素材回収
フィアが問いかける。
「素材回収ってどうするの?」
「魔物の死体を解剖して、持ち帰れる物はなんでも持ち帰る。邪魔になったら捨てる。なるべく素材として優れた物だけを厳選するんだ。鞄の容量は決まっているからね」
「なるほど……」
「で、討伐が終わって隊が解散したら私たちは森に戻ってくる。巨大な風呂敷を用意しているから、冒険者たちが捨てた素材をそこに集めて纏めるんだ」
「あっ……『なんでも収納』」
「そういうこと」
「解剖……解剖かぁ。グロテスクだよね?」
「そのうち慣れるさ」
そう言って、アインスはツヴァイたちの倒したストーンリザードに近づいていく。砕けた装甲と中身との間に短剣を差し込み、梃子の原理で器用に剥がしていく。
「この石……」
アインスは装甲の破片を手にし、目を丸くして驚く。
「どうしたの、アインス?」
「持ってみろ」
フィアは破片を受け取る。
「か、軽い!」
「軽すぎる。あり得ない軽さだ。耐久力は大したことないが、これは金になるぞ」
装甲を剥がしていくと、中からつるつると光沢のある皮膚が現れる。どうやら『石の装甲』は爬虫類における『鱗』のようなものらしい。
ただし蛇のように鱗と皮膚は一体になっていない。剥き出しにしてしまえば簡単に刃が通る。
すべての装甲を剥がしたところで、周囲の冒険者たちが集まって素材を拾い上げていく。主以外は『分配』が決まりだ。
能力を解除したリタがフィアたちの元に歩み寄ってくる。
「すごいですね、ナンバーズのみなさん」
「リタさん嫌いだから話しかけてこないで」
「ぐ、ぐぬぬ……! 能力見せたじゃないですか!」
「あれだけじゃわかんない」
「はぁ……わかりました。仲直りしましょう、フィアくん。能力名だけ教えます。ボクのギフトは『霊的付与≪天使≫』……詳しい効力はボクもまだ研究中なんです」
「天使……そのままだね。本当に天使みたいに綺麗だった」
「そ、そうですか? ありがとうございます。フィアくんのギフトはどんな能力なんですか?」
「そんなの教えるわけないでしょ」
「不平等!?」
「でも仲直りする……意地になってごめんなさい」
「あっ、いえ、そんな」
「リタさん、敬語使わなくていいよ。僕の方が歳下だと思うし」
「そ、そう……ですか。あはは、慣れないね」
そんな2人のやり取りを見てアインスは怪訝そうに目を細めるが、すぐに解剖作業に戻る。
そのアインスにドライが声をかける。
「……気に入らない?」
「別に」
「……不機嫌そう。やきもち? もちもち?」
「もちもちじゃないよ。ギフト保持者に気を許すのは危険ってだけ」
「……もちもちだったら可愛かったのに」
「私にそういうのは期待するだけ無駄だ。それより見てくれ、ドライ」
「……?」
ドライはアインスの手元──短剣で解体されていくストーンリザードに視線を向ける。
「内部構造は何から何までトカゲそっくりだ。口から胃までが直線的。だから飲み込んだものはすぐに胃に送られる。胃の中には消化途中の生き物や色んな異物が入ってるね」
「……なんでも食べる」
「『異物を取り込んでも吐き出さない』……使えるかどうかわからない情報だけど、一応覚えておこう」
「……他に素材になりそうなものはある?」
「うーん、とくにないな。主に期待するとしよう」
「……うん」
拾える情報は、人によって異なる。
ツヴァイとドライは、ストーンリザードの動きや癖を正確に分析できていた。今後もハメ技が失敗することはないだろう。それはつまり、相手がストーンリザード1匹であれば『確実に勝てる』ということだ。
フィアは、妙な異変に気づいていた。
「このあたり……地面に落ちてる木や草が枯れてる」
リタがフィアの後ろから地面を覗き込む。
「本当だ。枯れてるというより腐ってるね。どうしてだろう?」
腐敗した草木のすぐ隣には、ストーンリザードの死体。ルーカスが倒した個体だ。
フィアは問いかける。
「ルーカスのギフトが原因なのかな?」
「いえ。木が腐るのは菌が原因だから、むしろ水分や酸素が必要なはず。火で木が腐ることはないと思うよ」
「だとすれば……」
そして、アインスだけはまったく別のことを思考していた。
……おかしい。
この討伐隊には『妙なやつら』が混じっている。
威信を保つために4匹の魔物を取り合うべく闘う冒険者たちの中に『ただ静観していた』冒険者が数人いた。
それだけなら私とフィアも同じだ。魔物を観察していたか、あるいは主との闘いに備えて体力を温存していたか。
しかし、そいつらは『素材すら回収していない』のだ。先ほどから、ただ突っ立っているだけ。
……まるで別の目的があってこの討伐に参加したみたいじゃないか。
1人は『白銀の翼』のマントの男。
他にもう2人、こいつらはどこのギルドかもわからない。ただ2人でひそひそと話している様子から、仲間同士であることはわかる。そのうちの1人はツルを操ってストーンリザードを拘束した男だ。
そうだ。思い返してみれば、あれも『魔物に襲われたから能力で退けただけ』で、積極的な戦闘ではなかった。
「この討伐……ただでは終わりそうにないな」
必ずやり遂げてみせる。
仲間は誰1人として死なせない──




