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37.ドラゴンさん宅でお茶してます



いやー、お茶が美味しいですね。特に肝と体が冷えた後には……

はい、なぜかお茶をすすっているアーサー君です。



いやね?話は誘拐直後に遡るのですが……



あの後で、のじゃドラゴンにドナドナされまして巣に連れ込まれたのですが、色々とありまして今に至るわけです。


…………

……



「いや~っ! おーちーるー!」


襟首をワシっとつかまれて、絶賛空中散歩なのですが、大森林を飛び越えて、あっという間にタルコット山の中腹にたどり着きました。

そこで少しだけホバリングしてから、今度は急降下ですよ。


無重力? いえいえ、重力がおもいっきり仕事してますから!


ものすごいスピードで山岳地帯のゴツゴツした地表スレスレまで一気に降下して、そこでバサリと落下の勢いが止まります。


ああ、無理。何がとは言わないけど、チョロっと出たわ。



あの幼女と直接戦闘していた時よりも、なんか恐怖を感じたんですが……


そうして到着したのは、ぽっかり空いた穴の中でして中は、地表のゴツゴツした岩肌とは違い、ツルッツルの石材で作られた広大な空間でした。

いや、入り口だけで前世の体育館ぐらいのスペースが有りますよ。これ。


「ふむ、ついたのじゃ。ここが妾のねぐらなのじゃ!」


相変わらず、いかついお姿とギャップの大きい声でそう言った、のじゃドラゴンは空中で俺を前足に持ち替えて、ノシノシと奥に進んでいきます。


広大な空間の先には、妙にこじんまりとした応接セットと、奥の方には衝立に仕切られているベッドが見えました。


何でしょう?妙に生活臭がしますが、これって人間サイズですよね?


「ふむ、楽にするのじゃ。もう、お主を喰おうだとかは考えておらんのじゃ」


ぽいっとソファに投げられて、ポヨンと弾んだ俺が後ろを振り返ると、そこにはすでにドラゴンの姿はなく、例ののじゃ幼女がトコトコ歩いてきて、対面のソファにゆったりと腰掛けます。



「え~っと、なんで俺はここに、らt……連れて来られたんですかね?」


俺はとりあえず、ここに拉致った理由について尋ねてみました。



「ふむ、龍の弱点になる逆鱗の位置を見た者は、例外なく殺しておったのじゃが、ヌシは面白そうじゃから、連れてきた。

なにせここ百年近く、妾に傷をつけられる人間など、あらわれなかったからのぅ」


あー、気づきたくはなかったですが、これって完全にオモチャ枠ですよね?

5歳にしてアーサー君は鎖に繋がれて、凶悪な龍の退屈を紛らわすために、あんな事やこんな事、しまいにはチョメチョメされてしまう訳ですね。


わりと本気でずーんと、沈んでいると、前に座っているのじゃ幼女が怪訝そうな顔で口を開きました。


「お主、なんかものすごく、妾のことを悪く考えておらんか?」


ソファの上で体育座りをしながら、胡乱うろんな目を幼女に向けると、「はぁ」とため息をついて、何やら説明を始めました。



「そもそも、逆鱗を見られた相手を殺すというのは、弱点を晒さないようにするためなのじゃ。

それにヌシを連れてきたのは、純粋にお主の魔法に興味があったからじゃ。


決してよこしまな考えを抱いて、連れてきた訳ではないのじゃ!」


少しむっとしたようにそう言って、ふんぞり返った幼女は、口をへの字にしてふんすと鼻から息を吐く。

俺はそれを聞いて少し安堵したんですが、俺の事情ってどこまで話していいのかしら?


「まずは自己紹介なのじゃ。妾は古代竜のヴェーラという。それで、ヌシの名は?」


「はい、大森林の南側に領を構えている、セルウィン家の長子でアーサーと言います」



俺の自己紹介を聞いて、ヴェーラと名乗った、のじゃ幼女ドラゴンは少し不機嫌そうに顔をしかめました。


あれ?俺、なんかマズった?



「ああ、何年か前に、無謀にも妾を狩ろうと襲い掛かってきた、あの家の者か?」


はうぅ、なんでしょう。今は幼女の姿なんですが、なんかそれでも威圧感がパないっす。


ん?って、今なんか聞き捨てならない事が聞こえたんだが、気のせいか?



「えっ?俺が聞いている話だと大森林の開拓中に、ドラゴンに襲撃されて全滅したと……」


「逆なのじゃ!逆! なにか騒がしいと思って様子を見に行ったら、執拗に追っかけられて、やむなく返り討ちにしたのじゃ!」


プリプリ怒りながら、ヴェーラはその時の状況を聞かせてくれました。

なんでも彼女が言うには、何をしているのか空から見物に行ったら、弓やバリスタを射掛けられたそうだ。

んで、地上に降りてやめるように言ったが逆に、「ドラゴンを倒せば一攫千金だ!」と言って騎士も開拓民も皆が襲いかかってきたらしい。


なんだろう、目を¥マークに変えてヴェーラに向かっていく姿が、容易に想像できますね……


「すみません。なんだかウチの先代が、血迷って迷惑かけたみたいで……」


「まあ、過ぎたことじゃ…… そのかわりに……」


そう言って許してくれたんですが、ギシリとなぜか俺の横に移動してきたヴェーラさんがニヤリと笑います。

何でしょうか?微妙に貞操の危機を感じます。


いや、童貞卒業するのはやぶさかではありませんが、ちょっと早すぎませんかね?

それにできれば、初体験の相手は爬虫類じゃなくて人間がいいんですが……

できれば、ないすばでーのお姉さんが良いです。


「謝罪のかわりに、お主の魔力と血を少し分けてくれるか?」



ああ、そっちですか。安心したような、ちょっと残念なような……



まあ謝罪のかわりって事ですので、拒否権はないんですけどね。

俺はまず指先に魔力を集めて差し出すと、しげしげとそれを見ていたヴェーラが、魔力ごと俺の指をパクリとくわえました。


なにこれ、このドラゴンさんなんかエロいっす!



あっ、なんか魔力が吸われている感じがします。

っと、思ったらいきなりチクっと指先に痛みを感じまして、血も吸われてますよ。

ドラゴンが吸血とか、ヴァンパイアさんの存在理由が、ないがしろにされてる気がします。


しばらく吸われてから、チュポンと指を離されたんですが、かなり倦怠感がひどいですね。


「久しぶりの美味い魔力なのじゃ。少々吸い過ぎたか?」



俺の顔色を見て、ヴェーラさんがそんな言葉をのたまいます。

人のことは言えないかもしれないけど、自制とか自重って言葉を覚えたほうがいいっすよ?


「ふむ、お返しではないが妾の血を少し進呈するのじゃ」


そう言って、自分の人差し指を犬歯でスパンと斬ったヴェーラさんが、俺の口にいきなり指を突っ込んできます。


なにこの吸血プレイ!



口の中に濃厚な血の味が広がり、それを飲み下すと程なくして、ドクン!と心拍が跳ね上がりました。


うおっ、倦怠感が消えたとかそんなレベルじゃない。魔力と体力があふれ出るような感覚がしますよ。



「感謝するのじゃ!人間が求めていくら求めても手にできぬ竜の血を飲んだのじゃからな」


そう言ってヴェーラさんはカラカラと笑っております。


「まあ、しばらくは魔力が暴れるじゃろうから、少し休むが良い」


といって、ヴェーラさんは席を立ち、お茶を淹れに行きました。





っと、まあそんなこんなで現在、ヴェーラさんが淹れてくれたお茶をすすりながら、休憩しているわけですよ。

いや、血を吸った直後は心拍が跳ね上がりまして、魔力なんかもヤバかったんですが、少し休んだらだいぶ落ち着いてきました。



そうして再びヴェーラさんと会話をすべく、差し向かいでお茶を飲んでおります。


「それで、お主は神託の勇者なのじゃな?」


いきなりヴェーラさんが直球ストレートを放り込んできました。って、どこでわかったんですかね?


「隠さずとも良いのじゃ。血を吸った時にかなり強い、女神の加護を感じたのじゃ」



あら、龍の舌ってそんな優秀な分析装置なんですかね。そこまで分かっているならこちらも隠さずに話をしましょうかね。



「ああ、加護を受けたのは間違いないんだけど、神託の勇者とかじゃない。

どっちかといえば、この世界に落っことされた。って言ったほうが適当かな」



もう子供口調を偽る必要もないので、俺はここに来るまでの経緯をヴェーラさんに聞かせました。


「なるほどのぅ。そんな理由があったのじゃな。それならあの魔力にも納得なのじゃ」



俺の話を聞いて腕を組んで、ふむふむと聞いたヴェーラさんは納得したように頷きます。


「おそらく、女神様はお主には話していなかもしれんが、何かしらの災厄が訪れるのかもしれんな」


そう言ってヴェーラさんが、ここ最近の魔物の動向を教えてくれました。

なんでも最近、大森林に凶悪な魔物が、ポツポツ湧き出しているというのですよ。


そのせいで、昔から大森林をすみかにしている魔物が押し出されたりしているらしい。



「もしかして、その押し出された魔物の中には、黒焔狼とかもいたりする?」


「おお、そう言えば黒焔狼(あいつ)も、住処を追われたクチじゃな」




はい、俺が死にかけた理由が判明しました。しっかし、災厄って何なんでしょう?


「んで、災厄って結局何なんですか?」


「まあ、俗に言えば、魔王の降臨ということなのじゃ」



なんかさらっと言ってますけど、人類の危機じゃないですか!



「まあ、女神様のことじゃ。神託を降ろしたりするのが、面倒になったのじゃろう」


「……あぁ、うん。あの駄女神ならやりそうな気がする。って、それなら最初から俺に言っておけよな」



ついつい愚痴ってしまいましたが、どうもヴェーラさんもあの駄女神と面識があるらしくフォローを入れてきます。

それによれば、周期的にこの世界の魔力が高まる時に、魔物の活動が活発化するらしいのです。


その時に何かしらの因子が発生すると、それが成長して魔王になるらしいですね。

なので魔王が発生するかは、判らないらしいです。確率的には半々ぐらいみたい。


それから、魔力が高まると人間にも干渉して、戦争が起こったり流行病などで人類滅亡の危機が訪れる場合もあると。


ヴェーラさんいわく、多分俺はそんな状況に対応するために、この世界に送り込まれた種みたいなもんらしいです。



うーん、なんかややこしいですね。




「ところでつかぬことを聞きますが、なんで幼女姿なんです?」



これ以上考えるのはめんどくさいので、話題を変える意味でも疑問に思っていたことを聞いてみました。


「うむ、スペースや食料の節約だとか色々と利点はあるが…… 一番の理由は……」


「一番の理由は?」





「……趣味なのじゃ!」



うわぁ、この龍もどうやら残念系だったみたいです。




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