ただ、ミーニャの夫として、ヌイールの時期領主の婿として、恥じぬ行動を心掛けろよ。」
と、エンライ様に魔獣討伐隊の全てを任せる様な発言をなさる。
これにはエンライ様も驚いたようで
「良いのかよ?こんな簡単に、すぐに、俺になんか任せて・・・。どうなるか分かんねーぞ。」
と、困惑気味だ。
「構わん。俺は忙しい。ミーニャに領主の仕事を教えねばならんし、領地を空けて、他の領主との会合や領地の偵察にも赴かなければならん。お前には魔獣討伐隊を任せる。正直な話、会合などには補佐も連れていく時が多い。魔獣討伐隊は重要だが、領地の運営も重要だ。先ほどお前に打ちのめされていた魔獣討伐隊の幹部達には話を通しておいたから、そいつらと連携してお前が中心となってまとめ上げろ。魔獣討伐の遠征には最初の数回は俺か補佐が付くが、それ以降はお前が最高責任者だ。・・・あと、言いにくいのだがな、その、新婚旅行はミーニャが15歳になってからにしてくれ。」
お父様の最後の言葉に、余裕の表情でコーヒーをすすっていたエンライ様がコーヒーを吹いた。
私も紅茶のカップで歯を強打した。
「んな!?はぁっ!?んでだよ!?確かに、突然の婚姻で用意に時間はかかるだろうが、もっと早く行けるだろうが!!手は出さねーし、新婚旅行ぐれぇ行ってもバチは当たんねぇだろう!?15ってなんだよ!?魔獣討伐隊ならもっと早く形にしてみせるぞ!!っつーか駄目な理由!理由はなんだ!?」
と、食って掛かるエンライ様にお父様が気まずそうに答えた。
「いや、普通であっても用意に数か月はかかる・・・。が、今回はな、その、なんだ・・・。人手不足もあるが、元妻の嫁ぎ先がな、嫌がらせをしてくる可能性がある。あそこの公爵とは犬猿の仲でな。エンライを婿に入れたのも面白く思わぬだろうし、我が家の血筋には後はミーニャのみだからな。ミーニャを狙って何か仕掛けてくるかもしれない。必要時以外での遠出はしばらく止めた方が良いだろう。それにな、エンライ。今のミーニャと周囲を警戒しながら短期間の新婚旅行に行くのと、人材を育て、ヌイールを周囲の人間に任せた万全の状態で、15歳になったミーニャと悠々と新婚旅行に行くの、どちらが良い?」
と、聞かれたエンライ様は
「あ~、魔獣討伐隊を育て上げて、俺やミーニャがいなくても大丈夫な状態にしねぇとミーニャが安心して旅行に行けねぇって話でもあるんだよな?・・・・・・・・・・15、15で良い。15まで待つ、オレ、ガンバル。」
と、遠い目をしたエンライ様が答えた。
上記の会話以外にも2人のアイコンタクトなど、様々なやり取りが目の前で行われ、結果、新婚旅行は私が15歳になってからに決定しました。
誰も私に意見は聞いてくれなくて少し寂しいです。
が、魔獣討伐隊もそうだけど、王都の方の使用人もいなくなったし、色々な面で人材が足りなくなった今、新婚旅行に行っている場合じゃないのも事実。
がっちりと人材を確保してから楽しみましょう。そうしましょう。
そう考えていると、オジ様方や補佐のオッサンが食事を終えたらしく
「そろそろ仕事に戻ってくださ~い。お嬢様も、お仕事溜まってますからね。」
との言葉で解散。
エンライ様にぎゅ~っと抱きしめてもらって、自分に与えられた執務室でお仕事開始です!!
領地から集まっている資料をお父様が見やすい様にまとめたり、金額の間違いがないか計算のチェックをしたり、必要に応じてハンコを押したり、質問してくる文官に出来るだけ分かりやすく答えを返したり。
時間はどんどん過ぎていく。
終わった!!そう思った瞬間、10時の鐘が鳴った。
うわああああああ!!
なんてことだ!?
エンライ様が来てしまうじゃないか!!
私が作った出来たてのお茶菓子でお迎えしたかったのに!!
・・・・・。
しょうがない。
ここは少し悔いが残るが。
手持ちのお菓子からだそう。
保存袋に入れてある焼き菓子の中から、私が作ったマフィンを出して、お茶の準備をする。
お湯が沸くと同時に
「ミーニャ!来たぞ!!」
と、エンライ様が執務室に入ってきた。
侍女にお父様達の執務室へのお茶出しを任せて、私はエンライ様へのお茶を入れる。
「お忙しいのに来てくださってありがとうございます。こちらにお座りください。お茶も丁度いい温度だと思います。今日は既に焼いてあるお菓子なのですが、今度はもっと早く仕事を終えて、出来立てのお菓子を出してみせますね!!」
と、気合を入れていると
「おう、ミーニャの手作りの菓子も嬉しいけどな、無茶はすんなよ?茶入れてもらえるだけで十分だしよ、そもそも3食作って貰うんだからよ、大変だろ?菓子は市販ので良いぞ?」
と、エンライ様は気遣ってくださった。
「・・・はい。では、暫くはお言葉に甘えて、料理長が用意したお菓子や、前日に私が用意したお菓子を出させていただきます。今は溜まった分の仕事があるので余裕がありませんが、普段はもう少し時間に余裕があるので、暫くしたら3時のおやつ位は自分の手で温かいものをお出しできるように頑張ります。エンライ様に食べていただけると思うと嬉しいので、頑張ります。」
「・・・おう、無理しねぇ程度にな。俺もミーニャの手料理が食えるの嬉しいからな。ありがとうな。」
と、少し照れた様子で、私を膝にのせてくださるエンライ様。
今回も用意したマフィンを全て食されたエンライ様。
本当に動いた分、疲れた分、食べることで体を維持しているみたい。
今後のエンゲル係数ヤバくなりそう。
急いで冒険者ギルドの方に色々売りつけて稼がないと。
焼き菓子とか、おかず系マフィンとかこの世界にはないから、稼ぐなら今のうち。
そして、稼いで稼いで稼いで、エンライ様の食費も稼いでみせる!!
そう心の中では息巻きつつ、2人でお茶を飲みながら、別れてからの報告をしあう。
暖かな時間が過ぎ、まさに幸福なひと時と言えるだろう。
そんな瞬間。
《ヒヒ~ン!!》
聞いたことのないお馬さんの声が響いた。
なぜに??
と、不思議に思っていたら、執務室の扉が開いた。
「坊!!外にいんの、末っ子じゃねぇか!?」
焦った様子のオジ様は窓の外を指さす。
無言のエンライ様はそっと私を膝から下ろし、窓を開けた。
すると
「あー!!!!!!!!!エン兄さまー!!!!!!みっけた!!!!!」
とクソデカボイスが響いた。
何だか、また一波乱起りそうな予感がします・・・・。




