35.大森林に出かけましょう
はい、5才児らしくない働きっぷりを見せているアーサー君です。
社畜って会社勤めしているから、社畜なんですよね。領地経営の場合は、当てはまらないんでしょうか?
ブラック領地なんて言葉、存在しませんよね?
主に運営する側の話ですが……
さて、本日は一人で西の街道に来ております。
っというのも、領地の改革で街道の往来が活発になったのはいいのですが、西の街道は大森林に沿う形で作られているんですよ。
そんな訳で拡張工事をしようにも、魔物の襲撃があったら大変なのです。
それに万が一でも工事関係者が被害に遭うと、即アウトなのです。
前に言った気もしますが、村の長老筋にでも目をつけられてしまえば、せっかくここまで成し遂げてきた領地経営も、おじゃんになってしまいます。
ただでさえ農業改革では、データや実証で長老筋の反発をなだめすかして実施してもらってるのに、ここで祟りだとか呪いをたてに、反対されたら詰みます。
まだまだ迷信深い人達が多いですから、長老筋がへそ曲げたら、村全体がそっぽ向いてしまうんですよね。
ドラゴンで開拓団が全滅したら賠償も当然払わなければいけないでしょうし、西の街道が使用不能になれば、流通が止まりヤバイです。
そんな訳でして西の街道周辺の『調査』に来ているのです。はい、あくまで『調査』ですよ?
決して言い訳ではないのです!
母様に「ちょっと大森林に行きたい」なんて口走ろうモノなら、倉庫監禁1週間コースですよ!?
なのであくまで、『西の街道の拡張に伴う現地調査』という建前ですからね!
バレるとリアルに怖いので、リーラにも『調査』って念押しして、出てきましたから。
……あれ?これなんてフラグ?
ゴホン、とにかく今日は街道沿いに進んで、拡張の障害がないかどうかを調べるのがお仕事ですね。
時折、魔力探知に引っかかった魔物の反応に、魔法を撃ち込みながら、街道を歩いて行きます。
もちろん昔のように、血に飢えた魔物たちへ撒き餌をする気はありません。
無属性→火魔法→水魔法の順で証拠いんめ……ゲフンゲフン 確実に葬っています。
あまり家族に心配かけられないので、夕方には館に帰らなければいけません。
なので、魔石の回収は帰り道にすることにして、先を急ぎましょう。
そうして順調に魔物の数を減らして行ったのですが、昼過ぎになってそろそろ戻ろうかという所で、パッタリと魔物の反応が途切れました。
あれ?おかしいな。
俺はまったく反応がなくなったのが気になり、念の為に円形に出していた魔力探知の範囲を、大森林の方向に絞って距離を伸ばします。
そうして見渡すようにスキャンしてみれば、何か大きな反応が森の奥にあるみたいですな。
どうやらその反応を恐れて、魔物たちが周囲から消えたみたいですね。
体感的にはむかし遭遇しちゃった黒焔狼よりも小さな反応ですが、このぐらいの反応で周囲の魔物が消えるってのは、チョット引っかかりますね。
街道沿いに出る弱いゴブリンとかスライムを除けば、大森林の魔物は最低でもCランクの魔物がうようよいます。
それが反応の大きさ的には、Bランクほどの魔物を恐れて、その周囲から消えるってなんでしょう?
強い魔物なら倒しておかないと、拡張工事の時に暴れられても困りますね。
俺は好奇心半分といった感じで森の中に入ることにしました。
森の中に入ると相変わらず薄暗くて、なにかまとわりつくような空気が、あたりに漂っています。
俺は魔力強化を行いながら、サクサクと反応のあった場所に向けて進んでいきました。
その魔物のせいか、周囲には大森林とは思えないぐらい魔物がいませんので、足取りは軽いですね。
もっとも油断すると毒蛇とか、イバラみたいなトゲなんかがありますので、気をつけないと足元すくわれます。
去年油断して、森の中を走ってて気がついたら地面がないってコントをやらかしましたから。
いや~、あの時は寿命が縮みましたよ。
風魔法で勢いを殺して、なんとか無事に着地したんですが心臓バクバクしましたね。
さて、そんなこんなで例の反応に近づいてきました。
ここからは魔力を消して、自力で近づかないといけません。
魔物の中には鋭いやつがいまして、魔力の発動や接近してくる相手の魔力を察知するやつがいますので、油断はできません。
静かに静かに、こっそりと近づいていくと程なくして水音が聞こえてきまして、大きな泉が木々の間から見えてきました。
ん?ここだけドロドロした空気が流れていませんね。
どっちかといえば俺の練習場に近い、清浄な雰囲気と言うか空気が流れています。
下草をかき分けながら、泉のほとりに出ると反応のあった魔物を探します。
水でも飲みに来てるんでしょうかね?
きょろきょろと辺りを見回すと、奥の方に大きな岩がありましてその後ろから、かすかに水音と波紋が漂っています。
たぶん、あそこにいるんでしょう。
俺は足音を立てないようにして、静かに大岩の方へと歩いていきます。
一瞬、足元のコケで滑ってコケそうになりましたが、なんとか大岩までたどり着きました。
危ない危ない、滑るのはギャグだけで十分ですよ。
どれどれ、魔物さんを確認して問題なさそうなら、先制攻撃でサクッと片付けてしまいましょう。
俺はゆっくりと大岩の陰から顔をのぞかせて、魔物の姿を探します。
…………
……はい?
目の、錯覚ですかね?
なんか、目の前に同い年ぐらいの女の子が、チャプチャプ水遊びしてるんですが?
いや、ここ大森林だし。こんな所に来れる子供とか、俺みたいな例外除いているわけないですし。
うん、体つきとかはキレイだよ。顔は整ってて肌も真っ白だし、少しウェーブがかった金髪が背中まで伸びてるし。
これで羽とか生えてたら、環境も相まって妖精って言われても信じられるかもしれない。
ちょっと思考停止していましたら、女の子がこちらに顔を向けて、いったん視線が俺を通りすぎてから再び戻ってきます。
あっ、目が合った。
うん、その気持はよく分かる。ここに人がいるわけないって思ってるよね。俺も、そう思ってた時期がありました。
何秒くらいでしょうね?お互いに視線を合わせたまま、フリーズしてたのは……
「きゃ~~~~っ!!!!」
「うわ~~~~っ!!!!」
うん、そりゃ叫ぶよね。俺もびっくりしたもん。
とりあえず、岩の向こうに引っ込んで呼吸を落ち着かせます。
たまにエリカが泊まる時は、一緒にお風呂とか入ってますので特に抵抗とかないんですが、偶然とはいえ覗いちゃったわけでして。
犯罪っぽい雰囲気なんで、罪悪感というかやっちゃった感が強いっす。
「ごめんなさい、覗くつもりじゃなかったんだ!」
岩越しに幼女へ声をかけます。弁解しておかないと不味いですからね。
領主の息子、覗きの疑い!?
とか、スポーツ紙の三面みたいな噂されたら、明日から生きていけません。
リーラやエリカから嫌われたら生きる気力がなくなりますし、間違いなく母様からは倉庫に連行されます。
父様やダリルさんからは、物理的にフルボッコにされる未来が見えますよ。
不味いです。考え出したら、お先真っ暗です。何とかして、誤解を解かないといけません。
「服を着てもらえるかな?少し話を聞きたいだけなんだ」
パシャリと水音が聞こえて、その後に衣擦れの音が聞こえてきました。
よかった、とりあえず丸めこ……じゃなかった。誤解を解かないと。
「どうして、こんな危ない所で水浴びなんてしてたの?」
返答はありませんが、俺は問いかけを続けます。
ここで逃げられたら弁解の余地もありませんので、話だけは続けないといけません。
ジャリッっと、何か踏みしめるような音がしまして、木漏れ日を受けた影が俺の前に見えました。
よかった、着替え終わって、俺の話を聞いてくれるみたいですね。
「そっちに行っても、いいかな?」
「…………」
無言ではありますが、とりあえず拒否はされていないので、顔を出すことにします。
「そっちに行くね?」
俺は覚悟を決めて岩から一歩踏み出し、幼女の方へと進みました。
ん?
なんか、すごく怖い顔してます。幼女らしからぬ眉間のシワっすよ?
それなんて般若っすか?
「み~ぃ~た~ぁ~な~ぁ……」
うわ、まじおこみたいです。
何とか謝って機嫌をなおしてもらわないと。場合によっては金貨を何枚か握らせるぐらい……
「ごめんなさい。覗くつもりじゃなかったんだ!」
とりあえずはアクシデントだったことを判ってもらわないと、会話にもならないよ!
「言い訳は見苦しいのじゃ…… とりあえず、死ね!」
へっ?
なんか、さっき感じてたのとは、比較にならないような膨大な魔力が溢れ出しました。
あれ? なんかこれ、すごくヤバイ……かも。




