表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ジャパン・クライシス
99/156

空は海を羨みながら海は空を羨む 2

後編です。

 話を聞く前に事件現場に遭遇してしまうのは俺の宿命なのだろうか?

 海の自宅前には既にガイノス帝国の紋様である青と白い竜、それと『立入禁止』の文字が見える。

 大きなため息と共に俺は手慣れた手つきで『立入禁止』のテープを乗り越えながら『良い子は真似しちゃいけませんよ」と言いながら階の自宅の玄関へと入っていく。

 玄関は物静かなもので、海の家の奥からは人の気配を全く感じない。

 俺は右のリビングに入り込むと、二つの男女の遺体と大量の血がリビングのあちらこちらに広がっている。

 リビングのソファや食器棚などが鋭利な刃物を使った切り傷が付いており、相当恨みを持った者の行動だといえるだろう。

 それもそうかもしれない。

 海は今の両親に対しあまり良い感情を抱いていない。

 恨みの原因は海の両親が海自身に強いて来た生活、真面目で両親の言う事に絶対を強いるほどの調教と自由になれない心が海の心に負担と痛みを強いて来た。

 俺はそれを良く知っており、海が良く愚痴を吐き散らしている事が多かった。

 それを俺はきっと他人事のように聞いていて、俺は真面目に話を聞いていなかったのだろう。

 呪詛の鐘の効果だったとはゆえ、海自身がその呪縛に捕らわれる切っ掛けは両親への憎しみや自分の不甲斐なさや俺への想いもあるのだろう。

 その思いが海を未だに操っており、両親に対する憎しみを押さえられなかったのだろう。

 それがこの惨状を作り上げられた。

 俺が言うべきことではないかもしれないが、この惨状と結果はこの両親の報いでもあるのだ。

 海に強いて来たことを考えれば、海の事を考えればこうなるべくしてこうなったのだから。

 しかし、これを海がするべきではない。

 俺は海をどこかで止めることが出来たかもしれないのだから。

「どこで俺達は道を間違えたんだろうな」

 玄関まで戻り段差で膝を抱えて座りこんでいると、玄関から誰かが入って来た。

「良い子は真似しちゃ駄目よ~」

 元気が良く明るい声が特徴で、童顔なのにスタイルの良さを持っている確か警部補になったと聞いた朝比姉だった。

「それ本日二人目だよ」

「きゃ!?ああもう……なんだ空か……びっくりした」

 朝比姉は俺の顔を見ると安心したように胸を撫で下ろし、俺の隣に座りこむ。

「ていうか、俺の生きてたこと聞いたんだ?警察が知っていたとは思わないけど?」

「うん?おばさんから昨日聞いた。謹慎処分の愚痴聞いてもらおうとしてね」

 そうか……朝比姉にもいろいろあったんだな……………『謹慎処分』?

「はぁ?何それ?警察と何かあったの?」

「まあね。警察上層部が何か隠してるっていうのは直ぐに気が付いたからね、問いただしたら謹慎を言い渡されたよ。まあ、お陰でこの街に残れるんだけどさ」

「そんな言い訳………卑怯でしょ」

「頓智の聞いた駆け引きって言ってよ」

 ウィンクと同時にいい笑顔で返してくれる朝比姉は確かに警察のバッチもつけていない私服姿で、ピンクのカーディガンと膝丈までのフリルのスカートを着ている。

「そうだ。ノアズアークのメンバーを捕まえたんですってね?大した手柄じゃない?すっかり越されたって気分よ。これが若さかな?」

「朝比姉だってまだ老けてないでしょ?二十代でしょ」

「いやいや、二十代と十代じゃやっぱり違うわけですよ。でも、変わったね?おばさんから来たけど。吹っ切れた顔してる」

 俺は足を名一杯伸ばし、見せる為に緑星剣を召喚しながら朝比姉に向けて手渡す。

「色々あったからね。辛い事も悲しい事も苦しい事も嬉しい事も。その全てが俺の経験してきたことの全てで、同時に構築する上で大切な事なんだよ。その剣と俺のうちに宿る鎧がその証明だから。三十九人から渡された贈り物」

「聞いた。三年間の出来事もクーデター事件もね。私ね。ソラ達のお父さんを知っているから言うけど、あの人確かにそっくりだね。最初見たときは本人が生きてたんじゃって思っちゃった」

「俺は写真でも見たこと無いから分からなかったよ。でも、遺伝子的にも俺の父親って事らしいけどね」

「そっか。私にとってはソラのお父さんは警察を志したきっかけだからね。あの人は人を守るのに真直ぐ突き進んだ人だから。憧れてたな」

 剣を俺に返しながら思い出したような表情を浮かべて語る朝比姉に対し俺はもう一度j膝を抱えながら蹲る。

「朝比姉はどうしてここに?警察の仕事は謹慎中なんでしょ?」

「個人調査って奴よ。色々と調べておきたかったしね。さっきガイノス帝国の兵隊さんから海の家で殺人が起きたって聞いてね」

「結構ひどかったよ。まあ、当然の報いでしょ。それだけの事をしたんだからさ」

「どうなんだろね。この世界に殺されて当然の人間がいるのかどうかって私は思うけどなぁ」

「俺は………いると思う。最低な人間なんているよ。この前の奴だって」

「でもさ。それを無制限に殺していたらきりないじゃない?何のために法律があるんだって話だし」

「でも。その為に今目の前にある罪を見逃せっていうのは俺にはできない!」

「ならさ。あんたは万理を殺そうとした海も殺すの?海も万理を殺そうとし、両親を殺したのよ。それで言ったら海だって最低な人間という事にならない?」

 どうなのだろう。

 海の両親が最低な人間なのは確かだ。しかし、ルールや法律で言えば海が罪人で両親は被害者という事になるんだ。それがルールであり法律でもある。

 しかし、それを一個人の勝手な解釈で決めることは出来ないだろう。

 イザークは決して許されざる事をし、実際に多くの人を殺めた。

 国によっては死刑にされてもおかしくは無い。

 だからと言って個人が殺してもいいという言い訳にはならない。

 それこそ、堆虎が言っていたことだが、彼女も又罪を犯しその上での断罪として死を望んだ側面はある。

「人を殺すことイコールで最低な人間と言うのはどうかと思うよ。その為に法律や裁判が存在して、誰かが裁くわけだし。でも、ソラの言う通りで小さな闇を見逃していいわけじゃない。それでも人っていうのは法律の隙間を見付け、背徳感を抱きながらも悪いことから抜け出すことが出来ないんだと思うよ。それこそ海の両親や万理のお父さんがその一人なわけだしね」

「それってどういう事?」

「色々調べたんだけどね。どうやら万理のお父さんが失踪前の呪詛の鐘の所有者だったらしいね。バス事故現場に遺体がありながらも勝手に処理されていたらしいし、多分事故を引き起こしたのが万理のお父さんで、万理はそれを知って行動に移したってところかな?色々調べていたみたいね。彼女のアパートに入れてもらったけど、本人なりに調べていたみたいだし」

 だから王島聡に狙われたのかもしれない。

「お母さんも多分口封じね。国規模で動いているんだもん。個人で勝てる相手じゃないわ。でも、だからって私は動かずに上の言い成りにはなれないし、何よりここで何もしなかったら、守る為に死んでいった叔父さんに顔向けできない。あの人は守る為に動いた。その遺志は私や皆で受け継げるはずよ」

「万里や三十九人も同じなんだよね。『何か』を変えたくて、大切な人たちを救いたくて動いていた。過去は変えられないし、だからと言ってここで足を止めたらそれ事俺を信じて死んだ三十九人に対して誠実とは言えないんだよな」


「そうそう。生きた者は死んだ者の為に生きる権利がある。背負う為じゃなく遺志を継ぐためにもね。守るという意思や生きてほしいという意思を次に引き継がせるためにもね」

「それがみんなが望んだこと………生きる事。守る事」


 俺は立ち上がり一歩前に踏み出すと朝比姉の方を振り返る。

「俺………王島聡の事を知りたい。出ないと戦えないし何も出来ない気がするんだ。知る事が大事で、知らないで逃げたら俺は一生逃げたままだ。相手を知ることから始めるよ」

 朝比姉も立ち上がり満面の笑みを浮かべる。

「じゃあ、手伝ってあげる。私も知りたいし。ソラが守ってくれるなら一石二鳥だしね」

「警察がいてくれたら直ぐにでも知れそうだな」

 前に進む。

 知る為に、戦う為にも。


今回はそこそこ重めなお話になりましたね。この辺から呪詛の鐘を巡る国の動きに万理や海や王島聡がどんな形で関わり、多くの国がどんな事をしてきたのかを語っていきたいと思います。では次回お会いしましょう!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ