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83.敏腕メイドの黒い罠!



もう少しすれば、領地に帰れますね。いや、フラグじゃないですよ!

なんだかイベントが目白押しすぎて、時間の感覚がおかしくなりそうなアーサー君です。


色々と事後処理を済ませてお城の部屋に戻ると、敏腕メイドさんが一通の手紙を差し出してくれました。



『親愛なるアーサーへ……


約束の書類を届けます。

貴方と過ごした一時は、私を強くして……そして、弱くしてしまったようです。


明日の晴れの日を、共に歩める事を願って……


ミレイア』




おふぅ、書類だけかと思ったらラブレター付きだったでござる。

なんだかこうした文章って、前世ではもらったことがなかったのですが、いざ受け取るとすごく気恥ずかしいというか、悶ますね。


ミレイア様の肉食系な普段の言動を目の当たりにすると、代筆を疑ってしまうのは気のせいですかね?



えっと、返事とか書いたほうがいいのかな?



俺が悩んで、チラリと敏腕メイドさんに視線を向けると、なぜかその手には便箋と羽ペンが……


お、おそろしや……敏腕メイドさん。



うん、すごく文面には苦慮しましたが、なんとか書き上げてメイドさんに託しました。



……ん?手紙の内容? 俺の黒歴史に触れたいって言うなら、君の家にダリルさんを差し向けるよ?



なんだか戦闘よりも、手紙を書き上げる方が疲れた気もしますね。

そんな訳でもらった手紙を空間魔法の奥底にしまい込みまして、その日は早々に就寝しましたよ。





そして翌朝、いつものように起き出した俺は、手早く洗面と朝食を済ませて、あまり赴くことのない城の区画へ向かいました。

ええ、高等法務院に、昨夜の書類を提出するためです。


ホントならピエールさんの所に顔を出して、晩餐のメニューについて細かい調整をしたいのですがねぇ。


おや?行政院の区画を歩いていると、晩餐会があるのでこの辺は開店休業状態なはずなのですが、1か所だけ騒がしい場所があります。

その場所の看板を見てみれば、商務院と書かれております。


ああ、関係先の家宅捜索ですね。俺が横を通ると、見知った兵士さんが少しだけ黙礼してくれました。



そんな騒がしい場所を通り過ぎると、警備の兵士が立っている、少し厳粛な感じのする場所にたどり着きます。

ここが高等法務院ですか。言ってみればこの国の裁判所みたいな所でして、フロックもここで裁かれることになります。


まあ完全な三権分立は望むべくもなく、王家の意向が多分に反映されるんですけどね。


俺はその建物のエントランスホールに置かれた、大きな投票箱みたいな場所に来て懐から書類を取り出します。

ええ、しっかりチェックしましたよ。これで手紙の方を投函してしまったら、全力で王国から逃亡する自信がありますね。


そしてパサリと音をさせて、書類を箱に入れました。

これで十中八九、ディボの運命は決してしまいましたね。


うん、書類を箱に入れる瞬間まで、ためらいがあったのは、正直なところですね。


本当にミレイア様に肩入れして、辺境伯家を敵に回していいのか?父様や母様に、迷惑が及ばないかどうか?


考えたらキリがありません。


俺は何のためにこの世界に飛ばされて、能力を与えられたのか?

考えても仕方ないので、俺は知り合った数少ない人間を、全力で守ることにします。


この間吹っ切れた時、力の出し惜しみはしない。そう考えた決意を思い出したら、自然に書類を箱に落としていましたね。


まあ、自分のやりたいようにやりますよ。俺の人生ですからね。


俺は少しスッキリした気分で、行政区画を抜けて式典会場の方に足を向けました。





式典会場は、城の北側に作られた閲兵場が中心になって組まれていました。

丘の高い位置にある城から見て見下ろすような場所に、広い草原がありまして、そこが閲兵場になっています。

そこで騎馬隊の陣形を展示し、丘の上に設えられた貴賓席で、貴族達がそれを観戦していますね。


それとは別に、飼葉の束で作られた四角い囲いの中で、騎士団の模擬戦が行われています。


誰かさんのせいで騎士団全体のレベルが底上げされたせいか、例年よりもかなり白熱しているみたいですね。

その熱気に引き寄せられるように、ギャラリーも湧いております。


あれ?トーナメント表の一番上に、エキシビジョンって文字があるんですが、気のせいでしょうか?


うん、疲れてるわけじゃないよな?目をこすっても幻覚のたぐいじゃなさそうです。


……ダリルさん。アンタ、何やってるんですか。




ブレないダリルさんの生きざまを見て苦笑しながら、俺は会場の中央に足を進めていきました。

そこは一段高い閲兵台が組まれていまして、遠目に王様と王妃様、そしてミレイア様が見えます。


ドレスを着たミレイア様は、普段の肉食系獰猛な姿とは違い、外見はお姫様らしく見えますね。


まあ、本人にそれを言ったらブチのめされるので、絶対に言えませんが……



俺は手近な警備の兵士さんを捕まえて、アランさんへの伝言を頼みました。

その本人は近づけばハッキリとわかるほど、険しい表情を浮かべています。


その理由は明白でして、昨日の捕物は、満点の出来とは行きませんでした。


権力に溺れていたウシガエルと違い、己の才覚で生きている商人はずる賢いですね。

騎士団が踏み込むと、商家ではすでに縛り上げられた番頭が店の人間の手で、騎士団に引き渡されたのです。


どこから情報が漏れたのか、先手を打って番頭を差し出すことで、トカゲのシッポ切りとなってしまったのでした。

さすがにそうまでしている商家に土足で踏み入り、強引に店を取り潰す訳にも行きません。


しかもご丁寧に、責任をとってミュアー商会長は引退。息子が経営を引き継ぐと、その場で明言したそうです。

まず間違いなく、現会長が裏で実権を握り続けるのは確実ですね。


俺の言伝は、無事にミレイア様の後ろに控えているアランさんに伝わりまして、そこからミレイア様に伝えられます。

式典の最中はさすがのミレイア様でも、自由に動きまわることは出来ません。


チラリと向けられた2人の視線を感じまして、わずかに黙礼した俺は、決闘会場になる中央庭園の一角に向かいます。

今日は朝の稽古もなく、澄み切った空と庭園が、昨日までの慌ただしさを、まるで嘘のように感じさせますね。



「はあ、今日は本当にのんびりしてるなぁ……」


頭上をゆったりと流れる雲を眺めながら、俺は思わずそうつぶやいてしまいました。


「ええ、そうね。昼から決闘があるとは思えないような穏やかさね」



不意に横から声が聞こえまして、俺は驚いて振り向きます。


すると、アランさんを引き連れたミレイア様が、涼しい顔でこちらに歩いてきました。

って、誰だ!自由に出歩けないとか言った人は!



……うん、俺でしたね。


「いいんですか?途中で抜け出して?」


「いくら王族でも、『お花を摘む』自由ぐらいはあるわ」


会場に近く、周囲の目があるこの場では、流石に前を向いたままミレイア様が言いました。

なるほど、アイドルは○○しないとかありますけど、現実はねぇ……


「先程お伝えした通り、無事に鳥は飛び立ちましたよ?」


まるでスパイのように偶然の邂逅を装いながら、そう言った俺にミレイア様が小さく「ありがとう」と答えてくれます。


「はて?先程からまるで符丁のような会話をなされていますが、私にも黙って何か企みごとですか?」


俺とミレイア様のスパイごっこに、少し不思議そうな顔をしてアランさんが口を挟みます。

そう言えばミレイア様が、アランさんにどこまで話しているのかわからないので、符丁を使ったんですが、この様子だと知らされていないみたいですね。


アランさんの胃と頭髪が気になりますが、雇用主の都合ですので俺にはどうすることも出来ません。


「ああ、そう言えばアランには話していなかったわね。午後から少し決闘をしようと思って、アーサーに書類を頼んだのよ」



いやいや、ミレイア様。ちょっとコンビニ行ってきます的なノリで、サラッと決闘をするって言っちゃいましたよ。

ほら、アランさんがアゴが外れそうな勢いで、ガックリと口を開き固まっちゃったじゃないですか!



それに構わず、ミレイア様は一瞬だけ立ち止まりアランさんを一瞥してから、再び進み始めました。


「アランは放っておけばそのうち動き出すわ。それよりも、建物まで護衛してくれるかしら?」


「ええ、喜んで」


こうして俺とミレイア様は少し先の建物を目指して、ゆっくりと歩き始めました。


「でも、アーサーに、あんな詩の才能があったなんて、驚きだわ。強いだけじゃないのね」


そう言って小さなポーチから手紙を取り出します。ああ、どこかで見たことのある便箋ですね。



『籠の鳥は、大空を求め飛び立つでしょう……

空に憧れ努力した羽ばたきは、きっと大空に届くはずです。


貴方の宿り木より』



いやいやいや、ちょい待てや!貴方の宿り木なんて、書いた記憶が無いぞ!


あれ?あっ、そう言えば気恥ずかしくて、意味が通じるだろうと署名をしていなかったような……?


そして俺の脳裏に浮かぶ、敏腕メイドさんのドヤ顔。


ああ、どうやらやられたようです。

そう言えば渡されたのは便箋だけで、封筒に入れず、そのまま彼女に渡したんですよね。



チラリと内容を見てみれば、明らかに署名のところだけ似せてありますが、明らかに俺の字じゃありません。

うわ~、いつから俺はこんなくさいセリフを吐く、キザな子供になってしまったのでしょうか!


全力で訂正したいんですが、いつもの肉食獣的な視線ではなく、キラキラした瞳で大事そうに胸に手紙を掻き抱くミレイア様に、それを伝える勇気はありません。

ここで俺が余計な言葉を吐けば、多分全力で殺しにかかってくると思います。


午後からの決闘を前に、確実に手打ちにされてしまいますよ!



「オキニメシテ イタダケタヨウデ、ナニヨリデス……」



どこかのタイミングで、それとなく姫様に口止めをお願いしないと、もし領内の女性陣に知られたら、ヤバイことになりかねません。



ねえねえ、転生モノの主人公って、どうやってハーレムとか築いてるんでしょうね?



なんか俺には、超絶ハードルが高そうに思えるのですが……?





説明&息抜き回(´・ω・`)

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