vsゲオルク『あたしの価値』
ゲオルクは混乱する。
ギフトを発動させたオレが、ヘンテコを相手に負傷している?
いや、最初から──最初からおかしかった。
最強と恐れられるエーデルブラウが、ただのヘンテコ保持者が考えた奇襲作戦にハマり早々と仲間が1人やられ、能力に怯え、そして今、追い詰められている。
あり得ない事態が立て続けに起きている。
ギフトは、神より授かりし能力だ。
こんなことがあってはいけない。
たかがヘンテコにやられるなど──
ギフトという絶対的な力を信じて生きてきたゲオルクにとって、この状況は許されざるものだった。
動揺し、頭に血が昇る。
「……がああああ!」
興奮状態となり、目の前の脅威を排除しようと剣を強く握る。
ツヴァイ。こいつは生かしてはおけない。
剣を振り抜くべく、足を大きく踏み込む。
その瞬間を待ち続けていた人物がいた。
「っ!?」
ゲオルクは何かに足をとられる。
いや、違う……足が地面にめりこんだのだ。
グチャり、と。
乗用車でなく専用の馬車を使わなければいけない理由。
この一帯の土は柔らかく、雨が降るとぬかるみができる。
ゲオルクはそのぬかるみに足をとられ、体勢を崩した。
興奮状態でなければ、ここまで大きく足を踏み込むことはなかったかもしれない。
……いや、おかしい。
昨日から『雨なんて一度も降っていない』はずだ。
ただ1人、何が起きているのかを理解したフィアは、この状況を作り出した人物へと視線を向ける。
「……姉さん」
ヘンテコ『水分付与』……物体に水分を与える能力。
何度も見てきた、大好きな姉さんのおまじない。
ツヴァイが飛びかかる。左手を伸ばし、ゲオルクの大剣を強く掴む。
刃が手のひらに食い込み、血が噴き出す。
それでも構うことなく、ツヴァイはそのままゲオルクの体を押し倒す。
次いで、その手から紫色の電気が放出される。
「ぐっ……何をする気だ!?」
自分の上に乗っかるツヴァイの体を、ゲオルクは殴りつける。
拳に大きく反動がかえってくる。
──5秒間の絶対防御。
それでもツヴァイの体を引き剥がすべく、何度も何度も殴りつける。
無敵状態であっても、今まで与えられたダメージが消えるわけじゃない。突き飛ばされまいと力を込めれば、当然、ダメージを負ったツヴァイの全身は悲鳴をあげる。
「離せ!」
「絶対に離さないっ……!」
より一層強く、刃を掴む手に力を込める。
「あ、あたしには……あたしにはこれしかないのよっ! あんたたちみたいな恐ろしい連中に勝つには……命をかけるしかない!」
どれだけ自分が恵まれなくても──
「消えろ……」
どれだけ世界に蔑まれても──
「消えろ……!」
あたしの価値はあたしが決める──
「消えろぉぉぉぉお!!」
──5秒。
電気が弾け、紫の閃光が走る。
やがてそれは空気に拡散していき、ゲオルクの持つ大剣とともに、嘘のように消えて無くなる。
「クソッ! どけぇ!」
「うぐっ……」
絶対防御が解け、ゲオルクの拳がツヴァイの体を突き飛ばす。
地面を勢いよく転がり、血を吐きだす。
それでも彼女は立ち上がる。
「これが……お前の能力か」
「……ヘンテコ『なんでも収納』……もうあんたの武器は戻ってこない」
「何故そこまでして闘う」
「……あたしは困ってる人がいたら助ける……誰かのために生き続ける……『あたしが生まれてきたことには意味がある』って、いつか胸を張って言いたいから……!」
「そのボロボロの体で、身体強化したオレに勝てるのか?」
「……武器がなければリーチも火力もこっちが上よ…………あたしは絶対に負けない」
フィアとレイスが息を呑む。
しばらくの静寂ののち、ゲオルクとツヴァイの2人が同時に駆け出す。
目の前の敵を打ち倒すべく──
武器を失ったゲオルクは拳を、
ツヴァイはその大剣を、
振り抜いた──
互いの体が相手の脇を通過し、背を向け合う。
対立する信念をかけた一撃。
「…………見事だ」
ゲオルクの左肩から右脇にかけて、その直線から鮮血が散る。
力を失い、そのままゆっくりと前方へと倒れる。
「ツヴァイさん!」
足をふらつかせるツヴァイの体を、駆け寄ったフィアが抱きとめる。
「……ふん。呼び捨てでいいわよ。あたしたちはもう仲間なんだから」
「……うん。ありがとう、ツヴァイ」
エーデルブラウ隊員・ゲオルク。
vs
ナンバーズ戦闘員・ツヴァイ。
「……別にあんたのためじゃないんだから」
──勝者、ツヴァイ。




