辿り着いた未来 5
後日談エピソードもそろそろ終わらせなければいけないんですけど………まだ十話以上続きそうな気がする。いや………続くな。
翌日。
奈美と母さんがこの世界に来て初めての朝を迎え、俺は目を覚ますと目の前にあるはずの天井のシミよりも右腕にのしかかってくる懐かしい重みを感じていた。
ああ、この感じ懐かしいな。
首を右腕の方に向けるとそこには俺の妹の寝顔がズームアップで映し出されており、俺にとっては三年ぶりの懐かしい光景でもある。
幼い日。怖い映画を夕方に見てしまった妹、寝付けないからと俺のベットに夜中のうちに入り込み、勝手に布団に入り込んだのは俺にとっては懐かしい感覚でもある。
あの頃のように綺麗な寝顔がそこにはあり、重たい右腕を何とか奈美の頭から退かせる必要があるわけだが、ここは面倒くさいので起こすことにした。
「おい起きろ奈美」
「後一時間………」
「一時間も寝ていたら七時になってしまうんだが?いい加減起きろ」
「だったら………二時間」
「増やせって意味じゃない。ていうか増やすな。何時間寝るつもりだ?」
「……沢山寝たい………zzz」
「俺………『zzz』っていう声初めて聴いたよ。ていうか起きているだろ」
「zzz」
駄目だ。布団から出るつもりも無いうえ、よく見ると左手で父さんが一か月前に購入した大きな人形が握られている。
自分の部屋に帰ってほしいし、そもそも今日は一日家族と一緒に行動するつもりだし、その為にはそろそろ起きて準備をしておく必要があるのだが。
「無理矢理にでも起こす必要があるのは確かだ………ならここは……」
俺はニヤリと笑いながら手をまっすぐ伸ばし、ベット近くの棚の中に入れておいた洗濯ばさみを取り出し奈美の鼻に付ける。
奈美が体を捻りながら抵抗してくるので、俺は適度に邪魔しながら目を覚ますのを待つ。
奈美が目を覚まし俺は外着へと着替えてそのまま食堂へと急ぐ、キッチンで食事を作っている母さんに挨拶をし、皿をなべて朝食をとる為の準備に入ると、俺は自分の席で新聞に記載されている前日の売り上げランキングに目を通す。
俺達の『たこ焼き』はエリア1で二位を記録しており、一位は大本命の劇団『オールガー』であるが、その差は僅差だったようで、今後はエリア1の勝負はこの両出店にかかっていると記載されている。
「劇団と僅差とは……さすが両商会の力があるってものだな。今日一日は俺は非番の日だから………まあ、他のメンバーに任せるしかないな」
新聞の中には各エリアのランキングが乗っており、ガーランドが代表をしている出店のいくつかが上位十位に入っているところもあるので油断らない。
俺としてはこのまま負けるつもりも無いのだが、家族やジュリとのデートも予定に入れているためスケジュール管理はきちんとしておかないと。
「ねえ、ソラ。父さんと奈美はまだ寝ているわけ?」
ため息しか出てこない。
俺は食堂から出ていき、上への階段を昇っていくとその真ん中で父さんと奈美が寄りかかる形で寝ていた。
「………器用な体勢で寝ているよな。どうやってらこんな状況で寝れるんだ?」
さて、どうやって起こすべきか。
なんて腕組みをすながら思案していると後ろから冷汗を感じる程の恐怖が身に襲い掛かり、急いで振り返るとフライパンを握りしめて笑顔を寝ている二人に向けている母さんがそこにはいた。
恐怖しか感じないので俺は後ろに下がって母さんの出方を見ることにした。
笑顔のままフライパンを名一杯振り上げ、空気を肺に大量に入れる動作を見せると同時に俺は耳を塞いでいた。
そしてなるべくこれから被害にある二人の方を見ないように目を背ける。
「いい加減起きなさい!!」
フライパンが周囲の物に当たっている音と母さんの普段聞いた事の無い大きな怒鳴り声である。
二人は恐怖のあまり目をすっかり覚まし、そのまま土下座を母さんに決めることになってしまった。
一時間後、俺達家族は帝城前広場までやってきていた。
「綺麗!昨日の夜家の窓から見たけど本当に綺麗な城だよね。白と青が色合いが………!」
「本当ね。こんな景色をいつだって見れるんだからお得ね」
ここに三年も住んでいるともうそんな気分はすっかり消えるわけなのだが。
まあ、そんなことを言えば台無しなので口には出さないけれど、俺からは特にいうべきことが無い。
「父さん………今日本日の日程は?」
「北区の華園でも見に行こうと思っている」
あの華園の事か?
北区の旧市街地にある小さな丘の上に存在している花などの植物を楽しむための遊園地のような場所で、様々な施設が用意されている。
あそこも普段しない様なイベントを催していたはずだ。
それ以上に人工的な川や滝は見る者を虜にするとすら噂されている。
そう噂というだけで俺自身は言ったことが無いのだ。
そもそも北区なんて用事が無ければ立ち寄る事なんて絶対にしたくない場所である。
「ねえ!ここから同移動するの?」
「我が家は車が無いしな。中央駅で区画間列車に乗ってまずは北区に行く」
という事でトラムに乗って中央駅まで移動し、そこから区画間列車に乗って北区へと進む。
「わぁ!ここからなら帝都の街並みが一望できる!」
確かに新市街地も旧市街地もこの列車に乗れば一望できるので観光列車としてもこの列車は有名ではある。
「一望できるって、反対側の新市街地は見えないだろ?」
「良いんだもん!そんな些細な事!」
ここ二か月ほど区画間列車何て使っていないので、随分ここからの景色も懐かしく感じてしまう。
前に使った時はクーデター事件の最中、黒い鎧を付けた騎士事堆虎を追いかけていた最中でのことだったし、その時だって途中下車みたいなモノである。
「なあ、聞いたか?この列車。クーデター事件の時南区と西区の境目辺りに堕ちたらしいぜ」
「ああ、聞いた。聞いた。なんでも学生とクーデター派が争って落ちたんだろ?」
「学生がそんな事出来んのかよ!?」
「士官学生なら可能なんじゃね?知らないけどさ」
随分真実が歪められているうえ、肝心の真犯人の名前が無いのはどういう事だろうか?
「そんなことがあったんだ。怖いね」
奈美は気が付いていない様なので俺としては一安心という感じだが、母さんは気が付いているのかもしれない。
まあ、俺としては忘れられない事件だし、忘れようとしてもそんなことは無理である。
西区中央駅に到着し、乗客の乗り入れの激しく俺達は開放と窮屈を連続で受ける羽目になった。
人が多くて困るが、七夏祭というだけあってこの列車の重要度は間違いなく増していることだろう。
その上今日のお昼からはパレードが始まるはずだし、余計に重要度が増すはずだ。
「午後から車の規制が始まるはずだからな、それを知っている人は余計に車を使うだろうな」
「パレード見たい!お父さん見るよね!?」
「ああ、北区に見るのにおすすめの場所があるんだ」
俺には身に覚え内の無い場所なのだが、父さんが言うのだから間違いないのだろう。
「北区の帝城が見える場所に大きな広場があって、その広場回りを半周することになる。そこの広場のすぐ近くに隠れスポットがあるんだ。普段から人があまり近づかないんだがな」
「そんな人の寄り着かない場所を父さんはどうして知っているわけ?」
「軍の警戒ルートの1つでな。こういう祭りイベントはこういう人が普段いかないような場所は密売なんかが行われる場所で、今年も警戒の為に何人かが見張っているはずだ」
なら安心である。
間違いない。
なんて話をしている間に列車は北区へと到着していた。
ここからでも華園がよく見え、俺は駅に降りると華園の方を優しく指さす。
「あそこが華園だよ。小さな丘回りに作られていて、人口の川と滝なんかがある公園みたいな場所だよ」
奈美が身を乗り出して華園のある場所から視線を北区の旧市街地方面へと向けていく。
「なんか、綺麗な街並みだね。南区は古くてどことなく懐かしさを感じる場所だけど、ここは………坂や道路、街灯から何かまで建物が多少低めにできてる」
「そうなんだよ。ここは大きな庭と広い建物が特徴の高級住宅街で、町全体の外観もそれに合うように高級さを出しているんだ。南区は狭い場所に高い建物を作っているから庭を造る様なスペースは無いだろ?」
「うん。ここはそれだけスペースがあるって事?」
「そうだな。ここは研究部署なんかも存在しない代わり、高級さと観光としてのイメージが南区以上に高い。まあ、細かい説明は降りてからにしようか」
父さんと母さんはすっかり降り始めているので、俺達兄妹も慌てて追いかけていく。
感想は後編で!では二時間後に!




