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暴力


 ブラウという男は、自分の考えを曲げたことがない。彼の夢をバカにする者は、すべて力でねじ伏せてきた。

 仲間が平穏に暮らせる『帝国』を作り上げる。子どもじみた妄想に思えるかもしれないが、彼の仲間にそれを疑う者は1人もいない。

 強さとはカリスマそのものだった。

 ハンナ、ゲオルク、カール。

 全員やられた。それもヘンテコに。


「どうだ弱いだろ、俺のギルドは」

「さぁ、どうだかね」

「いいんだ別に。俺は仲間に強さなんて求めちゃいない。何故かわかるか? 俺が1人いればすべてが事足りるからだ」


 ナンバーズの3人がブラウの前に立つ。

 遠目に、レイスとフィアがその様子を見守る。


「随分な自信だね。だけど、その慢心がまねいた結果がこれだよ。わざわざ仲間がやられるのを待つ意味はなかったはずだ」

「いいや、意味ならあった。仲間の弱さを確認できたからだ。おかげで俺は俺の使命を再認識した。俺は最強でなければいけない。そして……仲間のためにはお前らヘンテコを皆殺しにする非情さも持ち合わせなければいけない」

「非情という自覚があったんだね」

「当たり前だ。ヘンテコも人間だろ。痛めつけるのは非情に決まっている。だけどよ、それがなんだ? みんな心のどこかでは思ってるはずだ。自分と、自分の周りにいるやつらが安寧(あんねい)ならそれでいいと」

「君みたいな人ばかりだから、イジメも差別もなくならない。誰かが変えなきゃいけないんだ」

「それを変えるのがお前らの使命か?」

「そういうこと。私たちは非公認ギルド、ナンバーズ。活動家のようなものと思ってくれて構わないよ」

「活動家が革命家になれるかは結果が決めることだ」

「その通り。私たちも結果しか求めていない。必ず世界を変えてみせる」

「暴力でか?」

「暴力でだ」

「いい答えだ。民主主義でない世界でそこから目を逸らす人間に革命は起こせない。暴力をなくすのに、暴力は必要不可欠だ」

「私の仲間は、君たちみたいな理不尽な暴力は振るわない」

「悲しいな」

「は?」

「お前の言葉を聞いた俺の感想はたった1つだ」


 ブラウが立ち上がる。


「──暴力が弱すぎる」


 そして、その体から激しい赤色の電気が放たれる。

 ゲオルクやカールとは比べ物にならない膨大な量だ。

 3人はすぐに戦闘態勢に入り、武器を構える。


「馬鹿が。闘いにすらならねぇよ」


 やがてブラウの体から電気は消えていく。


 アインスは眉をひそめる。

 ……何も起きない。

 いや、そんなはずはない。やつは間違いなくギフトを発動させたはずだ。

 一体、何が。


 ドサッ、という音が聞こえて、アインスは思考を止める。

 音の方向を振り返ると──ツヴァイがうつ伏せで倒れていた。

 その腹部から血を流して。


「ツヴァイ!」


 2人は慌てて彼女の元に駆け寄る。

 アインスは自分の服を引きちぎり、ツヴァイの腹部に止血用としてキツく巻く。


「……ツ、ツヴァイ」

「大丈夫、息はある。ドライはここでツヴァイを守りながら、隙を見て弓矢でやつを狙ってくれ」

「……わ、わかった」


 出血箇所には傷があった。おそらく正面から、細身の剣による刺し傷だ。

 間違いなくブラウの持っていたものだろう。

 しかしブラウはあの場から動いていない。

 遠隔攻撃……いや、剣は(さや)に収まったままのはずだ。ならどうして──


「まずは1人」

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