魔導都市 アルカミスタ 10
魔導都市編最終話後編です。
俺が駆け付けたとき直ぐにエリーを回収し俺はジャック・アールグレイがマリアから視線を外し所を確認してマリアを救出した。
そして、剣を交える結果になった。
レイピアは通常の剣と違い非常に細く先端が針のように尖っており、通常『細剣』とも呼ばれている。
この攻撃を捌くことは非常に難しい。
俺は回避することの方に集中し、敵の攻撃をギリギリまで引きつけながら突き攻撃を見極めようとするが、ジャック・アールグレイはあえてレイピアを使って斬撃攻撃を繰り出してきた。
俺は斬撃を回避しようと判断し後ろに半歩下がるが、その際に体勢を崩してしまう。
ジャック・アールグレイは連続突き攻撃を繰り出し、俺はそれを剣で受け止めながら後方に体を引きずりながら回避する。
そして、攻撃と次の攻撃の合間の呼吸に俺はジャック・アールグレイへ向けて蹴りを一発お見舞いし、そのまま急いで立ち上がる。
そのままこちらから切りかかりに行くが、ジャック・アールグレイは素早く俺の攻撃に反応し、あえて斬撃を隠し持っていたナイフで受け流しながらレイピアによる乳母やイツキを左肩より少し下、心臓の部分を狙って突きを繰り出すが、俺はその攻撃を斬撃の軌道を無理矢理逸らすことで回避しつつ、そのまま体勢を崩しながら右肩目掛けて剣を体重を乗せながら振り下ろす。
お互いに無理な体勢がそうさせたのだろうが、お互いに転がり込んだまま少しだけ距離が開く。
俺は急いで顔を挙げると正面に右肩から血を流すジャック・アールグレイがいた。
「とことんイレギュラーばかりが起きるな。君がいると。さすがは英雄候補と言った所か?」
「またその話か?その言葉だってどうせデマカセなんだろ?」
「どうかな?私は案外信用してもいいような気がするんだがな。まあいい」
その言葉を最後にジャック・アールグレイは立ち上がると、ゆっくりと後ろに下がっていきそのまま飛び降りてしまう。
俺は急いで飛び降りていった先に走り去っていき、覗き込むとハンググライダーのようなグライダーを背中に装備して街中から離れていくのが見て取れる。
失敗する可能性を事前に予想していたと言った所か?
俺は安心しながら振り返るとマリアは未だに身動きできずにいる。
「大丈夫か?大丈夫ならさっそくメインシステムを起動させるのに臨時回線を繋げたいんだけど?メインシステムを起動できる場所ぐらい知っているよな?……?マリア?」
黙りこくっているマリア相手に俺は顔を覗き込むとマリアは更に俯きながら「どうしてじゃ?」と呟くので、俺は何を言っているのかまるで分からず首を傾げる事しかできなかった。
「どうしてそんな風に戦えるのじゃ!?あやつは歴史上稀にみるような犯罪者じゃぞ?その辺の人間なら怯えてうずくまるのが当たり前じゃ!逃げても誰も文句など言わん!なのに貴様は!」
「俺が文句を言う。だから戦う。誰かを助けるのに理由を付けて怖気ずくて何もしないでいると俺は……俺じゃなくなるような気がするんだ」
俺はジャック・アールグレイが去った方法を見てしまう。
なんとなくだが、マリアの方を見れなかった。
「そりゃあ俺だって怖くないのか?と言われたら怖いと答えるしかないけどさ。それでも、守る大切さも知っているから。義父さんはジュリ守る為に体を張った。俺の方ん等の義父さんは家族を村の人達を守る為に命を使った。時には人間には命を張ってでも守りたい物があると思うんだ?マリアだってそうだろ?命を張ってでも守りたい物があったからあいつの脅迫に耐えたんだろ?なら自分のそういう部分は誇りに思うべきだと俺は思う。誰だって………」
俺はもう一度マリアの方を見ると彼女は驚いているのか、それとも唖然としているのか分からない様な表情をしている。俺はそんな彼女に顔を近づけながら答える。
「大切な事の為に命を懸けることが出来るって信じてる。俺も君も信じる事の為に命を懸けることが出来たはずだろ?」
俺は立ち上がりメインシステムを起動させるために周囲を見回していると後ろからの衝撃を感じた。
マリアが俺に抱き着いたのだという事に気が付いて首を捻って後ろ見ようとするが、後ろから嗚咽が聞えてきて、俺には何も言う事もできずただその声を聴くことしかできなかった。
どんな気持ちなのだろうか?
私は遠くから見ている事しかできなかったが、あの少年は結局の所で私の力を使わなかった。
まあ、あの程度の力ではたとえ力を使っても微々たるものだっただろうが。
「彼には感謝をしなくてはいけませんね。あと少しでこの体が街中に落ちっていた所でした。多くの人間達が犠牲になったでしょう。そう考えたらゾッとしません」
それはそうだろう。
それがカルト教団の目的だったらしい。
竜の支配からの脱却と新しい見知らぬ『神』を作り出す計画だったらしいが、やはりこの世界の人間達は見たことも無い存在にはどうしても受け入れずらい所があったのだろう。
だからこそカルト教団員を操りながら彼らは戦いそして負けたのだ。
「あの少年たちの努力の結果だな。人間とて時には我々竜を超える存在になれる。人は一人一人は小さくとも結束することが出来る」
「ええ。あなたの提案呑む事にしましょう。もし、あの少年が我々の存在を必要としたとき、たとえどんな世界だろうと我々が駆け付ける……と」
やれやれある意味頑固な奴だな。説得するのに偉い時間が掛かってしまった。
「あの少女はどうなった?確か……マリアとか言ったか?」
「成長できたようですね。その辺もあの少年に感謝ですね。そろそろ行かなくてもいいのですか?」
「そうだな………では、また」
そう言って私は部屋から出ていくと羽を広げて街の中へと降りていく。
「何の用ですか?第二位」
「良いのですか?空と呼ばれているの少年を自由にして」
「いいんです。今はまだ『竜の欠片』の継承者ではありません。我々が動くのは彼の試練が終わった後です」
「空の試練はこれからですか?しかし、その前に空にはジャック・アールグレイとの決着があるでしょう」
「それについてですが、聖竜に尋ねたところ来年には決着がつくそうです。来年の今頃には決着がつくと」
「なら……良いのか悪いのか。しかし、そうなってくると我々が動くのは試練の後で良いのですか?」
「そうなるでしょう。今はあの少年が乗り越えてくれることを祈りましょう。あの少年と三十九人の決断を祈ることしかできないのです」
カルト教団は重い腰を上げた魔導大国と帝国政府によりすぐさまに駆逐され、カルト教団の背後に共和国の存在を感じた魔導大国は今まで参戦を控えていた大戦に自らも参加する旨を帝国に打診した。
カルト教団魔導協会襲撃未遂事件。
そう名付けられる事になるこの事件は戦争終結へと確かに向かって行った。
俺たち士官学院はその後事件の残存処理などに時間を費やすとあっという間に研修日程を過ごしていった。
義父さんが退院した頃には事件はほぼほぼ終わり、エリーも無事怪我も無く、レクターやジュリとレイハイムもかすり傷程度で戦い終え、俺とマリアはメインシステムを復旧させた後、魔導協会の増援に処理を任せた。
飛空艇は後一時間で飛び立つと言った所で空港では最後の魔導都市での時間を各々が過ごす中、俺はジュリと共にマリアとイースさんとの別れを惜しんでいた。
「すみません今回もあまり役に立てず」
イースさんは本当に申し訳なさそうにしているが、俺達からすれば巻き込まれなくて良かったぐらいの気持ちなのだ。
ジュリとイースさんが話し込んでいる脇でマリアは俺の方へと近づきながら話しかけてきた。
「お主には世話になったな。礼を言うぞ」
「別にいいよ。言いたいことを言っただけだし」
「ならこれ以上言わん」
それはそれで冷たいような気がするが。
「すっきりとした気持じゃな。なんじゃ………お前さんのお陰でやっと一歩を踏み出せたような気持になる」
「なら、それはきっとマリアが自分で乗り越えた証拠だよ。俺は何もしていない」
飛空艇に移動している姿が見えてくると俺は多少急いで乗り込んでいく。振り返るとマリアとイースさんが手を振っている姿が見えてきて、俺は一度完全に振り返り大きな声を発した。
「ありがとう!俺もやっと覚悟できそうだ!!」
俺も悩んでいたのだろう。
誰かを助けつ事に躊躇していて、三十九人を探す傍ら彼らが死んでいたらどうしようという気持ちがどこかで俺に捜索への一歩を踏み出させなかった。
しかし、誰かを助けることは決して無駄じゃない。
マリアは命を懸けてもこの街の人達を救いたいという勇気を見せてくれた。
勇気ある一歩こそ重要なのだ。
マリアは大きく微笑むと何も言わずに照れくさそうにしている。
君が泣いていたことは黙っていてあげるよ。
これぐらいの秘密は……有ってもいいだろう。
「帰ろう……」
自然とこぼれるその言葉に驚きながらも俺はあそこが俺の家になっているのだと確信してしまう。
いつの日か………母さん達と暮らせる日を夢に見ながら歩き出す。
明日はきっと………晴れだ。
どうでしたか?大分エピローグ部分は削ってしまいましたが、まあ書きたい部分はかけたので自分的には五十点を与えたいですね。次の編で取り敢えず『ドラゴンズ・ブリゲード』は終了となります。次は長編を一本考えており、次の長編で私の中で考えている『呪詛の鐘』にまつわる物語は終わりになると思います。まだまだかかるとは思いますが、どうか末永くお付き合いしていただけますようお願いします。では次回お会いしましょう!




