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取り返したい話

「それじゃあ……またね、雅哉くん」


 玄関まで送ってくれた宮野。俺は振り返って宮野の事を見る。


「ああ……その……俺も一つ、教えて欲しいことがあるんだけど」


「ん? 何かな?」


 俺は少し言い出しにくかったが……やっぱり聞くことにした。


「その……俺、お前にとって、迷惑じゃないかな?」


「……え?」


 俺がそう言うと宮野はキョトンとした顔で俺を見る。


「いや……だってさ、もう、俺はお前に会う必要っていうか……俺はもうお前のことを嫌っているわけじゃないし……だから、別にもう、お前も俺に構わないでいいっていうか……」


 俺がそう言うと宮野は暫く俺のことを見ていたが、少し悲しそうな顔をした。


「……そう思うの?」


「え? 思うって……それは……」


「雅哉君は……私が雅哉くんのこと……迷惑だって思っていると思うの?」


 宮野は少し怒っているような感じでさえ、俺にそう言ってきた。


 俺はそれを見て、俺が宮野にした質問が、あまりにも愚問だということを理解した。


「……すまん。そうだよな……お前は……そういうことは、思わないよな」


 そういって、俺は宮野の家の玄関を出ようとした。その時だった。


「……雅哉君」


 と、宮野が囁くような小さな声で俺に話しかけてきた。俺は振り返る。


「え……どうした?」


 すると、思い詰めたような……それでいて、決意したような表情で、宮野は先を続ける。


「……私は、取り返したいの」


「え……取り返すって……何を?」


「……本来、私と雅哉くんが送るべきだったはずの……時間を。そのためには私は……出来る限りのことをしてあげたい」


 そういって、宮野は優しく微笑んだ。なんとなくちょっと怖いような感じがしたが。


「……ありがとう。でも……あんまりなんというか……無理はしないでいいからな」


「無理なんてしてないよ。もう……またね」


 宮野のその言葉を聞いて俺は今度こそ、宮野の家を出た。


 既に空はオレンジ色に輝いている。なんというか……俺は幸せな気分だった。


 宮野の言うとおりなのかもしれない。


 俺は……本来過ごすべきだった時間を、取り返そうとしているのかもしれない、と。

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