二重掛け
再び放たれた炎弾に対して、こちらは仮面を鳥へと変える。
この背中から伸びるのは風を束ねて織りなした翼。
その一薙ぎは突風を巻き起こして炎弾を煽り、鎌鼬を持って斬り刻む。
「なに!?」
攻撃を吹き消された男は目を見開いて驚き、次の鎌鼬の襲来に身構える。
けれど、俺が翼をもう一薙ぎすることはない。
圧倒的な機動力ですでに側面に回り込んでいたククの蹴りが脇腹を打っていたからだ。
瞬間、人体から出ていいようなものではない音が響き、まるでボールのように大の大人が花畑を跳ねた。
「え、そんなに力を込めたわけじゃ」
恐らく、蜥蜴の仮面を被ったことによる身体能力の強化が原因かな。
スキルの二重掛けによって思いも寄らぬ出力が出てしまったみたいだ。
「テ、テメェ! よくも相棒を!」
残されたもう一人が怒鳴り散らし、右手をククへと向ける。
「ぶっ飛べ! 俺のスキルは――」
「どーん!」
猛スピードで過ぎていった光盾が、もう一人を弾き飛ばす。
まるで巨人の平手打ち。
敵は二人とも仲良く同じ末路を辿った。
「なんだったんだろうね? 彼のスキル」
「さぁ? 見当も」
「あはは! なんでもいーじゃん。そんなのー」
まぁ、別にいいか。
とりあえず敵の二人ともダメージが大きそうなので治癒のポーションを飲ませておく。
蜥蜴の仮面はいまククが被っているし、この二人にはもったいない。
元気になりすぎても困るし、治癒のポーションくらいで丁度いい。
「私たちを探していたのなら、効果はあったってことですね」
「だね。けど、こうなった以上はもう続けられないかな。魔物が相手ならまだしも、人との殺し合いなんて冒険者の仕事じゃない」
「しよーがない。じゅーぶん嫌がらせになったことだし、この辺で手を引きますかー」
いつかはこうなるとわかっていた。
むしろ思った以上の数の花畑を潰すことができたくらいだ。
個人でやれることの限界がここで、これ以上は頑張らないほうがいい。
引き際を弁えなければ身を滅ぼす。
自分なら平気だとか、そう言う考え方をする人は早死にしやすい。
冒険者という職業に就くものは特に。
俺たちの嫌がらせはここで幕引きだ。
「それでこの二人はどーするの? 置いてっちゃう?」
「そうしたいのは山々だけど、流石に放置はできないかな」
「気は進みませんが地上まで運びましょう」
これが死体だったなら、ネームタグだけ回収すれば良い話だけど、生きているならそうもいかない。正当防衛だし、二人が気を失ったのは不可抗力だけど、俺たちには人として二人を救助する義務がある。
ここで何事も無かったかのように三人だけで帰ってもバレやしないんだけどね。
「でも、警察に引き渡すことに意味はあります。彼らがどんな立場の人間かは知りませんが、ここから情報を得て一気にドーピングドラッグの関係者を摘発できる可能性があります」
「そうなったら万々歳だね。彼らにそこまでの価値があればいいけど」
「なさそー」
俺もそう思ったけど、実際にやってみないことにはわからない。
意外とってこともあるかもだし。
そんな訳で仮面を犬に変更して花畑に火を付け、帰路につくことに。
「それじゃあ、ノア。仮面交換」
「あたしが付けたのそのまま付けたいのー?」
「じゃあいいや」
「うそうそ、ごめんごめん。許してー」
「ダメ」
そんな気はなかったけど、言われてしまうと意識してしまうもので。
甲羅の仮面を一度消して再度同じものを被る。
ノアには一角獣の仮面を渡しておいた。
「さて、こんなものかな」
光盾で作った箱の中に二人を閉じ込めて準備完了。
途中で魔物に襲われても二人の安否を気にせずに済むのは大きい。
世話が焼ける。
「目が覚めたら檻の中だ、びっくりする顔が見られないのは残念」
「頼めば面会できるんじゃないですか?」
「そこまでして見るもんじゃない」
「労力に見合ってないよねー、あたしもちょっと見たかったけど」
光盾の箱を宙に浮かべ、燃え盛る花畑を背にして帰り道を進む。
これですこしは薬物の被害者が減るといいんだけど。
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