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竜達の旅団≪ドラゴンズ・ブリゲード≫ 【呪詛の鐘の章】  作者: 中一明
ドラゴンズ・ブリゲード
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湖畔の街 デーリー 6

最新話後半戦になります。

 樹海の中は濃い霧で包まれており、そんな中手練れたちが銃撃戦を繰り広げていたが、決定打を環境保全と軍と警察の混成軍は打てずにいた。

 その理由はこの霧によって敵の所在地がつかめずにいるからだ。

 しかし、この霧の正体は石像と化している風竜の隣で嘲笑う精悍な男性によるものだ。腕に取り付けられた魔導機を使用した人工の霧。その力も風竜のDNAを採取できたことで可能にした異常な力だ。

 しかし、敵が予想以上の攻勢に出ているのも事実で、このままでは撤退まで持たない可能性が出ていた。

「フム。このまま石像として売り出そうと考えたいたが、どうやらペットにしておいた方がよさそうだな」

 そう言いながら首輪付きの鎖を取り出し、それを首に取り付けながら体中に文字を刻みつけられた鎖を巻きつける。文字が不気味に発光しており、男が槍を引き抜くと無機質な石から質感を伴う竜の体へと変貌を遂げる。

「ぐぅ!?貴様………私を…操ろうと!?」

「ああ、戦ってもらうぞ。そうすれば餌を与えてやろう」

「誰が………貴様のような悪人に!!」

 抵抗しようとするが全身に発光している文字が浮かび上がっていく風竜、男は悪人という言葉にどこか喜びを感じているかのように微笑を浮かべる。

「悪人……か。そうかもしれないな。私はあくまでも利益を上げられればいいんだよ。それが全て。その為に目の前の命を奪えと言われれば私は喜んでその命を奪おう。さあ!!戦え!風竜エアロード!!」

 怒りに燃える瞳から感情が奪われていき、無感情が支配するエアロードは静かに頭を垂れる。

「はい。アールグレイ様」

 アールグレイと呼ばれた精悍な男性は頭を垂れるエアロードの額を優しく撫でてやる。本来は竜が上位の竜に対して行う服従の行為。エアロードの体は完全にこの男に支配されていた。

『私の心を利用されてしまった。この男は誰よりも他人を理解している。私が人間界から離れている間にこんな人間が生まれていたとは』

「何を考えているのかね?」

「『私の心を利用されてしまった。この男は誰よりも他人を理解している。私が人間界から離れている間にこんな人間が生まれていたとは』と考えています」

『私の心を『呪言の鎖』で代弁させるとは。そもそも、『呪言の鎖』は機竜が管理していたはずだ。何をしているんだ?』

 アールグレイはクスクスと笑い出す。何がおかしいのか、どうしてここで笑うのかエアロードはどうしても不思議だった。

「噂通りなのだと本気で思ってな。竜は元来人間………下位の存在を見下す傾向がある。それは人に優しい機竜ですら違わない。しかし、君は違う。君は決して人間を見下さない。それゆえに竜ほどの愚かさを持つ人間を嫌う。君は人間が嫌いなんじゃない。知性が嫌いなのだろ?」

「はい。知性は争いを引き起こし、絆を引き裂く。無益な争いは知性が引き起こすからです」

「それゆえの人間嫌い。ならやりようはある。『呪言の鐘』は取り付けられてしまった肉体を支配する術だ。しかし、見下す傾向の強い竜にはどうしても聞きづらい傾向がある。これは『人間如きには支配されない』という感情があるからだ。しかし、君は違う」

 エアロードの顎下を撫でながらも決して見下すのではなく、憐れみと慈しみを混ぜたような視線を送る。

「対等に見ている存在である君は人間を見下すことが出来ない。勿論君が突然見下す可能性も否定しきれないが、今更何百年も、何千年も何代もの風竜が続けてきた考えた改める何てできないだろう?たとえできたとしても、急にはできない。私はそこに掛けただけさ」

『なんと恐ろしい男だ。命を利用することに全くの躊躇いが無い。それどころか、この男は自分が悪だという自覚と誇りがある。その全ては先ほども言った利益の為。この男……何故―――――』

「思ったことは素直に聞くと言い。私は許可しよう」

「あなたは何故人間なのですか?」

 これほどの滑稽さと頭脳、度胸と勇気、誇りを持ちながらもプライドには固執しない。ある意味高スペックな存在でもある。竜であればこの男は天下も取れたかもしれない。

「?なんだそんなことが気になったのかね?」

 エアロードは黙って頷く。

 アールグレイは顎下に手を当てながら思考した。その姿をエアロードはこの一週間で初めて目撃した思考する姿だった。

「世界がそう決めたからだ。君だって同じさ。世界がそう決めた命に我々は逆らえないのさ。君は人間にどこまでも似通っている。なのに君は竜だ。私もそうだよ」

『だとしたら世界も不憫な事をする。この男は竜として生まれた方がまだましな人生だっただろう』

 アールグレイは内側のポケットから一本の杭を取り出した。先ほどの呪言の鎖と同じく不気味な発光する文字が描かれているそれを額に近づける。

「これも呪言の鎖。君は知っているだろう?そして恐怖しているはずだ。今はまだ君の意識が頭の中には残っているはずだ。だからこそ思考することが出来る。体を動かせず、命令に逆らう事が出来ずとも、自分の意思を持つことが出来る。しかし、これを突き刺さればそれすらも終わる」

『やはり持っていたか。知っているさ。私の三代前はこれをやられて五年間人間にこき使われている。進歩しないとはこのことだな。反省もしない』

 正直エアロードは諦めていた。

 自分という自我が失われるかもしれないという真実を前に自分はもはや何もできない。エアロードの、風竜としての愚かさがそうさせると。

 それでも、エアロードは人間を見下せない。見下そうとも思わない。

『ここ一週間テレパシーを微弱にだが周囲にはなっていた。竜か感じ取れる人間がいれば私の居場所が分かったはずだが、それも終わりだな。無駄な徒労に終わってしまった』

「これを突き刺せば君の頭の中は作り替えられていく、ゆっくり確実に、そして完全にな。これが解き放たれるまで君の頭は私の物だ。解放されるまで頭の中は永遠にいじくられ続ける」

 それも分かっている事だ。

『アールグレイ…………ジャック・アールグレイ。覚えていよう』

 それだけは失わないように。

 この凶悪な男を忘れないように心の奥に刻みつけながらゆっくりと杭が頭の中へと入ってくる。

 その瞬間。エアロードの頭の中に存在する記憶、感情………心にまで杭は浸透していく。突き刺さり作り替えられていく。

 一粒の涙が流れたことを切っ掛けにエアロードは次々と涙を流す。

「悲しいのか?自分が自分で無くなっていく感覚が?この杭を取れば君は自分に戻れるのだぞ?しかし、そもそもは君が人間を見下さないからだ。こんな目にあってもなお君は?」

 逆らう事が出来ない。隠し事が出来ない。

 心に思った感情を全てストレートに吐き出さなくてはいけない。

「私が生きてきた二百年という月日が君の手で書き換えられていく悲しみがある。しかし、それでも私は………人間を見下さない」

 アールグレイは今度こそ悲しみの目をし、同時に目の前に存在する命に初めて敬意をもって接した瞬間だった。

「君は人間ならきっと幸せな人生になったのかもしれないな」

 頭の中が上書きされていくのがエアロードにも分かった。

 記憶のすべてにアールグレイが唐突に現れ、自分を躾ける光景が浮かび上がる。

 感情の全てもアールグレイに努力することでしか発揮できない。

 心も全てはアールグレイの為にある。

 心から目の前に存在するアールグレイという精悍な男への尊敬、ご主人様への敬いが生まれた。

「アールグレイ様。なんなりとご命令を」

 この杭が引き抜かれれば元に戻ることが出来る。それが分かり、同時にそうしたいと今そう思う存在はここにはいない。

「君は誰の為に生きている?」

「アールグレイ様の為に生きています」

 今エアロードは己の今までの人生を破壊した。

「今までの君は自分の為に生きてきたのではないのか?」

「いいえ。全てはアールグレイ様の為に生きてきました。あなたを喜ばせ、あなたの敵を葬る事こそが私の喜び」

 嘘のない言葉を吐き出すエアロード。

「その為に何が出来るのかな?」

「服従を。私の頭から尻尾までの全てをあなたの為に捧げます」

「では君達竜なりの上位への忠誠の仕草を」

 エアロードは四肢の全てを地に伏せ、顎を地面にくっつけながら羽を折りたたむ。瞳を瞑り、口を閉ざし、尻尾を折りたたんでいるその仕草はどことなく降伏しますという合図のように取れた。

「私の頭に手を置いてください。これが」

 これこそが竜が嫌がる忠誠の仕草。絶対に人間にはしない仕草である。

 アールグレイの掌はエアロードの額にそっと乗せ、同時に少しだけ力を込めてみる。

「私の全てをあなた………ジャック・アールグレイ様の為に」

「その忠誠確かに受け取った。では………早速仕事してもらうぞ」

 エアロードは真剣な眼差しをアールグレイへと送る。

 どこまでも楽しそうな表情を浮かべたアールグレイの心はある意味満たされていた。誰もが成し遂げたいともいながらも、多くの人間が成し遂げられなかった事を自分がしているという真実。それが彼を高揚させていた。

「私の敵を葬り去れ。それが君の仕事だ」

「はい。アールグレイ様。見ていて下さい。私風竜エアロードが全ての敵を葬って見せましょう」

 そう言うと風竜はそのまま霧の奥へと消えていく。

「あはははは!!ははははははは!!!最高だ!この高揚感。久しく感じていなかったな。これは利益を上げるだけでは感じる事の無い感覚だ!そうか!支配するとはこんなにも気持ちのいい物だったのか!」

 支配する喜びと利益をさらに出すことのできる方法を思いついた高鳴りが同時に襲ってきたのだろう。それ以上ない喜びに満ち溢れていた。

「エアロードも何もできなかったのだろうな。石に変えられている間は遠くへのテレパシーを送っていたようだがな。精々デーリーぐらいだろう。まあ、人間の中で竜のテレパシーに反応できる人間はいないだろう」

 それこそがアレイスターにとってある意味誤算と言うべき状況だったのだろう。

 まさか、テレパシーを読み取ってこの場所まで来ようとしている人間いるとは思わなかった。

 それがアレイスターにとっても後に己の天敵と認めるほどの存在だとは思わず。

 今空達が現場に姿を現そうとしていた。


どうでしたか?面白かったと言っていただけたら幸いです。次回空達が戦場に辿り着きます。そして……因縁の出会いの始まりになりますのでお楽しみに!デワデワ

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