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主張する話

 佐田にそう言われて……俺は何も言わなかった。


 覚えている……というよりも思い出したくない記憶の一つだ。


 俺は中学の頃、ラブレターを貰った。それはクラスの一人の女の子のものだった。


 当時、俺はまだ色々な面で未熟で、それを鵜呑みにし、そのまま女の子に告白の返事をした。


 無論、女の子はそんなラブレターなど書いていないと言うだけならまだしも……俺のことなど全くもって好きではないという。


 おまけに「気持ち悪いからもう話しかけないで」とまで追い打ちをかけられた。


 俺は……三日間食べ物が喉を通らず、能く眠れなかった。


 別にその女の子が好きだったのではない。でも……自分が世界で一番間抜けでどうしようもなく情けなく思えたのである。


 その出来事は今の俺を構成している苦い思い出の一つ……それが一体今更なんだというのだ。


「……それがどうした?」


 俺は怒りを押し殺しながら、佐田に訊ねる。すると、佐田は少し迷っていたようだったが、そのまま俺に話を再開する。


「……アンタも覚えていると思うけど、たしかにあれは、アンタが告白した女の子が書いたものじゃなかった……でも、ラブレターの文面は覚えている?」


「え……えっと……ホント短くて、変哲のない文章だったな。『アナタのことをいつも見ています。好きです。付き合って下さい」……で、俺が告白した女の子の名前が……」


「そう。でも……あれ、書くの結構恥ずかしかったんだよね」


 そういって、俺から少し視線を逸らす佐田。俺はただ呆然と佐田のことを見ていた。


「……へ。あれ……書いたのって……」


「……まぁ、今までの話を総合すると……アンタはおそらく、私が今何を言っても信用してくれない。それは当たり前だけど。ただ、2つ私が本当のことだと、主張したいのは、私がアンタが苦しでいる姿を見たい。これが本心……そして……」


 佐田は少し間を置いてから、俺の事を見て、先を続ける。


「……今、私がどうしようもない状況にいて、アンタに助けを求めたい。それは……アンタのことが好きだったから、っていうこと」


 佐田は今度は確かに真剣な顔だった。一見すると、どう見ても嘘ではない……そんな表情で俺にそう言ったのだった。

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