32.偶然発見しました!
はい、自重という言葉を覚えたいと、切に願うアーサー君です。
例によって、またやらかしました。
そういえば、最初にあの魔法を完成させた時、父様は所要で領主館を外していたんですよね。
うっかり失念していましたよ。
魔法が着弾した後に父様の顔をみれば、なにか悟りを開いたみたいに優しく微笑んで、俺の頭を撫でてくれます。
お~い、父様! 早くこっちの世界に戻ってきて!ぷりーず!
そんなわけで、現在俺達は使用されることのなかった剣をだらしなく手に持って、『元』ゴブリンの巣だったところまで来ています。
はい、煙がおさまってみれば、見るまでもなく巣は完全に崩壊していますね。
HEAT弾が着弾しましたから、内部に爆風が吹き込んで巣の中は、かなりすぷらったーな状態になっております。
うん、簡単に描写すれば『ゴブリンだったもの』が、アチコチに散乱しているんですよ。ええ。
まあ、起きてしまったことは仕方がないので、今はナイフや剣の先でゴブリンの魔石をほじくりだす作業をしています。
幸いにして洞窟はけっこう頑丈なようで、崩落の危険性などはなさそうで一安心です。
手早く魔石を回収を終えてから、『普通の火魔法』でゴブリンを焼却していきます。
そうした作業が終わって、そろそろ帰ろうという事なので最後の点検で、俺は洞窟の中を見て回ります。
ライトの魔法で内部を照らしながら、奥まで進んでいき、周囲を見回して特に問題がないことを確認して戻ろうとした時でした。
ふと壁の一部が、奇妙な模様になっているのに気づいたんですよね。
おや?っと思って、俺はミスリル製のナイフで壁面をゴリゴリこすって、その一部を剥がします。
あれ?これって、もしかして……
俺は慌ててそれを握ったまま洞窟を出て、父様の所へ走りました。
「父様! ちょっとこれを見て下さい!」
帰り支度をしていた父様は、俺の慌てぶりに訝しげな表情を浮かべながらも、こちらに向き直ってくれました。
「どうした?アーサー洞窟の中は問題なかったんだろ?早く帰らないと、日暮れまでに家につかないぞ?」
俺は父様をしゃがませて、手を開くように言い、先程の壁面のかけらを手に載せました。
「ん?この茶色い石がどうしたんだ?」
ありゃ、父様気づいてないのかな。
「父様!耳を貸してください」
俺は俺に耳打ちされて、話を聞くうちにだんだんと父様の顔が真剣になり、手にしたかけらをじっと見つめています。
「アーサー、このかけらをもう少し採ってきてくれ。俺はその間に皆へ口止めをしておく」
どうやら事の重大さに気づいたようで、父様は俺にサンプル採取を命じてくれました。
俺は急いで洞窟の中に戻って、持参していた革袋にガリガリとかけらを取って戻ります。
その頃には父様もみんなに話し終えたようで、一様に真剣な表情を浮かべています。
そりゃそうですよね。もしかしたら今日の出来事が、セルウィン領の命運を左右するかもしれませんからね。
その後は皆、口数も少なく村まで戻って、村人たちには小規模なゴブリンの巣があったが、すぐに殲滅したと騎士さんが言い聞かせて回りました。
俺の火魔法でゴブリンを炙りだして制圧したと、騎士さんが説明して村人たちに大いに驚かれましたが、リアクションに困りましたね。
その間に父様が村長に事情を説明に言ったようで、ゴブリンの魔石は口止め料も兼ねて、苦しい村の貴重な収入として進呈する事にしました。
まあ、その前に経験値らしきものはしっかり吸収させてもらったので、俺としては問題ありませんけどね。
その後は日暮れも近いということで村での歓待を断り、急ぎ領都に戻ることにして馬を急がせます。
村から遠ざかり、首を巡らせて周囲に人が見えないことを確認してから、父様が俺に語りかけてきました。
「しかし、あの魔法にも心底驚かされたが、それよりも俺たちが気づかなかったあれを見つけるとは、そっちの方が驚きだ」
「いつだったか、本で読んで覚えていたんです。奇妙な模様だなと思って、それで思い出しました」
うん、言えない。『記憶の泉』で前に見たドキュメンタリー番組を思い出したとは……
そんな訳で考えていた言い訳を聞かせると、納得したように父様は俺の頭をなでてくれました。
「まだ確定という訳ではないが、アレが当たれば我が領もだいぶ楽になるだろう。
アーサーには驚かされてばかりだが、俺は良い息子を持ったと思うよ」
そう言って父様は、優しく微笑み見えてきた町に向かって、少し馬の足を早めました。
「よし、皆疲れているだろうがもう少しだ!日暮れ前までには領都に入って一杯やろう!」
父様はそう言って、馬を加速させます。
ふぎゅ!内股と股間が、長時間の乗馬でちょっとピンチです!
父様、我が子の息子がちょっと危ういです!もっとゆっくり!
上下動と振動で声にならない俺の訴えは、聞き届けられるはずもなく、たどり着いた頃にはかなり剥けました。内股が……
どうせ剥けるなら違う所を…… って、違います!
はい、自分で回復魔法かけました……
なんだかとっても、悲しい気分になりましたね。うん。
さて、明くる日俺はいつものように、昼からエルモさんの所にアルバイトに向かいます。
ただし今日はいつも仕事の他に少々別命も帯びていたりしますがね。
武器屋に着くと、いつものように例の店員が店の前を掃除しています。
今日はどんな技が見れるかな?って、ちょっと期待しましたが、少しだけ悪戯心が湧いてきました。
俺は、魔力強化をかけると工房に通じる奥の入り口目指して、馬も真っ青な速度で接近していきます。
この速度なら、いつもの土下座出迎えはできまい!
俺は勝利を確信しながら、店員さんを見ました。
なっ、なんだと!
店員さんは、猛ダッシュしてくる俺を発見するなり、残像を残してその場から掻き消えたのです!
そして、奥の入り口付近に瞬間移動のように現れると、その場で後方伸身宙返り4回ひねりを決めてから、土下座出迎えに入ります。
「アーサー様、お疲れ様です!」
くっ、なんだ!何なんだこの敗北感はっ!
入り口付近で強化を解除した俺は、普通に会釈して入口をくぐりますが、その時に見てしまったのです。
土下座で隠れた店員さんの顔が、わずかに自分の勝利を確信し、微笑んでいることを……
よし、いつかあの店員さんをギャフンと言わせてやる。
そんなどうでもいい誓いを胸に、俺はエルモさんの工房に向かいます。
すでに何件か注文が入っているらしく、壁が直ってからは忙しい毎日みたいです。
戸をくぐれば炉の燃える音と、槌のリズミカルな音が俺を出迎えてくれました。
「おう、アーサー!そっちの五本、頼むぞ!」
俺が入ってきたのがわかると、軽く視線を向けながらエルモさんは、周囲の音に負けない大声で指示を出します。
新しく設えてもらった火処の前で、俺は準備を整えて魔力を練っていきました……
ようやく今日のノルマが終わって休憩に入った時に、俺は汗を拭きつつエルモさんに、例の件を切り出します。
「エルモさん、ちょっとこれを見てもらっていいですか?」
俺はそう言って、ポケットから昨日採取してきたかけらの一部を出して、エルモさんに手渡しました。
「ほう、随分と良い質の鉄鉱石だな……」
エルモさんは太い指先でグリグリとかけらをつぶしながら、すぐにその質を見抜きました。
「場所はまだ言えないんですが、信頼できる人で鉱脈の規模や産出量に詳しい方、誰かいませんか?」
顎のあたりをポリポリとかきながら、エルモさんが口を開きます。
「ふむ、それならドワーフの探鉱技師がいいだろうな。あいつらなら口も固いし、腕も確かだ」
なるほど、確かに鉱物を扱わせたら、ドワーフの右に出る者はいないか。やっぱりエルモさんに相談して正解だったな。
「その方に連絡を取りたいんですが、問題無いですかね?」
「ああ、それなら問題ないぞ。今はラコフ子爵領で調査してると言っていたから、俺から手紙を書いてやろう」
「すみません、助かります。ところで、この鉄ってそんなに良い品物なんですか?」
俺は頭を下げてから、少し疑問に思った事をエルモさんに聞いてみた。
「ああ、今ウチで使ってるのは、タッカー男爵領産だが精製さえ間違わなきゃ、それに負けない鉄になるだろうよ」
おお、どうやら質もかなり期待できそうですね。
偶然とはいえ、領内に鉄鉱床を発見できるとは、すごく幸運でしたね!
早速戻って、父様に報告するとしましょう♪




