商業と砂漠の街 サールナート 2
本編開始です。既にサールナートには到着しております。新キャラクター登場です。
「そっちに行ったぞ!空」
レイハイムのいつもでは考えられ無いような怒号が俺の鼓膜を振動し、同時に俺は視界の右端に捉えている暗闇に紛れやすい黒い服に身を包んだ夜盗へと跳躍する準備に入る。
夜盗の後ろではレイハイムが俺と同じように追いかけており、そんな夜盗は右手に封筒のような物を握っている。
あれを持っていかれては士官学院としてはかなり困る。
何故なら俺は俺達が今日一日で必死に集めたサールナートの闇市の予測位置であり、あれが紛失したとなると一からの調査になり、その上こちらの情報を漏らす危険性すらある。
ホテルから一キロの地点、この街の屋根から屋根へと移動しながらの追撃戦になるが、これ以上ホテルから離れると少々困る事態になる。
そろそろ仕掛けて行動しなければという想いで夜盗への攻撃準備に入っているわけだ。
時刻は夜の零時を回ろうとしており、明日の事を考えればそろそろベットに入りたいぐらいなのだ。
剣握る右手を強く、右腕には装備している魔導機は淡い光を放ちながら俺の力になってくれている。
剣の斬撃力を上げながら身体能力も上昇させる。
レイハイムとの距離を離そうと夜盗は速度を上げる為視界を更に隣に移し俺の事を意識から離している。
今のチャンスを逃せば多分逃がすことになるだろう。
俺は跳躍する為、タイミングを計りながら飛ぶイメージを頭の中に抱く、すると魔導機はさらに強い光へと変わっていき俺が跳躍すると魔導機は周囲へと粒子を飛ばしながら俺の周りを飛び交う。
俺の体は建物の間をまるでアクション映画でも見たことが無いような跳躍を見せる。
夜盗は俺が飛んできたことに驚きながらも反応がワンアクション遅く、俺は剣のみねの部分を夜盗の胴体目掛けて叩きつけた。
夜盗の体が宙を浮き、俺はそのまま剣の軌道を建物の屋根を突き破るようなイメージで叩きつける。
さすがに岩でできた頑丈な屋根は壊れることは無かったが、しかし敵を気絶させることには成功する。
夜盗が持っている封筒を奪い、俺は中身を確認している間にレイハイムが通信機を使ってホテルに控えているメンバーと連絡を取る。
中身は安全だと確認すると俺は夜盗の正体がどうしても気になり、顔を見ようと覆面に手を伸ばし引きはがすと、傷があちらこちらに付いているが普通の男性と言った風貌。だが、その中で目を引くのが首筋から頭にかけて付いている入れ墨だ。
そんな時首に奇妙な入れ墨がある事に気が付き、覗き込むと砂魚と砂船が描かれている。
何かを示すようなマークのように見えた。
ホテルに帰るとロビーでは軍関係者一同が揃っており、俺とレイハイムが連れ戻って来た夜盗を調べていると同じように首の入れ墨のマークに目がいく。
「砂賊………か。こんな盗賊まがいの事をするなんて聞いたことがあまりないが」
俺とレイハイムは『砂賊』という聞きなれない言葉に首を傾げるが、軍の士官がこちらを振り返り手を振る。
「ご苦労だった。あとはこちらで検証するから十分だ。明日に備えて今日は就寝すると良い」
俺とレイハイムは疲れ果てた体を引きずりながら自室へと向かって歩き出す。
エレベーター内で「疲れた」と言う声が寂しく響き、俺は今にも眠りそうになる体を「あと少しだぞ」と言い聞かせる。
五階に辿り着き、俺達はそれぞれの部屋へと帰っていくとレクターの居ない室内は寂しく感じるが今はそれがありがたい。
レクター午前中に食あたりを起こし現在病院に入院中だ。
結構深刻であるらしく、命に別条がないとはいえ、三日は動けないだろうと言われている。
シャワーは明日でいいかという結論に至り上着だけを脱いで、寝間着に着替えたりせずそのままベットにダイブした。
睡魔に身を任せて寝ようとしていた所に部屋の外からノック音が聞こえてきて俺の意識は無理矢理でもそちらの方へと向いてしまう。
出来るなら明日にしてほしいという気持ちなのだが、外から聞こえてきた声を前に俺は仕方なしに足をそちらに運ぶ。
「空先輩。今いいでしょうか?」
後輩のキャシー・メルバットの積んだ声が聞えてきた方向へと情けない足取りで向かい、ドアをゆっくり開くとドアの向こう側では困り顔をしているキャシーの整った顔立ちが見えた。
凛々しく整った顔立ちは男子より女性ファンが多いぐらいで、長く綺麗な白銀の髪と十字槍を振り回す姿は美しいの一言である。
そんな表情はいま完全に崩れている。
そもそも、キャシーは一年下の後輩なので本来ならいくつか上の階の人間のはずなのだが。
「どうしたんだ?こんな夜更けに」
キャシーが訪ねてきたことに少々驚きつつも俺は真剣に話を聞くことにした。
なんだかんだ言って可愛い後輩で、特にキャシーは俺の事を一番慕ってくれている。最もその過程で十回ほど試合をしたと不満を言えない。
しかし、俺は後輩との関係を失敗してしまった手前邪険にもできなかった。
そんなキャシーが俺を訪ねて困り顔をしている。
「実はですね……私の班にも食あたりが多く、私一人になってしまったんです。本来なら別の班に移動になるんですが、その……」
言いたいことはおおよそ分かった。
多くの女性ファンがいるキャシーは逆を言うと親しくしてくれる同級生に恵まれていない。
男子生徒からは求愛を迫られ、女子生徒からは尊敬を受けている。
対等に見てくれる同級生がおらず、こういう時にどの班に行けばいいのか分からない。
「だったら俺達の班にいればいいさ。ちょうどレクターがいなくて困っていた所だしな」
キャシーは嬉しそうな表情を浮かべながら頭を下げ感謝の言葉と共に去っていった。
俺は「やれやれ」と言いながらもそのままベットへと入っていく。
やっと訪れる睡魔を前に俺は素早く眠りの中へと逃げていく。
「………ここにいると……いいな」
翌朝になり朝食を一階のレストランで頂くためエレベーターで降りていき、大きなあくびと共に俺は同じようにレストランへと入っていくキャシーを見付けた。
あえて後ろから話しかけたりせず、俺はお盆を持ちながらバイキング形式で並ぶ朝食からバランス良くなるようにと選ぶ。
しかし、見たことも無いような食べ物が並ぶ。
クロワッサンにするかバターの乗ったトーストにするかでも悩んでしまい。結果から言えば俺はトーストにトマトのサラダ、オムレツに似た何かを赤と緑の二つとゆで卵をチョイス。
俺が席に着くころには多くの生徒でレストランは埋め尽くされており、奥の席では父さん達軍関係者が集まって対策を練っているようで、俺はあえてその反対側の席に座る。
トーストを食べながらレストランを見回すがやはり初日と違い生徒数が少なく感じる。
かなりの数が食あたりを起こしたというのは本当らしい。
それを踏まえての軍関係者の作戦会議なのだろう。
キャシーも適当な席に座りながら周囲の同級生の女子生徒から質問攻めにあっている。
助けてやりたいところだが、下手に首を突っ込むと後輩の女子に恨まれかねないのでやめておくことにした。
そもそもキャシーとの接点は去年の聖竜誕生祭でのメインイベントである武術大会中等部での決勝トーナメントの一回戦で俺がキャシーを下したことが原因だったりする。
彼女は今まで負けたことが無く、大会でもそこそこ行けると思っていたらしく、目標は決勝に進むことで、最低でも準決勝に行きたかったらしい。
そんな中での俺との戦い敗北するという結果は本人は全く予想していなかったらしく、それ以降彼女は俺に付きまとうようになった。
最も俺以外との接点何てジュリぐらいだろう。
まあ、元貴族というか金持ちでアイドル属性のようなものがあるのだろう。
とにかく目立つ。
故に下手をすると俺と戦った一回戦はある意味決勝戦以上に盛り上がったのではないかと思えるほどだった。
今日やることが山済みで頭を悩ませていた所なのでキャシーが入ってくれて正直助かっている。
俺はトマトをフォークで刺しながら頭では別の事を考え始めていた。
どうでしたか?今回のサールナートでドラゴンズ・ブリゲードは終わりになります。最後にはドラゴンズ・ブリゲードの意味も分かる内容になっていますのでお楽しみに。では!次回!!




