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73.夜の王都にて、中二的なセリフを叫ぶ


はい、本日は番組内容を変更致しまして、アーサー君の王都散歩をお送りいたします。

予定していたアーサー君とピエールさんの料理修行は、放送日時が決まり次第、お知らせいたします。



っと言うわけで現在、俺とダリルさんは、夜の王都を歩いております。


領内で買っていた平民向けの目立たない服に着替えて、さらに薄手のローブで姿を隠しております。


王都の街をザックリ説明すると、第一城壁の内側が貴族街、その外側に商業区、工業区と続いて、更にその外側に住宅街が広がっています。

住宅街といっても、内側は比較的まともな建物ですが、西側の最外部はあばら家が立っていて、いわゆるスラムに近い場所になっています。


まあ、詳しい説明は端折りますが、今俺達が向かっているのは、商業区のはずれ……

歓楽街が立ち並ぶ一角、そのさらに一本入った裏路地が、今夜の目的地です。



夜でもガヤガヤと賑わっている歓楽街の雑踏を抜けて行きますが、遠目に扇情的な格好をしたオネーチャンが、その辺に立っておりますね。

今日ほど、早く身長が伸びろと思った日はありませんね。


だって、オネーチャンに近づいても、人の背中しか見えないんですもん!



おっと、チョロチョロとガキが動き回って、俺の財布を盗もうとワザとぶつかってきます。

俺は素早く相手の手首を取ると、軽く引っ張り足をかけて転ばせました。


そりゃ、俺は貴族ですけど、財政カツカツの貧乏子爵家なんですからね。

お小遣いだって自分で稼いでいるんですから、財布をまるごとくれてやる義理はありません!


俺はポケットから出した銀貨を1枚、ポカンとしているガキの胸元に放ります。

まあ、今日はミレイア様に仕返しも出来ましたし、ミレーユをさんざんモフりましたので、気分が良いのです。




「早くしろ……置いていくぞ」



おっと、前方からダリルさんの無情な声が響いて、俺は先を急ぎます。


歓楽街も外れの方に来ると、だんだん人通りも少なくなりまして、一歩裏手に入れば、暗闇が広がっています。

ですが、大森林の夜中に比べれば、昼間みたいなもんですな。



表向きはうらぶれた酒場、その裏の顔は非合法のハローワーク、そんな所でしょうか?


今夜の訪問先は、ミレーユが発見してくれた、例の仲介屋さんのお宅に突撃潜入です!


開店しているのかもわからない入口には、汚れた看板がかすかに酒場の名残を感じさせていますね。


ダリルさんは、迷わずにそのドアを開け中に入ります。


俺もその後に続き、店内に足を踏み入れました。


店内も申し訳程度の灯りはありますが、全体的に暗く店員の顔も見えないほどです。


どこの場末のぼったくりバーでしょうか?



「酒だ……」


ダリルさんが低い声で、銅貨を出し酒を頼みます。

暗闇から現れた大柄な店員は、無愛想に汚いグラスと蒸留酒の瓶を、ゴトリとダリルさんの前に置きます。


「……見ない顔だな?」


「ああ、南から流れてきた。ここに来れば仕事にありつけると聞いてな」



芝居がかったセリフでダリルさんはそう言うと、グラスに酒を注ぎそれを煽ると、銀貨を一枚カウンターの男に滑らせます。

それを受け取った大柄な男はニヤリと笑い、俺に向けて顎をしゃくります。


「それで、そっちにちっせぇのは、オマエの連れか?」


ダリルさんとは違い、俺はカウンターには座らず、ローブのフードをかぶったまま、入口横の壁にもたれかかっています。



「ああ、俺の相棒だ。ああ見えて腕は立つ」


そう言ってダリルさんがもう一枚銀貨を滑らせました。

男は興味がなさそうにそれを聞いて、「待ってろ」と言って、奥に引っ込みました。


しばらくして戻ってきた大柄な男は、もう一人頭に包帯を巻いた男を引き連れてきます。

コイツが例の仲介屋ですね。



俺は、魔力探知で周辺の人の動きを探ります。

もう何人か店の奥に潜んでいるようですが…… まあ、ダリルさんのエサですな。


「オマエが仕事を受けたいって野郎か?」


「ああ、そうだ。俺と入口の所にいる2人だな」


ダリルさんは、そう言って俺を指さします。


「あんなちいせぇ野郎が、仕事なんてできるのか?」


俺は仲介屋の野郎がそんな暴言を吐きましたので、少しだけ実力行使をしてやりましょうかね。

無言のまま指先だけを動かして、男の顔のすぐ横に、投げナイフを投擲します。


カツンと小気味良い音を立てて、耳のすぐ横に突き立ったナイフを見て、男の頬を汗が伝います。

ええ、俺のナイフが耳元に刺さったのと同時に、反対側からは、ダリルさんのナイフが、男の首筋に当てられているんですからね。



「ち、ちったぁ、使うじゃねぇか……」


そう言った男は、自分も酒を注ぐと一息に煽り、熱い溜息をこぼします。



「ちょうど一件、腕の立つ人間を探していた仕事がある。お前さん達の腕なら、簡単な仕事だ」


そう言って一枚の似顔絵を、ダリルさんの方に差し出しました。


「このガキを始末するだけの簡単な仕事だ。

期日は7日後、コイツが王都から出る所を狙って、始末すれば金貨20枚だ」



うーん、不本意ですが『ガキ』という単語だけで、ほぼ黒確定ですが、念の為にダリルさんに目配せしてみます。

ここからだと、その似顔絵が見えないんですよね。身長的に……



俺の視線に気づいたダリルさんが、ゆっくりと首を縦にふりました。


はい、アウトー!



俺はその似顔絵を確認するふりをして、ゆっくりとカウンターに近づきます。


「そのガキを殺るだけで20枚とは、随分と張り込んだな。何か訳でもあるのか?」


「ああ、前任の野郎共がヘマこきやがってな。やむなく値上げして人を探してるんだ」



「そうか、それでその似顔絵のガキの顔だけど……」



そう言って俺はローブのフードを脱いで、素顔を晒します。



「……こんな顔を、していなかったかい?」



一瞬、ポカンとした顔を浮かべた仲介屋は、目の前に置かれた似顔絵と俺の顔を見比べてから、「あっ!」と声を上げます。



その瞬間にはすでに隣に立つ大柄な男の首筋に、ダリルさんの剣が刺さり、左側の逃げ場が塞がれてしまいます。


魔力強化で脚力を強化した俺は、素早くカウンターの上に飛び上がると脇差しを抜き放ち、仲介屋の野郎に突きつけました。


「痛い目を見たくなければ諦めろ」



俺がそう言うと、顔をこわばらせた仲介屋は、無謀にも包丁を手にして、俺に踊りかかってきました。

それと同時に店内の異変を察知したのか、店の奥から数人の男達が姿を現します。


ですが、その気配はダダ漏れで、大柄な男から剣を引き抜いたダリルさんが、すでに迎撃体制に入っています。


ダリルさんに一瞬で斬り伏せられた男達が沈むのと、俺が仲介屋の野郎に峰打ちを食らわせて、意識を刈り取るのがほぼ同時でしたね。



さて、さっさと運び出してしまいましょうか……



俺達は表通りまで男を運ぶと、治安維持に出ている騎士団の人を呼んでもらい、手近な詰所に仲介屋を運び込みました。

いやー、ダリルさんが騎士団の皆様をシメてくれていたおかげで、反応が早い早い!


身分を証す必要もなく、あっという間に顔パスっすよ!


「この男を、手近な詰所の牢に入れろ」


ダリルさんが手短にそう言っただけで、全員が直立不動で「はっ!」と、声を上げてくれました。


ああ、ちなみに仲介屋の野郎は、昼前にミレーユに使われた簀巻き用の縄を使って捕縛してあります。

何かに使えるかと思って、空間魔法に入れておいたんですが、さすが騎士団御用達、とっても丈夫な縄ですね!





そうして、牢にブチ込んだ仲介屋を前に、俺とダリルさんが仁王立ちで現在に至ります。

先ほど、桶の水をぶっかけましたら、ようやく意識が回復しまして、これから事情聴取が始まります。



「お、おれは、何も喋らないからな!」



おお、活きが良いですね~!


石造りの床に座らされた男は、若干の怯えは見えましたが、それでも気丈にそう吐き捨てます。

はたして、俺とダリルさん相手に、どこまで持つか試してみましょう。



「どうします?こんなこと言ってますよ?」


俺がチラリと横に視線を向けると、ダリルさんがつまらなそうに鼻を鳴らし、口を開きます。



「心配ない。手足を切り落せば、嫌でも口を開く」


そう言ってダリルさんは柄頭をポンと手で叩いてから、いい笑顔を仲介屋に向けています。



「それも面白いんですが、どうせなら寸刻みで指先から落としていきませんか?

俺が回復魔法で止血しますから!」



俺もそう言って、怖がらせる演出で指先に小さなライトの魔法をいくつも浮かべます。


それを見た仲介屋は、「ひっ!」っと、小さな悲鳴を上げて足を器用に動かして、縛られたまま後ろに後ずさります。



「まあ、それじゃ、手始めに俺が『聞いて』みますので、それでも教えてくれなかったら、その案で行きましょうか?」


「いいだろう、お手並み拝見と行こうか」



そんな訳でダリルさんの許可もおりまして、俺は笑顔のまま仲介屋に近づきます。



「大丈夫だよ。そんなに怖がらなくても、死にはしないから」



そう言って俺が男の肩にポンと左手を置くと、バチリと紫電が走りました。



「ぎぃゃーーーーーーっ!!!」


途端に男は絶叫して体をビクビクと痙攣させます。


「おっと、いかんいかん。俺の左手は特別でね。たまにこうして制御が効かなくなるんだ……」



仲介屋は突然訪れた未知の激痛に、歯の根をガチガチと鳴らして怯えきっています。



「さあ、静まれ俺の左手よ……」



いやはや、前世では絶対に使うことのなかったセリフが、ここでは有効活用できますね!


中二病的なセリフで恐怖を植え付けられるとか、前世ならトラウマ級の黒歴史確定ですよ!



「さあ、吐いてもらおうか?そうでなければ、我が左手が再び唸るぞ?」


指パッチンに合わせて、わずかに指先へ電流を流せば、バチリと放電が起こりまして、演出的には十分です。

クックックッ、なんだか別の意味で楽しくなってきましたね。



「さあ、詠うがいい!」



そんなセリフを言いながら、俺は仲介屋に触れて電流を流します。



「うぎぃーーーーーーっ!!!」


「粘れば粘るだけ、痛みと苦痛は長引くぞ?」



「ハァ、ハァ…… しゃ、しゃべります。だからもう勘弁して下さい!」



フッ、堕ちたか……



知りたいものだな……敗北というヤツを……




「おいアーサー、いつまで遊んでいる。早く話を聞くぞ!」



ああ、ポーズを決めてセリフに酔っていたら、ダリルさんから、無情なツッコミを頂いてしまいました。




アッハイ、失礼しました!


本日、夜更新難しいと思います。


仕事の具合にもよりますが、最短で明朝の定時更新

ないしは7日夜更新から再開予定

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