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77.お約束のフラグと意外な強敵!?



美味しいご飯は明日への活力、いっぱい食べて早く大きくなりたいですね!

はい満腹で、ごきげんなアーサー君です!



「ごちそうさま~」


アンジェラと奥で忙しそうに動いている親父さんに声をかけて、俺は店を出ようとします。


「ねえ、また来てくれる?今度はゆっくり、セルウィン領の話聞かせて!」


タタタッ、っと駆け寄ってきたアンジェラが、俺にニッコリと微笑みながらそう言ってくれました。


「うん、美味しかったからまた来るね! あっ、それから……」


「ん?どうかした?もしかして、一目惚れとか~」


「いや、そうじゃなくて、仕事の合間でいいから、幼年魔法学校に行ってみない?」


「えっ?どうして、いきなりそんな事を?」


俺とアンジェラが少し長めの立ち話をしていたら、親父さんが仕事の合間に手を止めて、こちらにやって来ました。


「おう、どうした?オメェ、ウチの娘に粉かけようってか?」



いやいや、親父さん。包丁片手に凄まれると、スゴイ怖いんですが!


「いえ、そうじゃないですよ。彼女の才能がすごいので、幼年魔法学校に行ってみたら?と話をしていたんです」


俺の言葉を聞いて、おやっさんはイマイチピンときていないようで、訝しげに首をかしげます。


「コイツがいねぇと仕事も回らんし、コイツは俺に似たのか、馬鹿力だけが取り柄だぞ?

なんで欠片も才能がないのに、魔法学校へ入れろってんだ?」


そう言った親父さんは、少しイラついたようにそう言って俺に睨みをきかせました。


「えっと、アンジェラさんだったよね?親父さんを持ち上げられるかな?」



俺がそう言うと、話の意味がわからないのか、キョトンとしたアンジェラが、躊躇いがちに答えます。


「うん、持ち上げろって言われたらできるけど、それがどうして?」


そこまで聞いてから、俺は魔力強化を発動させて、親父さんに近づきました。

そして「失礼します」と言ってから、ヒョイと大柄な親父さんの足を持って持ち上げました。


周囲からは、ザワザワと驚きの声が聞こえ、持ち上げられた親父さんが一番驚いている様子ですね。


「実はこれ、魔力で力を強化しているんですが、おそらく娘さんも無意識に、同じ事をしていると思います」


「「えっ!?」」


う~ん、さすが親子!驚きの声もピッタリですね!


俺は親父さんを下ろしながら、ゆっくりと説明しました。



「今はまだ何も起きていませんが、制御をあやまって人を傷つけてしまったら、罪が重くなります。

そうなる前に、しっかりと制御の仕方を覚えたほうがいいと思います。


それに、将来が有望だとすれば仕官の道もありますし、商売で使える簡単な計算も教えてもらえますよ?」



俺は親父さんにそう小声で伝え、アンジェラに視線を向けました。



「学校に行けば、友達もたくさん出来るだろうし、面白い話もたくさん聞けると思うよ?」


「ちょ!待て、アンジェラ!放してくれ!苦しい!」


俺がそういうと、何かスイッチが入ったように彼女は、親父さんをズルズルと引きずって、厨房の奥に引っ込みました。




「えっと、とりあえず、教えてくれてありがとう。もう知ってると思うけど、私はアンジェラ。貴方の名前は?」



厨房から首だけ突き出して、アンジェラがそう言いながら、ペコリと頭を下げました。



「うん、僕はアーサー。学校行けたらいいね!」



俺はそう言って手を振りながら、アンジェラの食堂を後にしました。

後は、親子間の話し合いですからね。家庭の事情もあるでしょうし、その辺は深く突っ込めませんからね。


なんとなくアンジェラが、物理的に話を通しそうな気がするのは、たぶんきっと気のせいでしょう。






さて、お腹も膨れまして、再びアーサー君の王都ぶらり旅を再開したのですが、相変わらず尾行者がくっついています。

騎士団の詰所に駆け込んでもいいのですが、シラを切られればそれまでですからね。


俺は散策のフリをして、徐々に裏通りに入っていきます。ええ、もちろん誘いですよ?

大通りから一本奥に入っては、周辺の店をひやかしてブラブラ歩き、相手に悟らせないようにしています。


ですが、困ったことに大雑把な地理しか頭に入ってないので、どこに誘いこむかが悩みどころですね。

下手な所で騒がれて騒動になったら面倒ですから、逃げられないような場所に誘い込んで、一網打尽にしたいのですが……



「あっ!」


適当な場所を探して、人混みを縫うように歩いていたら、驚いたような声が横から聞こえました。

ふと見れば、薄汚れた格好のガキが、俺を指さして驚いているみたいですね?


う~ん、俺には見覚えがないのですが、さては俺のイケメン具合に、驚いたのかな?


なんて考えていたら、ソイツはツカツカと俺に寄ってきまして、俺の腕をつかむやいなや人混みからはずれて、商店の軒下に連れ込まれました。


「やっと見つけた!あの時、なんで俺に銀貨なんて放おったんだよ!」


ん?銀貨?……ああ! 仲介屋を捕まえに行った時の、スリの小僧でしたか!

ようやく何の事か分かりましたよ。あの時は、扇情的な夜のお姉さま達に、目を奪われていましたからね。


「ん?あの時のチビか!それで、俺にやられたのが悔しくて、仕返しに来たのか?」


「ち、違う! 礼を……言いたかったんだ……」



どうやら、この子の親は最近亡くなったらしく、弟を養うために必死に働いたそうですが、子供が働いたとしても稼げる額はたかが知れています。

どれだけかき集めても、家賃が払えずに追い出される寸前だったらしく、やむなくスリに手を出したらしいのです。


なかなか踏ん切りがつかず、度胸を決めて俺にぶつかったら、敢えなく失敗。

しかし、俺の投げた銀貨で家賃の残りを払って、久しぶりにまともな食事ができたそうです。



「それで、お礼を言おうと思って、あちこち探してたんだけど、全然見つからなくて……」



ほほぅ、なかなかに律儀で義理堅い少年だったみたいですね。命の値段が軽いこの世界では、珍しい部類かも知れません。


「そんな事情があったのか……」


「うん、だから何かお礼がしたいと思って、でも何も返せる物がないから、少しぐらいなら恥ずかしいことでも……」


いや、そんなこと言われても、俺にショタ属性なんぞありませんし……

その前に、まともな女性との初体験を……


そこまで考えて、ふと妙案が浮かびます。


「なあ?お前、このへんの地理に詳しいか?」


「えっ?うん、この辺なら裏路地から抜け道まで、なんでも知ってるけど?」


よし、決まりですね!


「なら、お前に仕事を頼もう。報酬は銀貨2枚。これが先払い分の1枚だ」



俺はそう言って、懐から銀貨を取り出すと、1枚を少年に再び放りました。



「えっ!こんなにもらっていいの!」


少年は目をキラキラさせて、俺というか銀貨に食いついて来ました。


「ああ、ただしもう一枚は、仕事が終わった後だ」


「わかった!」



こうして商談が成立し、俺と少年は裏路地の方へと、一緒に歩いて行きました。





少年に案内されてたどり着いた先は、立板風の壁と左右を建物に囲まれた袋小路でした。

うん、ここなら完璧ですね。


「おい、あのガキどこに消えやがった!」


「まさか、尾行に気づいてたのか?」


「油断するなよ。その辺に隠れているかもしれんぞ?」


「…………」



どうやら、尾行してきたのは4人のようですが、なんでしょうか?秘密裏に監視とか、そんな雰囲気じゃなさそうですね。

さて、俺が姿を見せれば、こいつらはどんな反応をするのか、ちょっと様子を見てみましょうか……


「僕に…… 何か用ですか?」



俺はフワリと屋根から地面に降りると、周囲を伺っていた4人は驚いた様子でこちらに振り向きます。

そこで互いに目配せをしてからニヤリと笑って、懐から光り物を取り出しました。


俺に向かっているのは約3人、ゲスな感じの2人と、もう一人の少し慎重そうな男は、腰からショートソードを抜き放っています。


……えっと、この人達、本気なんですかね?



「えっ~と、ヤル気になってる所悪いんですけど、詳しい事情とか俺の素性って聞いてます?」


「さあな?知ってたら、どうだって言うんだ?」



俺の質問に先頭の一人がそう答えて、その横のもう一人がゲラゲラと笑っています。

あちゃ~、こりゃ絶対知らないパターンじゃないですか!


他の2人の様子をうかがうと、最後の一人はまるで俺を観察するように壁にもたれたまま、腕を汲んで微動だにしていません。

それに腰にはバスターソードが吊るされていますが、彼だけはそれを抜こうともしていませんね。


注意すべきは、この人だけでしょうか……


「お前さんをバラせば、特別ボーナスが出るんだ。悪く思うなよ」



そう言って正面の2人が、ナイフをギラつかせながら、俺に歩み寄ってきます。


俺は懐に手を入れて、その中で空間魔法を使い、得物を握りしめました。

正直、このレベルの人達には、脇差しでももったいないんですよね。



そんな訳で作っておいたブツの中から、取り出したそれを見て寄ってきた2人は、さらに深く嗤いをこぼします。


「おうおう、そんな棒っ切れで抵抗しようとは、笑わせてくれるぜ!」


「その腰の剣は飾りか?」



俺はその言葉には反応せずに、手に持ったソレを素早く振り抜きました。

その瞬間、左側の男が持っていたナイフが、弾き飛ばされ手の甲を押さえて悲鳴を上げます。


そりゃ痛いでしょうね。十手で、おもいっきり手の甲を打ち据えられたら……


「テメェ!」


随分と三下っぽい激昂の仕方でナイフを振りかぶったもう一人は、俺の首筋めがけて勢い良くナイフを振り下ろしてきます。

しかし、ギャリッっという音とともに、十手の(かぎ)に止められてしまいました。


さらに、テコの原理でナイフを奪われた男は、首筋に十手の一撃を受けて、即座に昏倒してしまいます。

ついでに先程手の甲を打ち据えた男の方も、同じようにみぞおちを突き込んで昏倒させておきました。


それから、油断なく残る2人の方に視線を向ければ、ショートソードを持った方の男はわずかに震えながら、こちらを見ています。

そして、もう一人の壁にもたれていた男が、ゆらりと動きゆっくりとした動作で、バスターソードを抜き放ちました。



「お前は行け。この小僧は俺が引き受けよう。俺が戻らなければ……分かっているな?」



その言葉を聞いたショートソードの男は頷いて、俺とバスターソードの男から距離を取ります。


正眼でバスターソードを構えた男は、燃えるような殺気を出しながら、ジリジリと間合いを詰めてきました。

俺は右手に十手を持ち、左手を脇差しにそえた状態で、間合いを保つように、同じペースで後ろにさがります。


そして、十手を男めがけて投げつけてから、手当たり次第に周囲の物を投げながら、牽制していきます。


しかしバスターソードの男は、冷静にそれらを躱して、徐々にこちらへ近づいてきました。


剣の間合いに入った瞬間、男は「行け!」と声をかけながら、身幅のある剣を振り下ろします。


俺はその剣の軌道を読んで、ぎりぎりの所で躱しながら、走り出していたショートソードの男に瓶を投擲しました。

ですが瓶は男には当たらず、顔のすぐ横にある壁に当たって、砕けてしまいました。



一撃を躱されたバスターソードの男は、壁に残る青いシミを見て、つまらなそうに吐き捨てます。



「無駄な抵抗だったな…… 安心しろ。苦しまないように、一撃で仕留めてやる」




そう言って、棒立ちになっている俺に向けて、大上段に構えた剣を、ブンッ!と振り下ろしました。




俺はスローモーションに見えるその剣を瞳に映しながら、小さくため息を吐いてしまったのでした……




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