憎んでいてほしい話
ファミレスについても佐田はあまり元気がなさそうだった。
まぁ……かなりつらそうだったし……どう考えても元気ではない。
俺としても何を話せば良いのかわからなくて、二人共黙ったままだった。
「……あのさ」
と、先に喋り始めたのは……佐田だった。
「え……何?」
「……別にもう……無理に付き合わなくてもいいし……帰ってもいいよ」
佐田は困ったように微笑見ながら俺にそう言った。俺は何も返事ができなかった。
「そうか」といって帰る……わけにはいかない。
いつもなら佐田のことなんて気にしないのだが……俺もさすがに動けなかった。
「……いや、別に無理はしてないんだけど」
俺がそう言うと佐田は少し意外だったのか、目を丸くして俺を見る。その後、安心したように俺に微笑んだ。
「アンタさぁ、私の事、嫌いだったんじゃないの?」
「え? あ、ああ……いや、ま、まぁ……」
「だったら、構う必要なんてないんだよ。私がどうなろうが関係ないじゃん。だから、別に……」
そういって佐田は俯いてしまった。俺はどうにも調子が出なくてただ、何も言わずに困っていることしかできなかった。
「……まぁ、そうでもないか」
「え……?」
佐田はしばらくすると顔を上げて俺を見た。
「なんだかんだで、長い付き合いだもんね。いろんな意味で」
「え……あ、あぁ。そうだな」
「だってさ……フフッ……普通に考えてもよく飽きないなぁ、って思わない? 小学校から中学校まで、ずっと一人の男の子のことイジメ続けるって……結構大変なことだと思うんだけど」
いきなり佐田はそんなことを言い出した。俺はどう反応すればいいのかわからず、ただ佐田を見る。
「まぁ、単純に考えれば……つながりが見いだせなかったんだよね。アンタは知らない……っていうか、基本的に男子にはわかんないだろうけど、女の子って案外蛋白だからねー。私は……どんな形であれ、誰かの記憶に残りたかったんだろうね」
「お、おい……お前、何言ってんだよ……」
すると、佐田は真っ直ぐに俺を見る。いつものヘラヘラした顔じゃない……真剣な表情だった。
「……アンタは、そういう気持ちになったことないの?」
佐田の言葉を聞いていると……なんだか緊張してしまった。
思わず持ってきていた水を口の中に運ぶ。
「ねぇ」
佐田の声が聞こえた。俺は水をそのまま飲み込む。
「アンタは、知弦を許した。それは、アンタが知弦のことが好きだから? それとも、知弦がアンタのことを好きだと思うから?」
「は……はぁ? な、なんだよそれ……」
いかん……初めての体験だった。こんな状態になったことは一度もない。落ち着けと自分に言い聞かせても、感情が言うことを聞かなかった。
そもそも、佐田のほうが俺のことを待ってくれなかった。
「私はアンタをイジメていたのは、アンタに私の事を憎んでほしかったから……いや、正確に言うけど、今でも私は、アンタに私のことを憎んでほしいと思ってる。私のことだけを、憎んでいてほしいと思う」
佐田もどこか不安げだった。それは明らかに俺に拒絶されることを心配しているような……そんな表情だった。
「……憎むって……別に俺は今は……」
「だったら!」
佐田はいきなり立ち上がった。周りの客も佐田を見てしまう。しかし、佐田は緊張した面持ちで俺のことを見ている。
「……座れよ」
俺がなんとかそう言うと、佐田はゆっくりと座った。
「……帰ろうよ」
佐田は恥ずかしそうな小さな声でそう言った。俺もそれには賛成だったので、俺と佐田は同時に席を立った。




