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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ドラゴンズ・ブリゲード
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商業と砂漠の街 サールナート 1

ドラゴンズ・ブリゲード編一話目。本編が始まる前の語りのようなものです。この語りの時系列は大きく飛んで次の長編後になります。

 魔導都市から一年間俺袴着空は三十九人の行方を捜しながらジャック・アールグレイとの戦いに明け暮れていた。

 会えばその場で即戦い、引き分けになって終るのがいつものパターンになっていた。

 でも、俺は気が付かなかったんだ。

 実は俺はジャック・アールグレイを地道に追い詰めていたことに、あの悪党を追い詰めていたなんて夢にも思うまい。

 それぐらい俺にとっては非現実的な話で、俺には想像すらしていなかった。

 達観していると言ってもいいあの男が、たった一人の少年の手によって今までになく追い詰められていたなんてあの時の俺は全く分からなかった。

 だって当時の俺はジャック・アールグレイとの戦いより三十九人の行方の方が大事で、その次にあいつの事を考えていた。

 実際アールグレイとの決着をどれだけの人間や竜達が望んでいたのかと聞けばきっと少数な意見なのだろう。

 だって俺自身これ以上関わってほしくないとは思っても、決着を付けたいとどれぐらい思っているのかという話だし。

 しかし、これも風竜エアロードが言うなら一年前の魔導都市の時点で既にこの決着は想定されていたらしい。いや、想定というのもおかしな話で、これは預言と言うべきだろう。誰かが余計な事をしない限りは予言通りに進む事は決定されていて、俺とジャック・アールグレイはそのレールの上に立っているだけに過ぎない。

 聖竜が作ったレール。

 ガイノス帝国内で起きるあのクーデターへの道しるべであるレールでもある。

 俺達はそれに対し抵抗することも無く、レールの上で戦った。

 だからこそあんな決着になったのだろう。ジャック・アールグレイは自分がレールの上だという事に気が付いてしまった。故に許せなかった。自分が他人に操られる存在だろ言う事に。

 いや、どうだろう。

 あの男にそこまでの強い感情があるのかどうかの方が不思議な話で、俺にはとてもではないが想像もできない。

 実際あの男は決して怒ったりせず、不満も言わず最後にはその結末を受け入れながらも超えていったのだろうから。

 しかし、結末という点では何も変わっておらず、俺はそのまま知らず知らずのうちにクーデターへの道を歩いたのだから。

 きっとあいつはこれ以上竜のレールの上にいることが耐えられなかったのだろう。

 それはいい。

 戦いはサールナートと呼ばれているあの街で始まった。

 飛空艇で移動していた時は特に考えなかったが、あそこは通称『奴隷の街』とも呼ばれており、裏社会では奴隷の販売などは当たり前で、良くも悪くも商業の街なのだ。

 商業関連で一発当てたいのならこの街に来ればいいとアドバイスされるぐらいに当たり前のまり。

 独自の自警団や砂賊などが防衛を担っていたり、国としての形は多くの商会など大きな会社が集まって理事会が開かれる形で行われている。

 帝国と共和国の戦争も基本は中立を貫き、帝国の味方をしない代わりに共和国の味方もしない。それが彼らのスタンスで、これはこの街が、この国が帝国や共和国にはさまれる形で存在し、両国からの影響を受けてきた結果でもあるらしい。

 それ故に麻薬や闇金などは当たり前で、奴隷、詐欺、マフィアやギャングの巣窟なども存在し、中には質の悪い店なども当たり前に構えている。

 表と裏のバランスが絶妙な形で成り立ち、一度奥に入ると底なしの沼に嵌まることになるらしい。

 そして、嵌った者を決して逃さずどこまでも引き入れていく。

 デリアにとってこの街で出身だと知ったのはこの事件の最中だっただろうか?

 過酷で生きていくことが難しいと言われるこの街に訪れるきっかけはやはり研修が理由だった。

 スラム街の方まで行くと異臭がきつく、倒れている子供やホームレスの数を数える気にもならない。

 中東などの荒れているような街はこんな形なのだろうかと思わせてくれる。

 俺達は研修生に言い渡されたミッションは『奴隷商人の実態を暴き、闇市解体に協力せよ』という内容だった。

 闇市。

 一年に何回かサールナートで行われる場所不明、日時不明、開催者不明の帝国はおろか周囲の国々ですら実態がつかめない代物で。最近になって共和国が人体実験のモルモットに奴隷を購入しようとしているという噂を聞いて俺達が派遣されることになった。

 そんな事軍がやれよと言う気持ちをグッと内に秘めたのは俺にとっても都合が良かったからだ。

 士官学生の特権を利用して俺は色々な国に訪れ、小さな事件を解決してきたわけだが、なぜかそのたびに俺は竜と関わって来た。

 中にはテレパシーでしか会話が出来ない竜も多い。

 しかし、俺は三十九人の手がかりを見付けることもできず、結果から見れば無駄足を踏むことになるのだが。やめるわけにもいかず、手がかりの1つとして俺はサールナートを訪れようと決めていた。

 しかも依頼内容は闇市の調査という絶好の内容だったし、奴隷のリストでも見れば何か分かるかもしれないという気持ちであの街に降り立った。

 俺は自分が不幸だとは思わない。

 友人がいて、義父さんがいて、後輩がいるこの世界を俺は不幸なんて言葉では済まされないが、他の三十九人にしてみれば不幸な事なのかもしれない。

 不幸なんて言葉で済ませていい物かどうかと俺にはどうしても疑問に思うわけなのだが、しかし、運命何て言葉で済ませて無理矢理納得させるぐらいなら不幸と思いそれを超えていく方が多少はポジティブなのかもしれない。

 いや、不幸所の話ではないだろう。だってきっと彼らはこの時点で自分達に訪れる未来を知っていたはずだし、覚悟を決め始めていた頃だろうから。

 俺は知らなかった。

 多くの人に支えられ、多くの命の結びつきこそが大切なのだという事を俺はこの戦いで知ることになった。

 一人で背負う事は間違いだし、一人で走っていくことは無謀だ。

 だって、この事件こそ多くの人の繋がりこそが解決へと導かれたはずなのだから。

 この街を変えたのはサールナートを変えたいと願った人達の繋がりなのだから。

 俺はその中心にいただけ、重心と言い換えてもいいだろう。

 俺一人で解決は決してできず、一人で走っていればきっと失敗していただろう。

「良いのではないか?君がそれを知ったというのがこの物語の意味なのだろう?私は当時遠くにいたし、事件の全容は知らない。だから教えてくれないか?」

 エアロードは楽しそうに聞き耳を立て、語り部としての何かを俺に期待する。

 言っとくけどこの物語は決して幸せになれた物語なんだ。

 俺が関わって来た事件の中でも珍しい幸せになって、俺には忘れられない様な辛い事件だった。

「それでいい。単純に不幸話や幸せ話を聞いていても面白くないからな。ここにあるポテトチップスを食べながら聞かせてもらう」

 このエアロードと一緒に生活するようになるのはまだ話した事の無い物語、クーデターの後に訪れた大きな事件の後だ。

 今やパートナーと言ってもいい存在に俺達はなっていった。

 小さな体を維持しながら楽しんで生活しているエアロードと居ると本当に命何てこんな些細な事で分かり合えるのだと分かる。

「言っただろ。言葉を介し、触れ合う事で温かさを知る。しかし、同時にその温かさが嫉妬を、言葉は他人を傷つけることが出来るんだ。この世界のあらゆるものが兵器にも道具にもなりえる世界。排除すればいいと言う者が居るが、そいう者達は知ろうとせず、知りたいとも思わない頑固者と言うだけだ。視野を広げ、他人を知ろうと努力し、妥協点を見つけることが平和への道だ。言っておくが平和何て一朝一夕で手に入るものではない。百年、二百年かけても無理なのだ」

 エアロードはまるで当たり前だと言わんばかりに自身に満ち溢れた表情で告げる。

「平和に近道など存在しない。運命を変えることが出来ないように、過去が変わらないように、平和への近道なんてものは存在しない」

 運命は変わらない。

「ああ、変わらない。お前は自分を生んだ両親を変えることが出来るか?自分が人間から生まれたことを変えることが出来るか?過去で起きたこと、生まれにして背負ってしまう事こそが運命なのだ。そう言った物は変えようがない」

 なら、面白おかしく語ることにしよう。

 俺自身が気が付かず、俺自身が背負っていた運命を始めるためのプロローグに届くまでの物語を。

 ポテトチップスを食べながら聞いてほしい。

 ジュースでも飲みながら聞いていてほしい。

 きっと終わって見れば「なんだそんな話なのか」と思ってしまう。

 だって……………俺が今、そう思っているのだから。


では二時間後にお会いしましょう。

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