お願い
「久しぶりだね、ディラン」
墓石の前に花を添えて彫られた文字を視線でなぞる。
紛れもない旧友の名前が刻まれていて、本当に死んだんだと今更ながら実感が湧いた。
これまでも冒険者になった同級生が亡くなったことはある。
死体さえ残らなかった人もいた。
冒険者になった以上は覚悟の上だ。
でも、薬物で死ぬなんて、そんなのあんまりだ。
「俺たちが学生時代の時はよく馬鹿やってたよね。その分、怒られたし罰も受けたけど、毎日が楽しかった」
思い出の数々がシャボン玉のように浮かんでは消えて行く。
「ダリル先生、悲しんでたよ」
あれから三日が経った。
コリンはまだ目覚めていないらしい。
「今、ディランと似たようなことしちゃった子がいるんだ。だからディランから言っといてくれないか? まだこっちに来るなってね」
引率の先生としての役割は終わったけど、短い間とはいえ一度は面倒を見た生徒だ。
無事に目覚めてほしい。
「お、先客がいる」
ふと声がしてそちらに目を向けると懐かしい顔を見た。
「ランザ。キミ、ランザか?」
「シンリ! 久しぶりだな、おい!」
駆け寄って来たランザとがっちりと手を握り合う。
思いがけない旧友との再会になった。
「卒業式以来? 意外と会わないものだよね、お互いに冒険者やってるのに」
「だよな。知らないうちにニアミスしてるんだろうけど。こうして面と向かって話すのはホントに久々だ。ここが旧友の墓の前じゃなけりゃもっとよかったんだが」
「俺もそう思うよ」
学生時代、ランザとはよく連んでいた。
同級生の中じゃ一番くらいに。
お互いに卒業してから冒険者になってそれっきりだった。
最近は懐かしい顔によく会える。
「シンリは聞いてるか? なんで死んじまったのか?」
「うん。ドーピングドラッグでしょ」
「まさかあのディランがな。こうなっちまった以上、どうしようもないけど。なにかしてやれなかったのかって思っちまうよな」
「だね。俺もちょうどそんなことを考えてたところ。結局、たらればなんだけどね」
墓の前に二つの簡素な花束が並ぶ。
「最近、どうだ? 噂で聞いたけどパーティーを抜けたんだって?」
「あぁ、うん。でも、もう新しいパーティーで再始動してるよ」
「順調?」
「いたって順調。メンバーがまだ学生だから気が抜けないけど、楽しくやってるよ」
「そっか」
「そっちは?」
「僕も最近新しいパーティーに入ったんだけど。中々上手くいかなくてな。正直、俺の前任者が滅茶苦茶できる奴でさ。誰も口には出さないけど比べられてるんだ。他にも問題が山積みでへとへとだ」
「そんなに大変なら辞めちゃえば?」
「そうは行かない。一度引き受けた誘いだ。出来る限りのことはしたい」
「ランザってホントに律儀だよね。変わってないようで何より」
なんだかこの感じ懐かしいな。
このままずっと話していたいけど、残念ながら時間だ。
学生の頃、見たいにもっと一日が長ければいいのに。
「もう行くよ」
「ダンジョンか? 戦闘服だもんな」
「そう。あ、そうだ。これ」
ランザに投げ渡す。
「通信石の欠片か」
「暇な時は連絡して。こっちも暇なら応えるから」
「了解。じゃあな、シンリ」
「また今度」
「死ぬなよ」
「わかってる」
ディランの墓を後にしてダンジョンへと向かう。
思わぬ再会に浸るのはここまで、緩んだ気を引き締めないと。
今日、ダンジョンで死にでもしたらディランとランザに笑われる。
「――で、なんでここにいるんだ?」
ククとの待ち合わせ場所に着くと、見覚えのある女子生徒がいた。
つい最近会ったばかりで見間違うはずはない。
「ノア」
「あははー、ちょーっとシンリ先生にお願いごとあるんだよねー」
ノアは不敵な笑みを浮かべている。
「お願いごとね」
面倒なことじゃなければいいけど。
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