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気付いた者たち


 走る、走る。

 全速力で、不格好でも、なりふり構わず、逃げる。


「――追っ手は!? 来てるか!?」


「大丈夫よ! 来てない!」


「た、助かった……」


 肩で息をして、流れる汗は止めどなく、心臓の鼓動は痛いくらいに脈打つ。

 何もかもが上手く行っていたはずの私たちは深層から逃げ出していた。


「くそッ! ザコ相手にこんな醜態晒すとはな」


 相手はなんてことない魔物だった。

 私たちは冷静に対処していたし、ランザの指示にも間違いはなかったはず。

 なのに私たちは陣形を乱され、早々に切り崩されてしまった。

 その結果が、これ。

 私たちは無様にもダンジョンの表層に逃げ帰った。


「なにが原因だ。今までこんなことなかっただろ!」


 強く握り締められた拳が石積の壁を叩く。


「原因もなにも運が悪かったのよ。こういう日だってあるわ」


「納得できるか! リザードマンだぞ! たかだか数体相手になんで遅れを取るんだ!」


 たしかに私もおかしいとは思う。

 体調不良者は一人もいないし、動きのキレもよかった。

 コンディションはよかったし、今日より悪い日はいくらでもあったはず。

 なのに負けて、敗走した。

 キルケはプライドが高いから、こう言うのが許せないのはわかる。

 でも、今日は厄日だったって片付けて切り替えなきゃ。


「実力不足でしょ、そりゃ」


 ランザの一言で空気が凍り付くのを肌で感じる。

 キルケの怒りの矛先がランザに向いた。


「あ?」


「聞こえなかったか? このパーティーはまだ深層に挑めるようなレベルに達してないって言ったんだ」


「なんだと、テメェ! 新参者が好き勝手言いやがってよ!」


「キルケ!」


 キルケに胸ぐらを掴まれたランザは、それでも口を閉じない。

 じっとキルケを見据えて、決して視線を逸らさなかった。


「これは命に関わることだ、新参者だろうが言わせてもらう。このダンジョンでは自分の実力を弁えない奴から死んでいく。そんな奴らを大勢見て来た。そうはなりたくないだろ」


 胸ぐらを掴む手を振り払い、ランザは乱れた襟を正す。


「余程、そう余程だ。余程、僕の前にいた人が優秀だったんだろ。このパーティーの実力で深層を自在に動き回るなんて離れ業を毎回やってたんだろ? すくなくとも僕には真似できない」


「テメェがザコなだけだろ」


「そう思うならそれでもいい。実力が足りてないのは僕もだ、その自覚はある。だが、理解してくれ。まだこのパーティーに入って日は浅いが、自信を持って言える。現状、このパーティーで深層を歩くのは自殺行為だ」


 目の前で起こっていることが理解しがたかった。

 ランザの言っていることが勢いに任せたデタラメであって欲しい。

 そう願わずにはいられない。

 あの疫病神のお陰で深層を歩けていた?

 そんな話、あるわけがない。あってはいけないのよ。

 じゃあ私たちは何のためにあいつを。


「だ、だから言ったのに」


「ハル?」


「私は、追い出すなんてッ、やめようってッ、言ったのに!」


「おい、今なんつった? おい! 今なんつった!」


 今度はハルの胸ぐらにキルケの手が伸びた。


「テメェだって結局は認めたじゃねぇかよ! あいつを切ることに頷いたんじゃねぇのか! ふざけるな! 今更、無関係気取ろうったってそうは行かねぇぞ! 卑怯者が!」


「キルケ、止めて! お願い!」


「おい、よせ! 離れろって!」


 ランザと協力してハルとキルケを引き離す。

 ハルは私の腕に縋って泣き、キルケはまだ怒り狂ってる。

 どうしてこんなことに。


「くそッ! 離せッ!」


 ランザの手を振り払って、キルケは荒く息を吐く。

 それから少しの間、誰も何も喋らない時間が続いた。

 そして。


「実力があれば文句はないんだな?」


「あぁ。直ぐには無理でも少しずつ実力を付けていけばいい。俺も協力する」


「……わかった。行くぞ、今日は終いだ」


 ハルにもランザにも誰にも謝ることなく、キルケは歩き出す。


「実力が付くならなんだってしてやるよ、なんだってな」


 その背中には不穏なものを感じる。

 大丈夫、よね?

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