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97.離別の時

※2314 ピーターの名前を修正しました。


出会いと別れは突然に。

不意に訪れる別れに、少しセンチなアーサー君です。


あっ、すみません。数えて12歳となりました!

いやはや、月日が経つのはあっという間ですね。

あれから特に大きなイベントもなく、領内の運営は順調です。


……いや、大きなイベントはあったんですよ。



ええ、俺に弟が生まれました!



いや~、弟って可愛いですね。

幸いにして前世の記憶などは持っておらず、いたって普通のお子様ですよ。

真剣にあの駄女神が、第二弾を送り込んできてたらと心配して、誰もいない時を見計らって、日本語で声をかけたんですが、どうやら杞憂だったようです。


そんな我が弟ですがピーター・セルウィンと名付けられまして、すくすくと成長しております。


まあ、俺という前例を見た両親&ダリルさんに、ピーターも騎士団の訓練に放り込まれそうになりまして、慌てて止めたという、なんとも危なっかしいエピソードもありましたね。


3歳になったピーターは、俺の監督下ですくすくと成長しております。

いやね、誰に似たのかすごく物覚えが良くて、俺が読み聞かせた物語や童話の内容を、そっくり覚えるほど記憶力がいいんですよ。


それに気づいてからは、目下ビシビシと現代知識や内政に関するチートを仕込んでおります。


いや、万が一俺に何かあってもピーターがいればセルウィン領は安泰ですね!


ええ、もちろん領内の発展を、おろそかにしたりはしていませんよ?


塩田の開発から、塩の専売をロイドさんにお願いして、ランク別に数種類の塩を国内に流通させています。


これは、これまで岩塩がメインだった王国の中でも結構な人気になっていまして、鉄鉱山の利益と相まって現在ではセルウィン領での収入の双璧をなすほどに成長しました。



領都の北側では、ズラリと塩田が広がる光景は結構壮観ですね。

王都での一件で商売敵が消えたロイドさんは、ここぞとばかりに販路を広げ、今では押しも押されぬ大商人になっていますね。


その分、仕事が忙しいのか最近ではあまり領主館には顔を見せてくれませんね。


まあ、その代わりと言ってはなんですが、エリカがほぼ毎日顔を出すのは……ご愛嬌って事にしておきましょう。



そのエリカも、母様の薫陶の甲斐あって今では一流と言っていいほどの魔術師に成長しております。

って、正統な魔術師の系譜って、ああいう感じの魔法を使うんですね。

俺が教えた無属性魔法での修練方法は、これまで考えられていた手法を根底から覆す方法だったらしく、現在はセルウィン家の秘伝として秘匿されております。



魔法関連ですと、水魔法からの応用発展を俺に変わって発表した母様は、その功績で異例の名誉爵位を賜わりました。

この魔法については、他人に害をなすというよりも生活の利便性を大きく向上させたとして、後世に名を残すほどの偉業として讃えられています。


実際、生鮮食料品の輸送がかなり向上したようで、王国の食文化にかなり変化が訪れています。



……まあ、その食文化についても、うちの領が発祥なんですけどね。


いやまあ、王都での晩餐会のあとは、結構な騒ぎになりまして貴族や商人達から料理長の招聘や講習の依頼、果てはレシピ本の出版と目まぐるしい日々でしたね。


渋る料理長を説得して、王都と領内に直営のレストランを開業させたんですね。

ええ、王国一予約の取れないレストランとして、すっかり有名になってますよ。




えっ? 俺はどんな生活をしてたかって?

特に変わりはないですよ?


忙しい内政の合間を縫って、ヴェーラさんのところに通って魔法の修行、それに加えて毎朝の稽古ですからね。


相変わらず、ダリルさんには勝てていません。いや、この言い方には語弊がありますね。


純粋な剣技では、まだダリルさんには勝てていません。

まだ試したことはないですが、多分魔法を併用すれば、勝ちには持ち込めると思います。


ですが、それだと何か違うんですよね。

できるなら、俺が領を離れる前に勝っておきたいところなんですがね。


現実は、そううまくは行きません。

こう話をするとまるで俺が成長していないように聞こえますが、実際はちゃんと成長しているんですよ!


あんな人外と、ほぼ引き分けまで持ち込めるぐらいまで成長した俺を、誰かほめて下さい!

ここのところは、ほぼ毎回引き分けでして間違いなく、達人レベルの立会いを繰り広げているんですよ!


剣筋を読み合い、構えたままで数分間身じろぎもせずに手の内を読み合うとか、一日分の気力を消費しそうな勢いですよ、まったく。




さて、順調に思える俺の人生ですが、離別や転機というものは、期せずしてやってくるものです。


たとえそれが身近な人であったとしても……



そんな訳で、俺は今ある人との別れを迎えようとしていました。

領主館の前には、使用人達と俺の両親、そして俺が揃って出発の準備を整えた馬車を前に、並んでいます。



「リーラ、向こうに行っても元気で暮らすのよ」



まるで我が子の旅立ちを見送るように、母様が声をかけます。

その言葉を聞いた使用人達が、別れを惜しむように小さく声をかけています。


中には涙ぐむ者もいて、まるで今生の別れにも似た雰囲気が漂います。



「そんな、皆さん大げさですよー」


リーラは笑ってそんな事を言い放ちますが、使用人達の心は晴れません。


「体に気をつけて、向こうでもしっかり励むのですよ」


母親であるエリーナさんの言葉に、しっかりと頷いたリーラを見て父様が声をかけました。


「うむ、我が子同然のリーラに頼むのは些か心苦しいが、しっかりと王都での仕事を務めてきてくれ」


「はい!」


元気よく返事をするリーラが、小さなバックを片手に馬車に乗り込みます。

そう、リーラがある理由から王都へと旅立つのです。


「リーラ、道中気をつけてね!」


俺は笑って手を振り、馬車の窓からリーラも手を振り返してくれます。

ちょっとさみしいですが笑顔で送り出そうと、俺は決めていました。




「リーラおねえちゃん、どこに行くの?」


ピーターがそんな疑問を母様に質問し、母様はピーターを抱き上げて何事かささやいています。


「ふえ~っ、リーラおねえちゃん行っちゃやだ!」


涙目になったピーターがエグエグとしゃくりあげ、ついに泣き出しました。

いくら聡明といっても、やはり3歳児。仲良くしていたリーラがいなくなると聞いて、平静ではいられなかったようですね。


俺の幼少期とは大違いです。これが正しい3歳児の姿なんでしょうね。


そしてピーターの泣き声が合図であったように手綱が振られ、ゆっくりと馬車が動き出します。



こうしてリーラは慣れ親しんだ領地を離れ、王都へ旅立って行ったのです……





新章開始しました!


次話、0700予定 ……多分

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