ワールド・ポイント 2
後編となります。様々な視点で描いています。結構難しかったです。
ジュリ達との別れから一時間以上が経過した時、王島聡はスカイツリーの展望室から浅草の街と東京を眺めていた。
眼科で燃え盛る東京の街並み、そしてそのさらに向こう側では更なる混沌が待ち受けているのだと思うと王島聡は正直胸がスカッとする気持ちがした。
この炎の向こう側でも同じように殺し合う光景があり、更にその混乱は更なる混乱を呼ぶとは誰も思わない。
「自らの業に焼かれて滅んでしまえばいい」
王島聡の後ろには操られた自衛隊が複数人で待機しており、それぞれがアサルトライフルを構えながら徘徊している。
皇居一帯では壁のような存在が邪魔をしていて攻撃が通らないことはここに現れていこう直ぐに確かめた。
東京湾に存在する奇妙な逆さの街とでもいう存在も同じように奇妙な力で守らている。
「まあいい。最初の目的はこの世界を滅ぼすことだ。それを達する。取り敢えず三時間か四時間で世界の秩序を崩壊させたいな」
「出来るさ。もう既に崩壊は始まっているはずだ。『呪詛の鐘』を使う状況を整えつつ政府の中核を攻撃することで正常な判断能力を奪う」
「ああ、既にアメリカと日本は正常な判断能力を奪われているし、自衛隊や警察、米軍も既に『呪詛の鐘』の効力で殺戮が始まっているような状況だ。後はこの流れで主要都市に攻撃を加えていくだけだ」
「どっちから始める?国内か?それとも海外か?」
「両方だ。大阪、福岡をはじめに順次攻撃を加えていき、同時に海外にも攻撃を加えていく。海外の中でも国の面積が多い国は特に念入りにする必要がありそうだ」
「私の体力もある間は開けるぞ。それでよいな?」
「それでいい。取り敢えず四時間ほどで首都クラスは落としたい。それからは順次攻撃を開始する。問題は核攻撃だな……」
「こちらから視認できるのか?出来ればこちらから仕掛けられるぞ」
王島聡は自衛隊を呼び出し確認させると人工衛星の映像を優先にスカイツリーに集めさせる。
「これならすぐに動かせるな」
人工衛星と自衛隊のイージス艦を各所に配置し、日本に接近するミサイルを決して逃さない。
「接近を確かめたら木竜爆発させずに処理できるか?」
「どうして?」
「爆発さえた場合こちらにも被害が出る可能性が高い」
「安心しろ。機竜が日本中に結界を張っていて守ってくれるさ。着弾しない限りはそれだけで大丈夫だ」
「なら爆発させた後に発射場所に攻撃を」
「任せておけ」
木竜は溜め込んだエネルギーを新たな都市に向けて放ち、そのエネルギーの光が遠ざかっていく光景を眺めていると後ろにいる自衛隊員が大きな声で現れた。
「先ほど東京二十三区全域を押さえました。生き残っている民間人もどうやら皇居に集まっているようですね。残りの市民はこちらで洗脳が完了しております」
「分かった。スカイツリーを中心に防衛戦を張る。東京駅と空港は念入りに防衛隊を張れ。あそこは敵に侵入されやすい場所だからな」
「ところで………日本駐留のアメリカ軍が東京二十三区に侵入しようとしているようです」
「?どこからの侵入だ?まさかとは思うが正面からの侵入ではあるまい」
「戦闘機と戦車が後二時間で侵入しるようです。それに伴い電車を使っての侵入も懸念されます」
「………対処は君達に任せる。出来る事なら呪詛の鐘で洗脳したな………市民を前面に押し出して対処しろ細かい作戦は任せる」
「分かりました」
東京駅到着の米軍部隊は地下鉄の路線から歩いて侵入し、上を確認しながら階段を昇っていく。
「進路クリア。今の所障害はありません」
ゆっくりと確実に近づいていくが、東京駅のロビーへの道を進んで行き丸の内中央の出入り口目指して進もうとするが、出入り口一帯で一人の女性が歩いて現れる。
一人の女性がフラフラした足取りで横断する姿を目撃すると、一人のアメリカ軍兵士が「大丈夫ですか?」と言いながら近づいていく。
「駄目だ!罠だぞ!」
制しようと右手をまっすぐ伸ばすが時すでに遅く女性の体が大きな爆発で包まれ、米軍兵もその爆発に巻き込まれる。
女性の破片と思われる肉片が男性兵の一人に頬にくっつき、巻き込まれた兵のアサルトライフルが黒焦げの状態で転がって来た。
「一般市民を利用したのか!?まずい!囲まれる。散開!」
しかし、時すでに遅く後ろから近づいて来た一般市民である男性がハンドガンを発砲し、商品棚から手榴弾が投げ込まれる。
逃げるだけで精一杯の状態で東京駅から出ようと中央の出入り口から出る。すると、正面に自衛隊がアサルトライフルと戦車で盾を作り、同時に後ろからは市民が手榴弾で自爆準備を整えている。
「降参しろ!陸上から接近していった部隊は既に降参してる。後は貴様達だけだ!」
米軍の兵たちは迫ってくる戦力を前に降参するしかなかった。
皇居の中では逃げ込んだ市民があちらこちらでテントなどで体を休んでおり、その姿を一人のガイノス将兵であるサクトが見て回っていた。
「酷いわね。こんな所でテントは張らないとまともに休めないんだもの。人によっては地べたに直接寝ているような状態ね」
皇帝陛下と天皇陛下が現在話し合いをしている邸宅までの道を歩いていくと、サクトは正面で守っているガイノス帝国出身の親衛隊が警備を横切り、さらに奥へと進んで行く。
「無理もないわね。ここ以外東京二十三区の中で安全な場所なんて無いんだもの。まさしく世界の終わりを見ているような気持ちになるわね」
短めの軍用スカートが風でなびき、腰に差しているレイピアが存在感を周囲に放ち、周囲で休んでいる一般市民の目がどうしてもそちらに向く。
サクトの足元に一人の少年が歩いてくるとサクトに「食べ物下さい」と手を差し出す。
「お父さんやお母さんは?」
「………死んじゃった」
サクトは辛い表情をしながらポケットに何かは言ってたかと探っていると、こちらに来る時に持ってきたガイノス製のビスケットが入っていた。
「ごめんなさいね。こんなものしかないわ」
そう言って少年の手のひらにビスケットを置くと少年は丁寧にビスケットの入っている袋を開け、一口ずつ味わいながら食べていく。
「そうだ。向こうにある拠点用のテントならもう少し食べ物があるかもね。一緒に行く?」
少年は「いいの?」と少しだけ遠慮気味にしながらビスケットを齧る。サクトは「お腹すいたんでしょ?」と尋ね、少年は黙って頷く。
少年に手を伸ばすサクトとその手を掴み確かにテントの方へと歩き出す。
テントまでは少し坂の上を昇っていかなくてはいけない上、坂の上にも同じように多くの人が路上で休んでいる。
サクトはそんな人達を見ると心が痛み、同時に自分達の世界で生み出された道具がこうしてこの状況を作り出したと自らを責めたくなる。
しかし、責めたとてこの状況を打開できるわけでは無いと切り替えテントの設営されている広場までたどり着いた。
江戸城本丸跡に設営された大規模テントには側面にガイノス帝国の国旗が書かれており、そんな複数のテントが繋がっており、ちょっとした建物のようにも見える。
サクトはその内の1つキッチンとして使われている区画に入っていくと、中で働いている食堂担当の女性士官に近づいていく。
「忙しい所悪いんだけどこの子の為に何か小腹を満たせる食べ物無いかしら?」
「えっと………丁度今できた食事があるんですけど。試食していきませんか?」
「良いのかしら」
「ええ、丁度美味しいかどうかを食べて確かめようと思っていたんです。僕もどお?」
「食べる!」
そう言って深皿に入れられたカレーに似た食べ物とフランスパンを取り出すと少年に手渡す。
少年はパンをカレーに付けながら食べ始め、更に干した牛肉を甘辛ダレでつけてある簡単な食べ物を紙皿に入れて差し出す。
「おいしい!」
サクトは笑顔で「良かった」と心から思えた。
食べている間だけでも辛いことを忘れてほしいと願う。
すると匂いに誘われた人たちがどんどんテントに群がってくる。
時刻はすっかり夜になっており、夜ご飯を目指してテント周りに人が集まってくるのを女性士官たちで捌き始め、他の場所でも同じように食事会がはじめりだしていた。
サクトは邸宅の方を見ながら少しだけ心配な面持ちをする。
どうでしたか?今回は複数の視点で物語を描いており、主人公以外の視点で書いています。次回は主人公視点に戻るつもりです。では!次回!




