25.アーサー君、鍛冶場に拉致される
連続更新2/1
ドワーフさんに担がれて、薄暗く埃っぽい所に連れ込まれたアーサー君です。
はい、ナイフの実物を見せたら、エルモさんにそっこー鍛冶場に拉致されました。
「おい!炉の火をおこせ! それからミスリルと鉄を持ってこい!」
下働きのお弟子さんですかね?
子供を肩に担いだ親方から怒鳴られて、慌てて何処かへ走って行きましたよ。
俺はエルモさんから降ろしてもらい、一言断ってから炉に炭を並べて火魔法で点火します。
これからのシーズン、バーベキューとかする時は、グループに一人、魔法使いがいると便利ですよ!
30歳オーバーの、ジョブチェンジ系魔法使いじゃなくてね……
おや、エルモさんが俺の手際を見て、何か関心したような顔してますね。
そりゃ元はあなたの技術ですからね。なんか驚かせてすみません。
さて、火をを熾してから俺は適当に周囲を物色します。
少しウロウロすると、装飾の作業をする机の横から、磨かれた銅板の切れっ端を見つけました。
うん、これで説明できるかな?
「おう、坊主。普通の鉄とミスリルは準備したぞ。他に、何か必要な物はあるか?」
「そうですね。小さい鋼を少し用意出来ますか?」
「ちょっと待て」と言って、エルモさんは、何かの材料に使う予定であろう、鋼の棒を持ってきました。
おっ、炉の火もいい具合になってきましたね。そろそろ説明を始めますか。
「それじゃ、説明をしたいと思います。エルモさんはそもそも、鉄どうしがくっつかないのは、どうしてか分かりますか?」
そう言うと、今まで考えたことがなかったのか、エルモさんは腕を組んで首を傾げました。
「そう言えば考えた事もないな」
それを聞いた俺は、前もって考えていた内容を説明すべく口を開きました。
「肉を焼く時に、鉄鍋に油を敷きますよね?そうすると肉がくっつかないでしょ?」
身近な話を持ちだされ、エルモさんが肉を思い浮かべているのか、口の端を緩めながら、コクコクと頷きました。
「ああ、そうだな。って事は油が鉄をくっつけるのを邪魔してるのか?」
「いえ、違います。もう一つたとえ話ですが、剣は手入れをせずに放っておくと錆びますよね?」
「ああ、この間も剣を錆びさせた野郎が剣を持ってきて、頭ぶん殴ってやったわ」
おおぅ、物騒ですね。俺もそうならないように気をつけないと……
「では、どうして剣は錆びるかご存じですか?」
「それは、いま坊主が言った通り、手入れを怠るからだろ」
「そうですね、鉄が錆びるのは塩気や水分がありますが、それと空気が関わってきます」
「空気だと?」
「はい、空気です。ですがここで空気について語ると、話が前に進まないので、たとえ話です。
鉄鍋を最初に使う時は、空焼きしてそれから油を塗りますよね?
そうすると鉄が黒く焼けて、錆びたり焦げつかなくなる。そうですよね?」
「ああ、それはそうだな」
ふう、久しぶりに長くしゃべると疲れますね。でももう少し説明しないと。
「その黒く焼けた部分が邪魔をして、鉄どうしがくっつかないんですよ」
「なるほどな。大体だが話は見えた。だが、熱すると鉄は焼けちまうんだから無理じゃないのか?」
「ええ、そうですね。そこで話が前に戻ります。剣を錆びさせないためにはどうしますか?」
「手入れ……いや、油を塗るって事か?」
よしよし、だいぶ正解に近づいてきましたね。もう一息です。
酸化と還元やら酸化皮膜について語っても、多分理解されないと思いますからね。
「そうですね。ですが鉄に油を塗って炉に入れても、油は燃えてしまいますよね?」
「そりゃそうか…… なら、別の何かを塗るのか?」
うん、このくらいでいいかな? あんまり長引かせて、エルモさんがキレたらマズいし。
俺は炉にさっき見つけてきた銅板をくべると、少し炙ってから火箸で銅板をつまみ上げ、エルモさんに見せた。
「ほら、色が変わってますよね?これがくっつくのを邪魔する膜ですね」
俺は、そう言ってから鋼と鉄をそれぞれ炉の中に入れる。
そしてエルモさんに断ってから、一番小さいハンマーを借りて、鉄を打ち始めた。
カンカンと、小気味良く形状を作ってタガネで溝を作り、はめ込む鋼の形を整える。
「俺の場合はこうやって作ってます」
そう言って、この前と同じ要領で魔力を練って、鉄と鋼を包んで一気に接合に持っていく。
打ち終わってからある程度ナイフの形に整えて、灰の中に突っ込み、そこで一息ついた。
ふとエルモさんの顔を見ると、あんぐりと口を開き、魂が抜けたような顔でこっちを見ている。
やべ…… またやっちまったか?
「エルモ……さん?」
俺がおそるおそる呼びかけると、エルモさんは次第にフルフルと肩を揺らして、だんだん顔が赤くなってきた。
「その手があったのか~~~っ!!」
鍛冶場中に響き渡る大音響でエルモさんが叫んで、俺は思わず耳を塞いでしまう。
うん、鼓膜破れるかと思いましたよ。
エルモさんはすっかり興奮した様子で、俺の手を握ってブンブンと振り回します。
痛い、痛い!エルモさん、ダメージ通ってるから!腕とれちゃうから!
なんとか、エルモさんを落ち着けた俺は、その後通常の藁灰と泥を使うやり方や、両刃の剣を打つ時に使う三枚の作り方を教える。
その方法を聞いたエルモさんは、真剣な表情であれこれと考えていた様子だったが、やがて落ち着いたように俺に切り出した。
「なるほどな。その方法なら魔力がないヤツでも、この刃物が作れる訳か」
そう言って俺と場所を替わり、同じようにナイフを作りはじめた。
その手際はやはり俺よりも手慣れた感じで、魔力を使いあっという間に割り込みのナイフを作ってしまった。
このへんはやっぱり経験の差だろうね。俺が真理の目で技術を習得しても、経験まではコピー出来ないからね。
「今のやり方とは逆に、硬い鋼の内側に芯になる軟鉄を入れて、折れにくい刃物を作ることも出来ますね」
俺の言葉に頷いたエルモさんは、俺が作ったナイフと自分が打ったナイフを見比べて、少し思案してから口を開いた。
「おい坊主、いやアーサー。明日から注文を受けた剣を打つ。ただし、俺の魔力じゃ二本は厳しい。手伝いに来い」
おふぅ、出来上がりを待つだけだと思ったら思わぬヘルプ要請が出ましたよ。
俺も色々と忙しいんですが、普通の方法で作ってもらえないかなぁ……
俺の考えを見透かしたのか、エルモさんは少し笑ってから俺に今打ったナイフを差し出してきた。
「判るか?俺とお前が打ったナイフでは、魔力の通りが違うんだ。
魔光銀を少し入れ込むなり少し工夫すれば、お前が作った方のナイフは、あっという間に魔法剣に化けるだろう」
エルモさんはそう言ってわずかに魔力を込めると、俺の作った方のナイフは全体が淡く光った。
一方、エルモさんが打った方も光るには光るが、俺が打った方よりは光り方が弱いな。
込められている魔力の量なのか、それとも込める魔法の手法がちがうのかな?
なるほどね。そういう事なら協力するのもやぶさかでないですな。
「しかし、お前は一体何者なんだ?ホントに三歳なのか?」
まあ、これだけの技術を3才児が披露したら、そりゃ驚きますよね。
でも正真正銘、三歳ですよ。中身はおっさ…… ゴホン、青年ですけど。
「いろいろと実験してたら、偶然発見したんだ」
俺は笑って、エルモさんの疑問をごまかすことにしました。
そろそろ領内とか色々と動きたいから、子供のフリでごまかすのも、そろそろ考えものですね。
「あの~、お取り込み中申し訳ないのですが……」
あっ、ほったらかしになっていた店主さんが顔を出して、おずおずと話に割り込んできた。
俺がニッコリと微笑んで頷くと、少しほっとしたように話を続け出しましたよ。
よっぽど、エルモさんが怖いんでしょうな。
「それで、この剣の製法についてなんですが……」
よしよし、食いついて来ましたよ~!
「それについては、場所を移してゆっくりお話したいですね」
俺は笑顔を崩さず、店主のおっさんにそう返答しました。
さ~て、久々に営業しましょうかね~
説明すると長くなるので、たとえ話で書きました。
酸化皮膜をつかないように上手に鍛接するには、色々と手法や技術が必要です。
この話は突っ込みだすとキリがないので、
ファンタジーのご都合主義で笑って流して頂ければ幸いです。




