大変な話
「え……それで……どうなったの?」
昼休み。相変わらずの如く、瀬名が俺に話しかけていた。
瀬名は変わらず佐田と宮野のことを聞いてくるので、俺は仕方なく話してしまった。
佐田が橋の欄干の上にいたことと、佐田とファミレスに行ったこと…ファミレスに行った後のことは、恥ずかしすぎるので言わないでおいた。
「……それで、終わりだよ」
「え……マジで? ホントにそれで終わったの?」
明らかに信用していない瀬名……どうやら瀬名はカンが鋭いらしい。
「ない。それで終わりだ」
俺が強めにそう言うと、瀬名もそれ以上は追求しないことにしたのか聞こうとしなくなった。
「そっか……ね? 言ったでしょ?」
と、瀬名は得意げな顔でそう言う。
「は? 何がだよ」
「だから……佐田さんの方が色々と抱えてそうだって」
瀬名はそう言って大きくため息をつく。
「もっと早く岸谷が気付いてあげれば……佐田さんもそんな電話、かけてこなかったんじゃないの?」
そう言われてしまうと、俺は何も言い返せなかった。
実際、瀬名の言うとおりになってしまった……佐田のことを放って置いたばかりに佐田はあんなことを……
「……別に、俺に佐田の面倒を見る義務なんてないんだが」
自分でそう言って自分で納得する。佐田がどういう状況にいようが、俺には関係ない。佐田自身の問題だ。
言葉ではそう言ったが……実際、橋の欄干の上に立っていた時の佐田の表情を思い出すと、本心ではそう言い切れなかった。
「そうだけどさぁ……まぁ、これから大変だね。岸谷は」
「え……何が?」
俺がそう言うと瀬名はやれやれと言った感じで首を横に振る。
「分かってないなぁ……こういうの俺は何度も見てきたからね。適切な処置をとらないと、大変なことになるよ」
「適切な処置って……もう終わりって言っただろ? 佐田とはそれ以上は何もなかったんだから」
そう言うと何も言わなかったが、瀬名は俺のことをジッと見る。
本当にそうなのか、と言わんばかりに俺のことを怪しんでいる視線だ……俺は何も言わずに目を逸した。
「……まぁ、岸谷がそう言うならそれでいいけどさぁ。宮野さんにはこのこと伝えたの?」
「え……いや、まだだけど」
俺がそう言うと、瀬名は小さく頷いた。
「そっか……そういうところは、流石に岸谷でもわかっているか」
「な、なんだよそれ……宮野に佐田のこと言ったら不味いのか?」
「当たり前でしょ!」
と、信じられないという表情で瀬名はそう言う。
その気迫に俺は思わずたじろいでしまった。
「あ……ああ。そうなんだな」
「そう。少なくとも、岸谷の方から言うのは……不味いと思うよ」
瀬名はそう言って俺のことを今一度見る。なんだか哀れなものをみるかのような……そんな視線だった。
「……なんだよ。そんな風に見て」
「もうさぁ……岸谷の方からはっきりさせたほうが良いんじゃない?」
「はっきりって……何を?」
俺がそう訊ねると瀬名はまたやれやれを肩をすくめる。
「まぁ……俺は話でしか聞いてないけど……少なくとも言えるのは、もう小学校や中学校の時の宮野さんや佐田さんじゃないってことかな?」
それだけ言うと、瀬名は自分の席に戻っていった。
小学校や中学校の時の宮野や佐田じゃない……
「……そんなの、当たり前だろ」
俺はそう言って、どうにもモヤモヤとした気分を抱えたままで午後の授業に望むことになってしまったのだった。




