74.黒歴史とは封印されるもの
遅れました(汗
ノリと勢いは大切ですが、モノには限度というものがありますね。
はい、昨夜の出来事を振り返って、早朝に悶えてしまったアーサー君です。
おかしい、何故俺が中二病を患ってしまったのか……
とりあえず、昨夜の出来事は記憶の底に厳重な封印を施しまして、なかったコトにしました。
そして、いつものように朝の稽古に向かいます。
ダリルさんはと言えば、昨夜あんな事があったにも……いや、あったからでしょうか?
いつもと変わらず嬉々として、騎士団の皆様を吹き飛ばしております。
だいぶ騎士団の人達もダリルさんに、せんのぅ…… 鍛えられたのか、へこたれずに何度も立ち向かっていきます。
『ダリルさんに比べたら、魔物が雑魚に見える』とか、『並みの犯罪者なら、笑いながら制圧できるよな』
なんて、頼もしい?声がチラホラと上がっていますね。
俺の吹き飛ばされターンと回復作業が終わって、一息ついているとそこにアランさんがやって来ました。
「やあ、アーサー君。昨夜はご活躍だったみたいだね」
アランさんは開口一番そう言いますが、やめて下さい。せっかく記憶を封印したんですから、思い出させないで!
「こちらは、それほど難しくはありませんでしたよ。それよりも、そちらの方の首尾は如何でしたか?」
俺がそう言うと、アランさんも笑顔を浮かべ、わずかに頷いてくれました。
「ああ、君の奴隷のおかげで楽に実績が上げられそうで、助かったよ」
「お役に立てたようで、何よりですね」
そう言って俺とアランさんは、昨夜の出来事について、互いに情報を交換しました。
「どうやら、これで一連の流れは、つながったと見ていいね……」
「そのようですね、後は証拠ですが……」
「うーん、こればっかりは相手も、尻尾を出すほど迂闊でもないだろうし、難しいかもね」
アランさんはそう言って、少し表情を曇らせます。
そうなんですよね。情況証拠はまっ黒なんですが、肝心の証拠といえば、昨日捕まえた仲介屋ぐらいです。
それでも黒幕までたどり着けるかと言われれば、それも難しいでしょう。
それなら、ちょいと揺さぶりをかけてみましょうかね……?
この件は早めにケリをつけないと、母様達が笑顔で王都にやって来てしまいます。
それだけはなんとしても避けないと、色々とヤバイです。
「しかし、考えたね。仲介屋を捕らえた事を、ワザと漏らして相手の動きを探るなんてね」
そう言ったアランさんは、少しだけ鋭い視線を俺に向けてきました。
いや、そんなホメられても何も出ませんよ?
実は昨晩別行動をとっていたミレーユには、騎士団の人と一緒にミュアー商会の見張りと、ある仕掛けをお願いしたんです。
それは、時間になったら商会の代表の所へ、手紙を届けてもらうって事でした。
手紙は簡素に一文だけ。
『仲介屋が捕まった、注意しろ』
商会が勝手にやったなら、しらを切るかトカゲのしっぽを斬りにかかるでしょう。
ですが黒幕がいるならば、必ずご注進に行くはずだと踏んだんですよ。
そしたら案の定、手紙を届けてから、商会の小間使いが深夜にもかかわらず、ノコノコと出かけて、まんまと尻尾を出してくれたのです。
「アーサー君、君は本当にミレイア様と同い年なのかい?晩餐での知識や昨夜の手腕と言い……」
「色々な人に鍛えられましたからね。ほら、目の前で暴れている人とか?」
俺がそう言って、ダリルさんに視線を向けると、それにつられてアランさんもそちらを向きます。
すると、野生の勘が視線を感知するんでしょうね。
ダリルさんがニヤリと嗤って、アランさんを手招きします。
「アラン、面通しでは世話になったな。せっかくだ、お前の腕も見てやろう」
ダリルさんの死刑宣告を聞いたアランさんは、笑顔をビシリと凍りつかせ、ギギギっとこちらを見ます。
「せっかくのお誘いですから、行ってきたらどうですか?」
「アーサー君、これワザとだよね?」
「さあ?」
うん、能力の出し惜しみをしないのと、下手に利用されないよう、自分の情報を隠すのは別問題ですからね。
アランさん、あなたは触れてはいけない所に触れてしまったのだよ。
この後、何度もアランさんは宙を舞っておりました。
そうして朝の稽古を終えて、朝食を取った後にミレイア様の稽古が始まります。
いつものように、木刀を携えてこちらにやって来たのですが……
何でしょうかね?
彼女の背後から、妙なオーラというか、殺気が立ち上っているんですが……?
「ねえ?アーサー?貴方、昨日の夕方こそこそ動いてたみたいだけど、何をしていたのかしら?」
「えっ?何の事でしょう?」
「へ~ぇ、とぼけるんだ。いい度胸してるじゃない……」
どういうことでしょうか、まったく心当りがないんですが?
っていうか、きのうのその時間って、城の紋章官の所へ行ってミレーユが書いた下手な絵から紋章を探すのに明け暮れて……
あっ……
紋章官の人が、どうしてこの紋章を調べるんだって聞かれた時に、「意中の子が」うんぬん言って、はぐらかしたんでした。
そして現在、目の前に……鬼がおる!
って言うか、肩に木刀かついでガン飛ばすとか、どこの田舎のヤンキー娘ですか?
あなた、『一応』お姫様なんですよ!
「えーっと、ひとつお伺いしますが、お怒りの原因は昨日の夕方の件で、間違いないですかね?」
「それ以外にも、心あたりがあるのかしら?」
「なにか、ひどい誤解と同時に、俺のイメージが傷つけられている気がするんですが?」
「さあ、そろそろこの剣のサビになりなさい……」
「いや、いや、いや、いや~~~~~っ!」
うん、10分以上全力で逃走しながら、事情を説明しまして、ようやく事情を説明出来ましたよ。
…………
……
「まったく、それならそうと早く言いなさいよね!」
「いや、ミレイア様がすごい形相で、いきなり襲いかかってきたんじゃないですか!」
「っ! とにかく、その犯人が見つかったら、私にも知らせなさいよ!確実に処刑台へ送ってあげるわ!」
あっ、ごまかした!
「はぁ…… わかりました。 それでは、気を取り直して今日の稽古を始めましょうか!」
「えっ、ええ。そうね。今日も頑張るわよ!」
まったく、人騒がせというかわかりやすいと言うか、どうにも憎めませんね。
「さて、今日の稽古ですが……」
そう言って昨日よりも太い枝を拾い、ミレイア様の目の前に差し出します。
「今日はこれを折れるようになってから、素振り200本!」
「えっ?……200本?」
「ええ、数が少なすぎましたかね?もっと増やします?」
俺は笑顔で指を増やして、小首を傾げます。
「ぐぬぬっ…… やるわよ!やればいいんでしょ!」
「ええ、例によって魔力が枯渇しそうになったら、補充しますからミレイア様は剣に集中して下さいね」
「い、いや、あの補充は……その……」
ミレイア様が何かモジモジと、急に女らしい仕草をはじめましたが、どうしたっていうんでしょう?
「どうかしましたか?」
「だいたい、あっ、あの魔力譲渡は一体何なのよ!
普通は、緊急時に最低限の魔力をやりとりするための行為でしょう!
それが、いきなりフルになるまで流しこむとか、非常識すぎるわよ!」
ああ、そんなことですか。
そりゃ、訳もなくそんなことをするバカはいませんよ。
俺の魔力を大量に流すことで、魔力が流れる回路を拡張し、活性化させるのが目的ですからね。
「……それに、変な気分になるじゃない……」
うん、最後のつぶやきは、聞かなかったことにしましょう。スルー力って大事ですからね!
「それで、やるんですか?やらないんですか?」
「やるわよ!」
こうして、誤解も解けまして、例によって素振りを終える頃には、指一本動かせなくなったミレイア様を女官さんに預け、本日の稽古は終わりました。
そして、風呂で汗を落として昼食を食べ終わった俺は、調理場に向かいます。
ええ、先日の事なんですが、宰相様からお願いをされてしまったんですよ。
いや、偶然すれ違った時に声をかけられまして、誰だ?このおっさん?って思ったんですがね。
そうしたらあの晩餐に出席していた参加者の1人だったそうでして……
あの日出した料理がいたく気に入ったらしく、お褒めの言葉と同時に、ある仕事を依頼されてしまったんですよ。
前にも言いましたが、この世界の宮廷料理はとにかく豪華な料理を、山のように出すのが基本なんです。
しかし実際に食べられるのは、1割にも満たないそうで、大半が廃棄されてしまうのだそうです。
王城ともなれば、晩餐や舞踏会の回数も数多く、その費用がバカにならないと、宰相さんが嘆いていたんですね。
そこでピエールさんと協力して、新しい方式の晩餐会のメニューを考案して欲しいと、頼まれてしまったんですよ。
ええ、5日後に迫った晩餐会のメニューを変更し、圧縮した分の差額をそのまま報酬にするという条件で。
「君とは話が合いそうだね」 宰相さんがそう言って、廊下で互いに黒い笑顔を浮かべながら、握手をしましたよ。
夕方には使いの人が、契約書を持って現れまして、無事にお仕事を受諾という事になりました。
そんな訳で、昼からは調理場へ向かうのです。
あれ?俺は一体いつから、経営コンサルタントを始めたんでしょうか?
おかしいな……?
飯テロ回は、もうちょっと進んでからなのじゃ!
【悲報】週末も仕事につき、更新が遅くなるかも……




