空と海 6
悲劇の序曲へとご案内しましょう。
ソラは後頭部に柔らかい感触を感じるとソラはゆっくりと目を開ける。
ジュリの表情とそれを隠すような大きな二房の胸、思考が整うまで時間が掛かってしまい、意識と現実情報が認識されるまで時間が掛かってしまい、三十秒が経過してしまってようやく自分が膝枕されていると認識した。
「な、な、なんで?」
そこまで口を開いて自分が意識を無くしていたと気が付いた。
急いで起き上がるソラの視線の先に万理がいると認識するのに更に時間が掛かってしまう。
万理に「何故ここにいるのか?」と尋ねそうになる中、ソラはマリアがこの場にいるという違和感にも気が付いた。
「そう言えばマリアって何をしていたんだ?」
語り掛ける言葉の答えは「呪詛の鐘を調べる為にのバス事件の経緯とその後を調べておったのじゃ」と語り掛けるが、やはりその表情は暗い。
何故みんなしてこんな暗い表情をしているのかとソラが尋ねる中、マリアと万理は髪各自事件のその後を語りだした。
悲劇と呼んでもいい事件の経緯と全員が暗い表情をする理由を。
ソラ達四十人が行方不明になってすぐに警察が動き出した。
事件現場はあまりにも無残な状況になっており、バスは炎上を続けていたらしく、周囲が森林地帯だったことも不幸を加速させた。
周囲の木々にガソリンが引火し、結果大規模な山火事を引き起こしたらしく、バスは周囲の木々などで原型をとどめていなかったらしい。
警察の調査も難航していくが、現場にブレーキ痕が存在しなかったという意見からバスに何かしらの細工がされていたか、学生が弄って壊したのではなどと様々な予想が生まれた。
そして、林間学校の職員に話を聞くうち学生の何人かがバス前でたむろっていたという話が学生への事情聴取へと向かって行った。
複数の生徒が事情聴取を受けると、その生徒を相手に虐めが始まるという事態に発展し、ついに事件は事件発生から一か月が経過した時に起きてしまう。
屋上から二人の生徒が虐めに耐えられず飛び降りてしまった。
すぐさま虐めをしていた五人の集団へと事情聴取が始まると、五人は学校内での立場を失うようになった。
慰謝料の支払いなど揉めた挙句、五人は同じ日に自室で首を吊って自殺していたのを両親が発見した。
すると、そんな空気が学校内の雰囲気を悪くしていき、学生間がギスギスしていき自殺するほど追い詰められる生徒が増えていくような状況になっていく。
自殺が一機に膨れ上がったきっかけはある噂が同学年間で蔓延していったことがきっかけだった。
『同級生の中に四十人を殺した犯人がいるらしい』
そんな心無い言葉が犯人捜しをしようと言う雰囲気を作り出し、追い詰められた人間が自殺するという連鎖が始まった。
冬を迎えたころ、学校は自殺者の増加で一時封鎖が余儀なくされ、堆虎が季節の変わり目という事で風邪を引いた時同学年間で犯人あての場を設けることになったらしい。
急な話だったらしいが、風邪を引いていた万理を覗く他の人間が集められたのは体育館だったらしい。
翌朝の事である。
体育館の電気が付いている事に気が付いた国語教師が体育館のドアを開けると、多くの生徒の死体と、椅子に座ったまま黙っている生き残ったたった一人の生徒『王島聡』がいたらしい。
教師は血と死体で埋め尽くされた現場を見てすぐ様に警察を呼ぶが、警察が駆け付ける間王島聡は全く動くことは無かったらしい。
中学は完全に閉鎖され、在学中だった生徒全てが転校することになった。
体育館の中で何が行われたのか、どうしてこんなことになったのかを調べることも恐れられるようになり、いつの日か『神隠し事件』と呼ばれた事件は闇に葬られるようになった。
建物も壊すのすら怖がられるようになり、今では完全に廃墟になってしまったらしい。
廃墟のように見える母校である中学前に立ち、『立入禁止』のテープで遮られているのを見ると、ここだけ異世界のようにも感じてしまう。
他人事だと心に言い聞かせ、テープをしゃがみながら超えていく。
踏み出す足が少しだけ震えているようにも見え、同時に踏み込んだ足周りに生える雑草がこの土地が手つかずだという事を証明してくれている。
よく見ると校舎の壁もあちらこちらがひび割れており、そこまでの年月が経過していないにも関わらず、まるで十年以上手つかずの廃墟を見ているような気持になってしまう。
ゆっくりと動かす足を静かに校舎の中へと向け、玄関口から入っていき階段を昇るうちに震える足はどんどん勢いを増していく。
そして、俺達の学年のクラスが並ぶ四階に辿り着いた時、廊下を見た瞬間に俺はいたたまれない気持ちになる。
何故なら、廊下一杯に広がる落書きは心もとない言葉ばかりで、罵倒の言葉や嫌味などが埋め尽くされている。
一つ一つの教室をそっと覗き込み、中にある罵倒の言葉を前に逃げるように次の教室へ、そうやって歩いていくと目の前に現れた俺の教室。
俺は震える指をそっと教室のドアへと伸ばしていく。
ゆっくり音もなく開けると中には先ほどの教室以上に書かれた罵倒や嫌味の言葉が隙間なくびっちり埋め尽くされており、机の上から椅子の裏まで書かれている。
俺は部屋に入ると黒板に『忌々しい奴ら』『いなければよかったのに』という言葉が書かれている。
俺はそれだけで胸が締め付けられるような気持になる。
自分の席を見る勇気も出てこない俺はそのまま急いでその場から移動していく。
体育館の前で一度立ち止まり、鍵のかかっていないドアをゆっくりと開けると目の前に広がる悲劇の惨状が嫌でも目に入る。
「私もここに来るのは初めてなんだ」
声のした方向を見ることも無く、俺には誰だろうなんて視線を向ける必要も無い。
「万里はここに来なかったんだっけ?」
「うん。風邪を引いていてね。あまりいい隊長とは言い難かったからね」
「ここにきて死ぬぐらいなら来なくてよかったよ」
万理は体育館の中央へと進むと俺も一緒に体育館の中央へと歩いていく。
周囲に広がる椅子を見ていると俺はおかしいのではと思う点を見つけ出した。
「なあ、確か話だと、一学年160人で自殺と行方不明を含めて残りは80人だったよな?それで、万理を除いて79人がこの場にいたことになる。なのに、ここには80人分の椅子が用意されているぞ」
万理も数を一個一個数えると確かに80人分の椅子が用意されていて、その椅子の裏にはその人の名前が書かれた紙が貼られている。
その内の1つに万理の名前が書かれた机が倒れてる。
「本当だ。急な話だったから用意したのかな?」
驚きと混乱の最中、二人には思考する時間が生まれた。
しかし、それを遮る様に大きな爆発音が病院の咆哮から響き渡る。
俺の携帯がけたたましい音を鳴らし、携帯の画面には『マリア』文字が映されている。
「マリアか?この爆発はなんだ!?」
「病院に襲撃じゃよ!すまんが戻ってきてくれるか!?」
そこまで言葉が唐突に切れてしまう。
俺にはその先なんて聞かなくても分かった。
「万里……!」
「先に戻って。私の脚力じゃ邪魔にしかならないと思うから」
「………分かった。でも、気を付けてくれ」
そう言って俺は鎧を展開しそのまま二階の窓から病院方面まで駆けていった。
体育館に一人残った万理。
自分の椅子を持ち上げるとその椅子の紙が血で汚れていないという事に気が付いてしまった。
おかしいのだ。
惨劇の場にこの椅子があったのならこの椅子には血が付いているべきだし、何より血だまりに倒れているのだから血で汚れていなければならないはず。
よく見ると椅子の裏に紙が貼ってあるのはあと一つだけ、『王島聡』と書かれた紙だけ。
「これじゃ……まるで」
そう言葉を紡ぐと体育館に王島聡が入って来た。
でも………ここから先は別のお話。
どうでしたか?今回の前後編は『海の闇堕ち』と『悲劇の開示』です。今回か語った中学を襲った悲劇は今回の物語を語る上では決して外せない物語です。そして、分かっている方も多いとは思いますがいよいよラスボスが本格始動しましたね。そろそろノアズアークとの決着回が近づきつつありますが、同時にラスボスを含めた今回の事件のクライマックスの開始も近づいています。まあ、さすがにもう少しかかるとは思いますが。しかし……今回の話を書いていて思いましたが……闇が深いな………自分の。では!次回!




