無関係な話
「あ、岸谷」
校舎に戻ってくると、昇降口で不安そうな顔で瀬名が俺のことを待っていた。
「……なんだ。どうしてここに……」
「いや、なんかいきなり行っちゃったから……どうだった?」
瀬名は俺にそう聞いてくる。応える義務はないと思ったが……
「……帰ったよ。佐田は」
「あ……そっか」
瀬名はホッと胸を撫で下ろす。
「……まったく、アイツはどういうつもりなんだ」
「どういうつもりって……岸谷に会いに来たんでしょ?」
瀬名が当たり前だと言わんばかりの顔で俺にそう言う。
「……お前、アイツがどうして昼休みに他の学校に来ていることに突っ込まないんだ?」
「え……あ、ああ……確かに」
瀬名は言われて気付いたようだった……言わなければよかったかもしれない。
「ってことは……佐田さんは……学校サボって、ここに?」
「……サボりじゃない。そもそも、アイツは学校行ってないんだと」
「え……それじゃあ……」
瀬名は言いづらそうな顔で俺を見る。言ってしまえば、簡単なことだ。
アイツは学校に行くのが嫌で、俺に会いに来た……それだけの話だ。
「佐田さん……大丈夫なの?」
「大丈夫? 大丈夫だったら、俺に会いに来たりしないだろ」
「そ、それはそうか……岸谷は何か言ってあげたの? 相談に乗ってあげたり……」
そう言われて俺は思わず瀬名を見てしまった。
瀬名は……俺に佐田の不登校を解決してやれって、言っているのか? 自殺しそうな程に不安定な佐田の精神を、どうにかしてやれって?
俺は佐田に……酷いことをされたのに?
『ね? 思い出したでしょ? 汐美ちゃんが雅哉君にしたこと』
そんな言葉と共に、俺の淀んだ記憶が蘇りそうになる。俺は慌てて口元を抑える。
「え……岸谷? 大丈夫?」
しばらく俺は無心になる努力をした。その後で、ゆっくりと歩きだす。
「……お前に関係ないだろ」
俺はそれだけ言って、呆然とする瀬名を残して、教室に戻ったのだった。




