表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/113

閑話 天上の会話

アーサー・セルウィンこと秋葉 豊が、天界経由で異世界に転生してから、およそ8年。

その推移を見守っていた天上の神々は、久方ぶりにその経過を見るために顔を合わせていた。


いや、神々にしてみれば8年などとと言う年月は、刹那にも近い時間なのかもしれないが。



「お久しぶりです、先輩」


「あーお疲れさま。それでどう?彼は順調?」


そう言って雲をつかんで椅子をこしらえ、ゆっくりと座ったジーンズのロン毛が切り出す。

どうやら今日はモザイクはかかっていないようだが、風貌の描写は控えた方が良いのかもしれない。



「はい、彼はいい具合に因果律を乱してくれて、この調子で行けば課題の到達点は、楽々突破できると思います!」


そう言って微笑んだ女神も、雲を引き伸ばして。ロン毛と対面した席に座った。

秋葉と対面した時の気合の入った衣装とは違い、こちらもジーンズにTシャツというラフな格好だ。


神々の制服はもしやジーンズにTシャツなのかと、傍から見れば疑いたくなるが、本人達は一向に気にする様子はない。


「うん、作用因と質料因が劇的に変化したからね。天災で世界をかき回しても、結局は表層的に形相因を変質させるだけだからね」


「そうですね。でも私も因果律を変化させようと、特異点を色々と作ったのですが、どうにも上手く行かなかったんですよ」


そう言って落ち込んだ女神は、『はぁ……』と大きなため息を吐き肩を落とした。


それを見たロン毛が、少し苦笑しながらゴブレットに注いだぶどう酒を勧めながら、女神の世界を覗きこむ。


「あ~っ、これだと特異点が強すぎて、修正力が出るんだよ」


ログを見ていたロン毛が、ぶどう酒片手に後輩の失敗を指摘する。



「え~っ、でもでも教本通りに対立軸やバランスを細かく調整したんですよ!」


ぶどう酒で少し赤い顔をしながら、弁明するようにそう答える女神に、ロン毛が優しく諭す。


「いや、どちらも特異点としては影響が『強すぎた』んだ。

だから、行き場を失った作用が特異点に集中して、『修正』されちゃったんだよ」


そう言ってログの中から、過去に女神が『特異点』として世界に現出させた『魔王』や『勇者』を表示する。



「ほら、世界の平均と比べて、明らかに突出しちゃってるから、揺り戻しが大きいんだ。

やるなら数を出して、個の特異率を薄めるとか何らかの対策をしないとね」


ロン毛としては優しく言ったつもりだったが、すでに女神は涙目でゴブレットを持つ手がプルプルと震えている。

そしてうーっと唸りながら、ぶどう酒を飲み干した。


「うぅ~っ、これでも頑張ったんです!バランス調整では、何日も徹夜したんですよ!?


……なのに結果が出なくて!」




そう言って本格的に泣き出しそうな雰囲気の女神に、ロン毛が慌てて話題を変えた。



「いや~っ、でも君のところから送ってもらった魂、ホント助かってるよ!」


ゴブレットにぶどう酒のおかわりを注ぎながら、努めて明るくロン毛が切り出した。


「いやいや、ウチの世界も物理と科学に特化しちゃってるから、魔術的な要素を送ってもらってホント助かったわ!」


無理やりゴブレットを合わせて乾杯の仕草をとり、そういったロン毛にようやく女神が表情を和らげた。


「いえいえ、あれくらいの魂の数で、特大の特異点を送って頂けたんですから、こちらとしては大助かりです」


「うん。僕が地上に顕在した前後は、いくらか使える人間がいたんだけど、ねぇ……」


「どうして、衰退してしまったんでしょうか?」


「僕が特異点として、ちょっと時代を先取りした人レオナルド・ダ・ヴィンチを出したからかなぁ?

モーゼ君とか、けっこういい線行ってたんだけど……」


歴史家や哲学者が聞いたら卒倒しかねない話をしながら、ロン毛も少し笑ってぶどう酒を煽った。


「でもデータがあれば、魔法文化やそれに対応した人を生み出すのは、簡単じゃないですか?」


「いや、それがねぇ……


同居人の出身地(インド)あたりで、一度文明を発展させたんだけど、勝手に核戦争始めたり、ヤバい方向に進みそうだったから、リセットしたんだよ。

その時に新しくデータ作ったら、間違って上書きしちゃってさぁ……」



……この会話を聞いたら信徒激減どころか、全世界で暴動が起きかねない発言をしているロン毛が、恥ずかしそうに頭を掻いた。


「それでこのまま物理方向に突っ走ると、そのうち限界点が来て文明崩壊しちゃいそうだったからね。

ここいらで、ウチの世界も特異点を突っ込みたいなって、思ってたんだよ」


「それなら、もっと強力な魔力の持ち主を、お送り(トレード)しても良かったんですよ?」



「いや、だからそれだと反作用が出ちゃうからね。

同時多発的に指先から炎や水を出せる人間が出現したら、調べこそするだろうけどその特異性は薄められるからね。

そうすれば、反作用も同じように薄くできるんだ」


「ああ、なるほど。文化の成熟度も関係してくるんですね」



ロン毛から見せられたデータを見ながら、フムフムと頷きつつ女神が答えた。



「あれ?でもそれなら、どうして私の世界に送った秋葉さんは、『個』 なんですか?」


「良い質問だね。それはさっき君が言った文明の成熟にも関係してくるんだけど、親和性だね」


「親和性……ですか?」


「うん、たとえ話だけど、物理に明るい魂を、トレードしてもらった数と同数、そっちに送り込んだ場合、どうなると思う?」


「あ~、たぶん異端と思われて、主流にはなれない気がします」


「そうだね、それに出生率と成人までの生存率を考えれば、良くて半数しか残らないだろうね。

そうすると多少の痕跡は残すかもしれないけど、魔法に圧迫されてやがて消えてしまうだろう」


そう言ったロン毛が、ニコリと笑い雲を微調整して、器用に背もたれを作り出す。

そして、ゆっくりと背もたれに体重をかけ、ふんぞり返ってドヤ顔をこしらえた。


女神は、そんなロン毛の様子に乾いた笑いを浮かべてしまうが、「キモい」という単語を飲み込んで質問を続けた。


「でもさっき先輩、私の出した特異点が強すぎたって言ってましたけど、彼は大丈夫なんですか?」


「うん、現出場所の条件もいいし設定的にはゼロスタートだから、ある程度は常識の範囲に収まると思うよ。


それに相対する特異点がないから、注目や期待も局所的になるだろうね」


「なるほど、勉強になります!」


再びのドヤ顔をスルーしつつ、女神が先輩を持ち上げる。

気づいているのか、いないのか。鼻をふくらませたロン毛が、何気なく開いたままのログに目を向けた。



「……あれ?」


「えっ、どうかしましたか?」



女神は突然真顔になったロン毛を見て、不安に思い尋ねますが、問いかけられた本人は真剣にログを追っていた。


そして、気まずい数瞬の沈黙の後、ロン毛はゆっくりと該当箇所のログを女神に示す。


「えっと、秋葉くんを転生させる時に、ちゃんと魂のクリーニングした?」


「えっ?」



そして女神は、昨日の晩ご飯を思い出すようにその時の状況を思い出し、小さく舌を出した。


「……テヘッ!忘れちゃいました!」



「さて、立川へ帰ろうかな!」



あまり可愛げのない後輩のテヘペロを見たロン毛は、即座に立ち上がり戻る支度を始めた。


「いやーーーーーっ! 先輩、みすてないでーっ!!」



ズルズルと女神を引きずって、ロン毛は雲の合間に進んでいく。


「いや、遅くなると同居人が心配するからね……」




次元の違う空のどこかに、悲痛な女神の叫びが響く。

その日の晩は、秋庭 豊ことアーサーの住まう世界に、シトシトと涙雨が降ったとか、降らないとか……



書いてて、バチが当たりそうに思えてきた。

更新が途絶えたら、雷にでも打たれたと思って下さい。


ちなみに因果律等々については、素人なので深く突っ込まないで!(懇願


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 課題の到達点は、楽々突破できると思います!」 合格があるので続け書きません!?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ