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終わる世界の夢見人  作者: 猫子


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第二十六話 最後の戦い

「もう手心や遊びはなしよ! 死になさい!」


 白面が空中で《次元の杖》を構える。

 私も彼女へと《次元の杖》を向けた。


「アリスとリシェルごと、高次元の彼方に消し飛びなさい!」


 白面の背後に、六つの次元の裂け目が生じた。


 大丈夫だ。

 私の未来の姿の一つが、白の魔女ルーンなのだ。

 彼女と同じだけの潜在能力を有しているはずだ。

 もう、圧倒されたりなんてしない。


 私も背後に六つの次元の裂け目を浮かべた。


「なんですって!?」


 頭を膨大な情報量が行き来する。

 知恵熱で焼き切られてしまいそうだ。


 各々の生み出した裂け目から飛び立った大量の小鳥が、互いの中間地点でぶつかり合った。

 小鳥達は次々に破裂し、周囲に球形の高次元界を齎して互いを喰らい合っていく。


 白面が表情を歪ませる。


「……有り得ない、この時点での私が、私に並ぶなんて! 頭にダメージが入って多少演算が鈍っているとはいえ、こんなことになるわけがない!」


 白面の素顔を見て、私の奥底に封じられていた戦争の記憶の多くが戻ってきた。

 今となっては、白面の哀しみや狂気の、その一端を理解することだってできる。

 それに伴い、《次元の杖》に関する多くの知識も取り戻すことができていた。


 だが、それだけではない。

 私は私の背に、私を命懸けで庇ってくれた、リシェルとアリスの想いを背負っている。

 これは白面にはないものだ。

 同じルーンだったとしても、白面と私は同一の存在ではない。


「力押しできないのなら、技量の差を教えてあげるわ!」


 白面の姿が数式に包まれて消える。

 瞬間移動だ。

 現れると同時に魔法を放ち、私の隙を突いて攻撃するつもりだろう。


 だから、私もそれに合わせて瞬間移動を使って空間の端へと移動した。

 現れた白面は、一瞬私を見失っていた。

 私が瞬間移動を使うなんて、思ってもいなかったようだ。


 私は白面の足許に数式を浮かべた。

 床を突き破り、木の根が白面へと伸びていった。


「くっ!」


 白面が宙へと飛び上がり、そのまま空中を飛ぶ。

 そこで安心したのが、動きが遅れた。

 大きく伸びた木の根が、白面の足を穿った。


「がぁっ!」


 白面は宙で身体を回すが、すぐに体勢を取り戻した。

 しかし、彼女の左足は血塗れになっている。


 私は白面の上方へと瞬間移動した。

 白面は素早く私へと《次元の杖》を向ける。


「有り得ない……こんな怪我のせいで、ただのルーンに後れを取るなんて……!」


「私は、貴女の知っている私じゃありません」


「なんですって!」


「過去の記憶を共有していて、身体の造りを共有していて、私のこれまでの生活を観察して……。でも、過去の記憶はただのコピーされたもの。貴女は私の生活を見ていたみたいだけど、それは私として同じ生活を送ったわけじゃない」


「だから、なんだっていうの!」


「だから見誤った。リシェルが心を持っているなんて思いもしなかったし、アリスがあの重傷を負った中で私を助けようとするだなんて思わなかった。……そして今、貴女は私が自分の力に追いついてきていることに、怯えている。私は貴女じゃない、私は私!」


「ちょっと出し抜けたからって、図に乗らないで頂戴! その程度で、私に少しでも追いつけたつもりなの?」


 私と白面は同時に《鏡色の小鳥》を展開した。

 互いに生み出した次元の裂け目より、大量の小鳥が相手へと迫る。


 小鳥の衝突が繰り返され、大量の小鳥が喰い合って消滅していく。


 残ったのは、私の放った最後の一羽の小鳥だった。


「嘘でしょう、こんなはず……ないのに」


「私は、リシェルとアリスの想いを背負ってるの! 同じポテンシャルを持っているっていうのなら、私は、死なない身体を持て余して、惰性で暇潰しのために戦っている私なんかには絶対に負けない!」


 小鳥が破裂し、白面がそれに巻き込まれた。

 小鳥が破裂したことによって球状に光が展開される。


 光が消え去った中では、白面が《次元の杖》を構えて浮かんでいた。

 身体が半透明になっている。

 息を荒くしており、顔は汗だらけだ。

 寸前で、透過の回避が間に合ったのだ。


「フ、フフフ、初めから、私にこれがある以上、私は戦いで死ぬことはないのよ。貴女がどれだけ強がったところで、こればかりは私が終末戦争の後に開発した《次元の杖》の力だから、真似することだってできやしないわ」


 白面が勝ち誇ったように口にする。


 この透過の魔法は本当に厄介だ。

 何か弱点があるはずだとは思っていたが、どうやら使用に大きな制限もないらしい。

 身体への負担も、《鏡色の小鳥》の方が遥かに大きかったはずだ。


 一応、この魔法を使っている間は他の魔法を発動できないらしい、ということは戦いの中でわかった。

 だから相手が攻撃に出てきたところの不意を突けば、これまでのように攻撃を当てることは不可能ではない。

 だが、それは同時に、相手が逃げに徹したら手出しできないということを意味する。


「本当に驚かされたわ。追い込みすぎたルーンが、ここまでのポテンシャルを急激に引き出すなんてね。貴女はとても興味深い私よ。ここは生かしておいてあげる。でも、頭を修復したら……次こそ、貴女を捕まえて、また私のものにしてあげるわ」


 私は瞬間移動で白面のすぐ傍に移動して、《次元の杖》を掲げた。


 白面の浮かべている数式に干渉して、透過の魔法を崩しにかかったのだ。

 できるかどうかはわからないが、勝機はこれしかない。

 万全になった白面が本気で掛かってくれば、私では太刀打ちできない。


「はぁっ!」


 私は《次元の杖》を振り下ろす。

 数式が途切れ、色褪せて散っていった。

 同時に、白面の姿が色を取り戻していく。


 白面が呆然と口を開ける。


「こんな、ことって……貴女は、どこまで……」


「……さようなら、私の未来だったかもしれない私」


 私は《次元の杖》を大きく振るい、白面の頭部を打ち抜いた。

 大きな打撃音が響く。

 白面の身体が大きく揺れ、浮遊を維持できなくなって地面へと落ちていった。


 落下の途中で白面は《次元の杖》を手落とした。

 いくら最強の女王(クイーン)とはいえ、あれがなければただの人間と変わりない。


 白面が床に背を打ち付ける。

 身体を曲げて激しく咳き込み、血反吐で床を汚した。


「ア、アハ、アハハハハハハハハハ、ハハハハハハ!」


 白面は空の私を仰ぎ、大声を上げて笑い始めた。

 私にはそれが泣いているようにも見えた。

 これまでも彼女は、ずっと泣いていたのかもしれない。


 白面の顔からすっと表情が消える。

 最後にもう一度大量の血を吐いて自身の顎と衣服を汚し、それからぴくりとも動かなくなった。

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