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蜥蜴の仮面


 キルケはまるで自らを死に追いやるように自滅の道を突き進む。

 体の傷は数えきれず、溢れ出す血液は留まることを知らない。

 人体が内包する総量をはるかに超えた血液が溢れ出す。

 血が噴き出すたび傷は開き、体には負担が掛かる。

 これ以上、戦いを長引かせるわけにはいかなかった。


「がぁッ!」


 血液の触手が肩を裂く。

 脳を焼くような強烈な痛みに意識が飛びそうになるのをぐっと堪え、更に前へ。

 脇腹が抉れ、指が欠け、腕がへし折れ、顔面が削れる。

 それでも前へ前へと突き進む。

 体は損傷した瞬間から再生していた。

 犬の仮面を蜥蜴へと変更し、自らが傷つくことを厭わず、キルケの間合いに踏み込む。


「そこまですんのかよ」


「当たり前だろ」


 蜥蜴の仮面を外し、キルケの顔面に押し当てる。

 出血多量でもはや動けないキルケにこれを回避する方法はない。


「これでスキルはもう使えない」


 キルケのスキルは体に傷口がなければ効力を発揮できない。

 血液の放出口はすべて蜥蜴の仮面による再生力が塞ぐ。

 血の触手たちは根元から断ち切られたようにして液体に回帰した。


「仕上げだよ」


 蛇の仮面を被り、キルケを毒の触手で覆い、即座に一角獣の仮面を被る。

 角の槍による浄化で毒の触手が結晶化し、キルケの身動きを封じた。


「はぁ……疲れた」


 地べたに座り込み、一息をつく。

 蜥蜴の仮面のお陰で傷は癒えてるけど、精神の摩耗具合が酷い。

 立ち上がるのさえ億劫だ。


「……お前、俺を恨んでないのか?」


「恨んでないと言えば嘘になるし、キルケのことは嫌いだよ」


「ならなんでテメェが傷ついてまで俺を助けようとしやがるんだ」


「生きて罪を償うべきだとか、目の前で死なれるのは目覚めが悪いとか、理由は色々あるけど……そうだな。俺はキルケのことが嫌いだけど、やっぱりキルケも青春の一部なんだ」


「あ?」


「思い出に穴を空けたくないんだよ、俺は」


 裏切られるまでの日々は間違いなく青春だった。

 今はもっと若い青春を見守っている。


「下らねぇな」


「価値観が合わないのは今に始まったことじゃないでしょ」


 ガラガラと音が響いて、幾つかの足音が響く。


「シンリさん!」


「やあ、クク。元気?」


「もう! 一人で先に行くなんて!」


「ははは、ごめんごめん」


 駆け寄って来てくれたククは怪我はないかと切れた戦闘服を捲ったりしている。

 その間に三人も来たようで、この有様を見てため息をつく。


「水臭いぞ、シンリ。一人で格好つけやがって」


「ごめん、待ちきれなくて」


 休憩もいい加減終わりにして立ち上がる。


「馬鹿なことしたわね、キルケ。私たち、か」


「安心しろ。俺よりはマシだ」


「ま、待ってるからね。ずっと」


「……そうかよ」


 それからキルケは到着した救急車に運ばれていった。

 もちろん警察同伴で。

 キルケは幸いにもドーピングドラッグによる副作用は重くなかった。

 スキルによって大量に吐き出された血液に乗って、ドーピングドラッグの成分が体外に流れ出た結果だとか。

 それでも体に掛かった負荷はかなりのものだし、蜥蜴の仮面による再生能力があっても回復には長い時間がかかるらしい。

 その上、キルケは人一人を殺した罪を償わなければならない。

 キルケが回復して刑務所から出るまであと何年かかるかわからないけど、イリーナとハルは待つと言っていた。


「ランザは考え中だってさ」


「ふーん。あたしがいない間にそんなことがあったんだー。大変だったねぇ」


「まぁね。でも、全部丸く収まってよかったよ」


「本当によかったです。皆さんを連れて戻って来た時のことを思い出すと」


「その節は本当に申し訳ない」


 ククには苦労を掛けた。

 それにはこれからのダンジョン探索で報いよう。


「さて、と。じゃあ行きますか。今日もダンジョン!」


「えぇ、今回も深層に?」


「二人とも深層に慣れてきたし、いつもより深く潜って見ようか」


「さんせーい! 楽しみー!」


「いつも以上に気を引き締めないと」


 カップのコーヒーを飲み干して席を立ち、会計を済ませる。


「行こう」


「はい」


「レッツゴー!」


 閉まった扉についていたベルの音に見送られて俺たちはダンジョンへと歩き出した。

お疲れ様でした。

下に新作を貼っておくのでよければ読んでいただけると嬉しいです。

ありがとうございました。

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