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89.信賞必罰



はーれむるーと? なにそれ、おいしいの?

有名になってモテモテだね!とか思った人は、一度ウチの女性陣に囲まれてみるといいよ!


領主の息子の息子(未使用)が、消滅の危機に瀕しているアーサー君です。



「ナンダッテー!!!!」



俺の絶叫は、広い部屋中に響き渡りました。

想像して欲しいんだけど、一般人が自分の知らない所で、突然芸能界デビューさせられたら、たぶん同じリアクションを取ると思うよ。

しかも首相と共演するCMにタイアップされてて、毎日バンバン放送されてるとしたら……どうします?


ええ、つまり今の俺の状況は、現代に置き換えるとそのぐらいの事態だということです。


「まあ、これも仕方のない状況だったんだ。こればっかりは、避けようがない事態だったからな」



デレクさんがそう言って敏腕メイドさんに、お茶のおかわりを頼みました。


ん?ダリルさん? さっきから横でニヤニヤしてますが?


俺は注がれたお茶を飲んで、動揺を落ち着けるとデレクさんが弁解するように口を開きます。


「もし、あのままアーサー君の存在を隠していた場合、厄介なことになっていただろうな。

噂好きの貴族達は、すぐに君の存在に気づいて騒ぎ始めるだろう。


自派閥への取り込みや、それが叶わなかった場合は、難癖をつけて糾弾される」


そこまで言ったデレクさんは、自身も新しく注がれたお茶を一口飲んで、言葉を続けます。


「利に聡い貴族達は、すでに君が金の卵であることを見抜いている。

この氷の魔法もそうだ、昨日の晩餐では氷の彫像と果物が供されたが、これだけでも一財産だろう」


そう言ってグラスを揺らしたデレクさんが、少し表情を引き締めてました。


「料理にしてもそうだ。視野の狭い者はその味に驚き、聡い者はその可能性に気づいている。

食材、レシピや食器、そうしたすべてをまとめれば、莫大な富をもたらすだろう。


本人も魔法の才に溢れ、剣の腕も赤獅子直伝。そして実績も十分だ」



そこまで言ったデレクさんが、グラスをコトリとテーブルに置きます。


「貴族達を鎮めて、内憂を防止するには、あえて陛下自らその功を語る必要があったのだよ」


ああ、なるほど。先にツバつけたのは王家だから、手出すなよって事ですね。


「ハワース辺境伯家へのミレイア様の婚姻は解消されたが、それ故に新たな婚姻については、何も言及がなかったのだ」


……あうち。それって、王家で俺に『売約済み』って旗を、俺の頭に突き刺したのと変わりないじゃないですかー!


俺が思わず額に手を当てると、それを見てデレクさんは笑いをこらえるように、何かを思い出しています。


「しかし、物心ついた頃から騎士に憧れて、手の付けられないじゃじゃ馬娘だったミレイア様が、こうまで惚れるとはな。

アーサー君、失礼だがどんな魔法を使ったんだ?」



そう言ったデレクさんは、ついに堪えきれなくなったのか、忍び笑いをこぼします。


「そう言えば、ミレイア様は自室って事でしたけど、ケガなどはありませんでしたか?」


うん、勘違いでナイフを渡したとかバレたら、間違いなく首が飛びますね。物理的に……

なので俺は、気になっていた事を尋ねて話題をそらしました。


いくらダリルさんがついていたとはいえ、傷でも負っていたら大変です。

一応、曲がりなりにも嫁入り前の乙女ですし、傷モノになったら誰が責任取る?って、ねぇ……



忍び笑いをこぼしていたデレクさんは、ミレイア様の話題になると、少し真面目に言葉を選びながら語り始めました。


「うむ、傷らしい傷もなく身体面では、何の問題もない。その点はアーサー君とダリルさんの功績だな。


ありがとう、改めて私からも礼を言うよ。


しかし、今回の騒動はミレイア様の軽挙が事態を大きくしたと、見る向きも少なくない。

それに王権の持つ力の大きさを知ること。それに深慮と慎みが必要だと、陛下は考えられたのだ」



「なるほど。信賞必罰は王家の倣い。それで具体的には?」



大貴族をひとつ、それも国境を司る辺境伯家が、取り潰されるかも知れない。

それなのに、もう片方を王族だからと罰せずにおいては不平や疑念が生じてしまう。至極まっとうな考えですね。


まあ、あの(・・)ミレイア様に、首輪をつけられるのかどうかと言われれば、少々疑問ですが……


「そこで悩まれた陛下は、当面の謹慎と準備が整い次第、半年間の修道院での反省を言い渡された。

無論、修道院では王権は凍結……


他の修道女達と同じように、女神様に祈りを捧げるという事だ」



少しだけ声の大きさを抑えてそう言ったデレクさんは最後に、まだ発表されていないので内密に、とつけ加えました。

そうですか、修道院ですか。物の本では貴族が修道院って、体の良い監禁手段ですが、この世界ではそうではないようです。


って、女神様に祈りを捧げるってのが、俺的には……



「まあ妥当な罰でしょうね。そうなれば、残りの稽古については……?」


「残念だが中止という事になる。だが、陛下からは傷が癒えるまで、城に逗留するようにと……」


そこまで言ってデレクさんは、俺に視線を向けて舐めるように上から下まで、ジロジロと視線を走らせます。

いやん。デレクさんってばショタの気があったんですか?やめて下さい俺はノンケです!


「まったく、あの怪我だと最低でも10日は、回復魔法を受け続ける必要があると、ウチの治療師が見積もっていたのだがな」



そう言ってフッと笑ったデレクさんに、ダリルさんが混ぜっ返します。


「ウチの領では、毎日俺との訓練でけが人には事欠かんからな。否が応でも腕前は上がるさ」


うん、自慢のようにサラリと言ってますけど、ダリルさんそれ自慢になってないですからね?



少し場の空気が和んだ?ところで、疑問だった事に話を向けました。



「それで、あのウードは一体何者だったのですか?本当にただの冒険者だったのでしょうか?」



俺がそう聞くとちょうど夕の鐘が鳴り、ダリルさんとデレクさんが何かを思い出したように、顔を見合わせます。



「ああ、スマンな。昨日の騎士団の模擬戦で勝った中隊から、祝勝会に呼ばれていてな。少し顔を出してくる。

あの男のことは俺の口から語るよりも、ギルドから届けられた報告書を読んだほうが良いだろう」



そう言って2人は席を立ち、また明日顔を出すと言い残して、部屋を出ました。



「……そう言えば、ダリルさんのエキシビションって、どうなったんですか?」



俺が背中越しにそう尋ねると、ダリルさんは親指を上に向け、デレクさんは肩越しに乾いた笑みを浮かべました。



ですよねー!ダリルさんが得物を逃す訳ないですもんね!






話の都合で少々短め……



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