9.痺れキノコ
「ごーはん、ごーはん、おいしいごーはんー♪」
シロが楽しげに歌いながら、後を付いてくる。
その口にはどこで拾ったのか、薬草が咥えられていた。
「やっぱり草はイマイチだね。晩ご飯が楽しみかも……」
「……晩ご飯は字のごとく夜だぞ?」
「夜…… 。そこまでお腹持つかな……」
お腹をさすりながら、小声で不安を呟く。
「頑張って耐えてくれ。用事が終わったらすぐに領地へ戻るからな」
「領地に戻ったら、たくさんのお食事が待ってますよ」
クルシュが笑顔で手をあわしながら言うと、シロが目を輝かせていた。
「食べ物!? わかった、私も手伝う! 毒草を探せば良いんだね!? 任せて! こういうのは得意なんだよ!」
聖女見習いだったクルシュに『採取』スキルがあったように、もしかして聖女であるシロにも『採取』スキルがあるのだろうか?
それなら、ここは任せても良いかもしれない。
ただ、本当にシロが毒草のことをわかっているのか不安になったので、一つ質問を投げかけることにした。
「ちなみに、聖女はどういうものが毒草なのか分かっているのか?」
「もちろんだよ! 食べられない草が毒草!」
当然のごとく言い切ってくる。
それを聞いた瞬間に俺は頭が痛くなってきたのだった。
実際に毒草を探し始めてからも、シロは楽しそうに鼻歌を歌っていた。
その楽しげな様子を見ていると不安しか残らなかった。
そして、その不安はすぐに的中することとなる。
「わわっ、おいしそうなキノコを発見! いっただーきまーす!!」
突然、木陰には得ていたキノコを口にしようとする。
しかし、俺の水晶にはそのキノコの種類がはっきりと浮かんでいた。
【名前】 痺れ茸
【品質】 D[キノコ]
【損傷度】 0/100
【必要素材】 C級魔石(1/10)
【錬金】 D級キノコ(0/20)→痺れ薬(D級)
「待て待て! それを食ったら痺れて――」
「あうぅぅぅ……、ビリビリしますぅ……」
既に手遅れだったようだ。
俺は思わずため息を吐いてしまう。
「わわっ、だ、大丈夫ですか、シロちゃん!?」
「だ、だいじょうぶらないよぉ……」
既に舌も回っていないようだった。
俺はカバンの中から回復薬を取り出す。
「これで大丈夫か? ……いや、キノコの痺れなら万能薬の方が良いのか?」
ただ、さすがに万能薬は持ってきていない。
仕方なく、ランクが低くても構わないので、毒草を拾う。
そこから万能薬を作り上げると、大慌てでシロに飲ませる。
いや、痺れてまともに飲めないようなので、顔に掛けているだけになっている。
しかし、それでもすぐに痺れが収まったみたいで、すぐに謝ってくる。
「ご、ごめんね……。助かったよ……」
「あ、あははっ……、気をつけてくれよ。まぁ、大抵の事は聖魔法でどうにかできると思うけど……」
「聖魔法で? 自分を爆発させるの?」
「……爆発? えっ?」
思わず聞き返してしまう。
聖魔法はどちらかと言えば、回復系のイメージが強いんだけど、違うのか?
「えっと、シロちゃんの聖魔法は特殊なんですよ……。基本攻撃魔法です……」
「あははっ、一撃粉砕だよー」
「それのどこが聖女なのよ!? どう見ても魔法使いじゃないの!」
ラーレが思わずツッコミを入れてしまう。
うんうん、その気持ちは良くわかる。
俺自身もそのツッコミを入れたかったほどだ。
「クルシュ、本当にシロは聖女なんだよな? 間違いないんだよな?」
「えっと、……はい。 間違いないのですけど、本当に昔から変わっていないのですね……」
クルシュも苦笑を浮かべていた。
「あんな子が聖女だなんて、本当に大丈夫なの? 頭がおかしいの? 馬鹿なの?」
ラーレと全く同じ事を俺も思ってしまった。
すると、クルシュは遠い目をしながら言う。
「ああ見えても、魔力は見習いの中で最高でしたので……」
なるほど……。聖女の任命自体も魔力で決めているのなら納得だ。
確かに魔法の威力自体は圧倒的だった。
それなら本人の聖女の適正等は関係ないのだろう。
「大変な目に遭ったよ……」
シロは冷や汗を流しながら、川から汲んだ水を飲んでいた。
「その辺の草を拾い食いするからよ」
呆れ口調でラーレが言っていた。
「うん、反省したよー。これからはなるべく美味しくない草は食べないようにするね」
「なるべく、じゃなくて食べたらダメよ!?」
ラーレが思わず口を挟んでいた。
すると、そんな彼女を窘めるようにシロが言ってくる。
「人間はものを食べないと死んでしまうんだよ、猫ちゃん」
「ね、猫じゃないわよ!? 私はラーレよ!?」
「ラーレちゃんだね。じゃあ、これから猫ちゃんと呼ぶね?」
「どうしてよ!? 私はラーレって言ったでしょ!?」
「ほらっ、猫ちゃん。またたびだよ」
シロがどこから持ち出したのか、毒草をラーレに近づけていく。
「にゃー。って、違うわよ!? それに、それはまたたびじゃなくて、毒草じゃないの!」
「似たようなものだよね?」
「全然違うわよ!?」
ラーレは 少し息を荒くして、顔を真っ赤にしながら反応していた。
ただ、シロの方は平然と顔色ひとつ変えずに、淡々と答えていた
「まぁまぁ。二人とも、漫才はその程度にしてくれるか? ここはちょっと危険な森だからな」
さすがにこのまま続けさせるわけにも行かないので、注意をする。
すると、シロはあっさり引き下がる。
「うん、わかったよ」
「ま、漫才なんてしてないわよ!?」
「あ、あははっ……」
薄暗い森の中で楽しい会話がひびきわたっていた。




