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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ドラゴンズ・ブリゲード
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商業と砂漠の街 サールナート 8

最新話後半戦です。サールナートでの決着は次回です。では………本編へGO!

 ドン・ローテルは焦りと共にあった。

 先ほどフィローネから連絡があり、奴隷の獣人族の娘を連れ戻すことには成功したとのことだが、その過程であまりよくない情報を仕入れてしまったからだ。

 常任理事の一部が闇市の居場所を探り当てたのだっと、それを決起の理由にするつもりなのだとか。軍事力を周囲から集めようとしているらしく、ドン・ローテルに反発している勢力は既に集まっているらしい。

 帝国に手を出してほしくなく、念の為にと手を打っておいたが全く意味がないとジャック・アールグレイから指摘を受けた。

 隣に立つジャック・アールグレイは大きなため息を吐くしかない。

「今脱出することを進めるが?」

「駄目だ!闇市を閉ざすという事はこの街に帰ってこれなくなる。それが一番の敗北だ!」

「それが何だというんだ?死ぬことよりよっぽどましだろう?」

「……くそ!あのガキが逃げ出さなければ………!」

「どのみちバレていたと思うがな?いい加減稼げただろう?もっと南に行けば多少危険でも中々稼げる仕事があるぞ」

「抵抗する人間を殺してからでも遅くは無い!!この際皆殺しにしてやる!!土竜も全員だ!」

 ジャック・アールグレイはさらに大きなため息を吐き出す。

 こんな男でも役に立つとジャック・アールグレイは分かっている。商売に関してはこの男はかなり有望でもある。出来る事なら生かしておきたい。

「フィローネを中心に防衛隊を組ませろ。そのうちにお前は屋上で逃げる準備に入れ。殲滅したところを見れば満足なんだろ?俺がギリギリまで指揮を執る。それでいいだろう?」

 ドン・ローテルはようやく落ち着きを取り戻し、今度は逃げるための算段を建て始める。

「あいつら………今に見ていろ!全員殺してやる」

 ジャック・アールグレイは内心心の奥で苦々しい気持ちを押さえている。本当なら素早く逃げ出したい気持ちで一杯だし、なにより………空と出会う前に逃げたいという気持ちで一杯だった。


 常任理事会議場前に旧式の戦車が集まっており、その中に学生やら傭兵やらが集まって問題行動へと発展しそうになっている。

 マリアは魔導協会から今すぐ応援を寄越してくれ、戦力としては十分すぎるほどだった。

 そんな中、戦車の一発が常任理事会議場の玄関を吹っ飛ばし、その奥があらわになる。

 多くの歓声と共に会議場へと入ろうとする人影を吹き飛ばし、切り刻むたった一人の女性が立ち尽くしていた。

 透き通るような青いストレートな髪、スーツの上からでも分かるほどなスタイル、そして右手に握られた鞭と一本の代わり映えのない剣。

「この先はドン・ローテル様の命令によりお通しできません。どうしてもお通ししたければ………私を倒してからにしてください」

 冷血という言葉がよく分かるほどの冷たさを感じさせる立ち振る舞い。

 そんな彼女に戦車の容赦のない一撃が向けられる。しかし、彼女は攻撃を鞭で反射して見せる。

「私にそんな旧式戦車ぐらいであれば私に相手になりません」

「なら……私が相手になります」

 十字槍を構えたキャシーが周囲の軍勢の中から出てくる。

「十字槍ですか………さすがは皇帝一家の守護を任されている一族ですね。てっきりあなたは侵入部隊に組まされていると思っていましたが?」

「私なんかよりよっぽど強い人がいるので大丈夫です」

 フィローネには強い人と言うのがあまり心当たりがない。確かにこの街に危険人物がいるのは承知しているし、その人物が侵入部隊に選ばれるのには時間が掛かる為絶対に無いと断言した。

「あなたを叩きのめしてからドン様を追いかけた方がよさそうですね。それに……あなた一人で私を押さえられるとお思いで?」

「私一人なら絶対に無理だったと思います……」

「一人………なら?それはどういう意味ですか?」

 なんて言いながらフィローネの視界に一人の少年が現れた。

「俺達で挑むんですよ………あなたにね」

 ガンソードを二つ構えた少年と十字槍を装備する少女という組み合わせに歪さを感じてしまう。

「いいでしょう。芽生えた自信が粉々に砕かれても私を恨まないでくださいね」

 睨み合う状況が続く中、建物の中で爆発が起きると同時に戦いが始まった。


 俺がデリアの案内で大きな地下室を見つけ出したとき、デリアだけは別の部屋へと目指して別れてしまった。

 俺は本来の1つである土竜開放を果たすため大きな部屋に辿り着いた。

 この常任理事会議場の地下には土竜を閉じ込めるだけのスペースがあるらしく、そこは本来砂漠を移動する船を停泊する場所なのだとか。

 砂漠の砂が少しづつ高く積み重なってからは使われなくなり、今ではただの広い部屋でしかない。

 しかし、その部屋に入る為のドアをこじ開け、その奥に存在している大きな土竜を前にして俺はド肝を抜かれてしまうような気持になった。

 クジラを彷彿させるような大きな体に、砂の中を泳ぐ為に発達したようなシルエットをしており、なんとなく魚とも違う姿をしているように見える。

 体中に鎖が巻き付いており、俺はその鎖に自らの右手を優しく触れると鎖は粉々になって砕け散ってしまう。

「グォォ!(そうか君が機竜の言っていた少年だな)』

 叫び声と同時に脳内に声が聞えてくる。

(私は人間の言葉を発することが出来ない。こうして君と脳内で会話することを許してほしい。しかし、不思議な人間だ。多くの人の力を借りてこの場所まで来る人はいても、多くの人を動かすきっかけになる人間は少ない)

「俺は………何もしていませんよ」

(これが謙虚というものなのか?それとも無知ゆえの発言なのかは一考に値する言葉だな……さて、私はこの場から去らせてもらうよ。外戦いに多少は関わりを見せよう。君の目的の人物だが………獣人族の小さな女の子だな。どうやら屋上へと連れていかれたようだ。急ぐと良い。そこの……エレベーターとかいうものに乗れば一気にいけるようだぞ)

 俺は沈んでいく土竜を見守りながら真直ぐエレベーターの方を見る。

 施設の上の階から爆発音が聞こえてきた。

 作戦決行の合図。


 デリアは一人砂賊が閉じ込められている部屋を突き止めていた。

 いや、本当は気が付いていた。しかし、訪れることはあまりしたくなかった。

 空達に話をしていく間に自分がやるべきことのように思えてきてしまう。幼い頃に見た父親の惨殺な光景を前にしてデリアは恐れから妹すら向き合えなかった。

 ジャック・アールグレイを前にしてアベルとは違い身動きをするのに時間が掛かってしまったのはデリア自身の後悔だった。

 父親の事をどうしようもなくトラウマになってしまい、どうしようもなく………家族と向き合う事が怖くなってしまい。妹すらまともに見えなかった。

 部屋に入ると子分の殆どはどことなく暗く、怒りにも焦燥感にも似たような表情をしており、デリアの入室に誰もが気づきながらも声を出せずにいた。

「………久しぶりね」

「…………姉貴は知ってたわけ?親父が……こうなっちゃったこと」

「ええ。私はこの目で見たから。今でもこうして向き合うと少しだけ怖い気がするけどね」

「どうして教えてくれなかったの?どうして姉貴は!!」

「あんたの事を気づかったのよ……ううん。本当は違うわね。向き合うのが怖かったのよ。この街にいれば思い出す。だから逃げたの。あなたに話せば思い出す。だから嫌だった」

 フィフィと同じに目線に合わせながらデリアはこの場にいる砂賊全員に声をかけた。

「アンタは………アンタたちはこのままでいいの?このままやられたままでいいわけ?私の知り合いは今頃土竜を助けている頃よ。なのに、この街の平和を他の人間に任せ、土竜の救出すら任せて、ここでうずくまっている事が砂賊の役目?私の父は一人でも立ち向かったのに、あなた達は複数人でも逃げるのね?」

 一人、一人立ち上がり最後にフィフィが立ち上がると誰もが叫び声が聞こえてきた。

「やってやろうよあんた達!このまま引き下がったらあ族の名折れだよ。それに………これは親父の敵討ちだ!!ドンの野郎をぶっ殺す!」

 デリアは同時に土竜の鳴き声が外から聞こえてきて、デリアは作戦の成功が近いとわかってしまう。

 しかし、途端に急に不安になる思いを抱えてしまう。

「フィフィ。ついてきなさい………ドンが脱出するなら一か所しかないわ。他は内部の制圧に向かわせて」

 フィフィは内心なんで姉貴の言う通りにしなくちゃいけないんだよ、みたいな表情になっていたが、デリアが珍しく真剣な面持ちで上を見ているので従う事にした。

 二人でエレベーターまでの敵を蹴散らして進むのにさほど時間もかけず、二人は屋上まで移動したところで二人は異様な光景を前に立ち止まってしまう。

「なんだよ………これ……ドンが…殺されてる?」

 フィフィの呟きもデリアには理解できる。

 ドンは体を斜めに真っ二つにされており、メイは空の腕の中で大泣きをしている。空の体にはドンの血で血塗れになっている。

「いえ………真っ二つになっているけど、生きているわ。まだ………」

「何が起きたんだよ?脱出の手段は?ジャック・アールグレイはどこ行ったんだよ!?ここで何が起きたんだ?」

「どうやら………私達の理解できない何かが起きたらしいわね」


どうでしたか?サールナートで起きた事件は次のお話で最終話となります。次回は空がどうしてああなったのかというのが分かる話になります。ドラゴンズ・ブリゲードの意味も分かるお話になります。では次回!


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