私だけができる話
「映画、どうだった?」
映画館から出て、俺と佐田は……近くの喫茶店に入ってしまった。
いや……映画がどうだったとかそういう問題ではない。どうしてまるで流れるように喫茶店に入ってしまっているのだ。
俺に関しては制服のままなので変に見られるかと思ったが……そうでもなかった。
最大の問題は……佐田と普通に喫茶店に入っていることである。
「え……まぁ、普通だったんじゃないの」
「はぁ? 普通って……アンタねぇ」
呆れ顔で佐田はそう言う。映画の感想なんて……大したものなど出てこない。
そもそも、恋愛映画の感想って……佐田は一体俺に何を求めているのやら。
「まぁ、私は面白かったかな……手を握られた時の……岸谷の反応が」
嬉しそうな顔で佐田はそう言ったが……やはり、俺の思った通りだった。
「お前……ああいうのは……ダメだろ」
「フフッ。ダメって、何が?」
嬉しそうにそういう佐田。常識で考えればダメって分かるだろうに。
俺は思わず小さく咳払いをする。
「……いくら俺が困るってわかっていても……ああいうことをするのは、その……そういう関係の人間だけだろ」
「え? 私とアンタってそういう関係じゃないの?」
俺が眉間に皺を寄せて佐田を睨むと、佐田は全く反省していない感じで微笑む。
「いいじゃん。アンタは不快だったわけ?」
「……ああ。ああいうことをされるのは困るし……不快だった」
俺がそう言うと佐田は目を丸くする。そして、少し悲しそうに目を伏せる。
「あ……そっか。マジで……不快だったんだ……」
「え……な、何だよ。急に……」
自分で言っておいて……なんなのだ。コイツは。
俺は意味がわからなかったが、佐田を見る。佐田は少し悲しそうに俺のことを見ていた。
「……私以外だったら、不快じゃないわけ?」
「は? なんだよ、今度は……」
そう返事すると、今度は少し怒り気味に俺を見る。
「……どうせ、知弦だったら、アンタは、不快だった、なんて言わないんでしょ?」
「え……どうしてそこで宮野が出てくるんだよ……」
「だって、アンタに関係のある女子って、私と知弦だけじゃん」
……そう言われてしまうと、俺は何も言えなくなってしまう。
実際……その通りだからである。俺は少し困ったが、佐田に先を続ける。
「いや、別に。宮野だって、俺は不快だね」
「……嘘っぽい。絶対、知弦にはそんなこと言わない」
「さぁな。そもそも……宮野はお前みたいなこと、しないだろ?」
俺がそう言うと佐田は少し恥ずかしそうにしながら、横を向く。
「……そうね。確かに」
「だろ? だから、そもそもこの話は成立しないんだよ」
俺がそう言うと佐田は今一度俺の方に顔を向けてきた。真っ直ぐな瞳……映画館で見た時と全く同じものだった。
「……私だから、あんなことできた、ってことだよね」
「え……あ、ああ……そ、そういうことに……なるかもな」
俺がそう言うと佐田は暫くジッとその鋭い目で、俺のことを見る。
「……じゃあ、私だけが出来ること……これからするから」
「へ?」
そう宣言すると、佐田は立ち上がる。
「ほら、行こう」
「え……どこへ?」
俺がそうきくと佐田はいたずらっぽく微笑む。
「もちろん……私しか知らない場所に、だよ」




