8.一息
別の場所へ移動して、ようやく一息つくことができた。
「はぁ……、はぁ……、さ、さすがに疲れたな……」
襲われないように小走りで移動した影響で、俺は息が上がっていた。
「そ、そうですね……。わ、私もさすがにもう……」
クルシュも同様に肩で息をしており、何とか喋っている状況だった。
「あんたたち、もう少し鍛えないとダメね」
「クルシュちゃんは相変わらずだね。食堂から食い逃げで捕まったときも、似た状況だったもんね」
「し、シロちゃん!? そ、それは私のせいじゃなくて、シロちゃんが夜中に急にお腹がすいたって言ったから……」
「私一人なら余裕で逃げ切れたんだけどね」
「いやいや、食い逃げは捕まった方がその人のためだぞ?」
苦笑を浮かべながら、二人の話に口を挟む。
「それより、そろそろお互いの自己紹介をした方が良くないか? もうずいぶんとわかってしまったが――」
「そ、それもそうですね。シロちゃん、お願いしても良いですか?」
「もちろんだよ。まっかせてー!」
片手を上げて元気いっぱいに答えるシロ。
どこか不安が残るな……。
俺は眉をひそめながら、シロのことをジッと見る。
しかし、意外にも彼女はしっかりとした挨拶をしてくる。
「申し遅れました。私はシロ。王都で聖女をやっております。どうぞお見知りおきを」
「シロ……?」
お淑やかな態度での挨拶。
あまりの変わりようにクルシュは驚きの言葉を口にしていた。
たしかにこれは俺ですら少し驚いてしまう。
ただ、すぐにその表情はすぐにいつものものに戻っていた。
「えへへっ、聖女になってから挨拶をすることが増えてね。無理やり叩き込まれたんだ」
「まぁ、そうなるよな」
神の御使いで、教会のトップ。
さすがに人前に出て挨拶をするときくらい、体裁を整えたい訳だ。
「それで、改めて聞くが、どうしてこんな場所に聖女様が一人でいたんだ? まさか本当に教会を抜け出したんじゃないよな? 何か重大な使命があったんだよな?」
念のために再度確認をする。
できればそうあってほしい、という願いを込めながら。
しかし、現実はあまりにも無情だった。
「えとえと……、 それその……、お腹が空いてついついやっちゃった?」
てへっとかわいく舌を出しながら言ってくる。
「……はぁ?」
一瞬俺は聞き違えたのかと思い、声が漏れる。
しかし、シロの態度を見て、これが事実だと思い知らされる。
「ま、待ってくれ!? 本当にその理由なのか?」
「うんっ! もちろんだよ!」
今度は満面の笑みを見せてくる。
その表情によって、シロが言っていることが真実だと嫌が応にも理解させられてしまう。
「わ、わかった……。仮にそれが真実だとしよう……」
「真実ですよ……?」
「それで、シロはこれからどうするんだ? もう王都に帰るのか?」
俺としてはその方が問題が起きないので助かるが……。
しかし、シロはすぐに首を振ってしまう。
「まだまだ帰らないよ? それにお兄ちゃん、今日は泊めてくれるんだよね?」
上目遣いで俺のことを見てくる。
そ、そんな約束してたか?
俺はタジタジになりながら、後ろにいたラーレに助けを求める。
しかし、彼女はため息を吐いて、動こうとはしなかった。
「はぁ……、あんんたね、さっき言われてたでしょ? 一宿三飯のお礼に……って」
「あっ……!?」
色々とそれからトラブルがあって、抜け落ちてしまっていたけど、確かにシロはそんなことを言っていた。
つまり最低でも、今日一日はシロを泊めないといけないのか……。
「しかしな……、俺の領地にはまだ宿はないからな……」
こういった急な来客時にどうしても困ってしまう。
その点も早く解消しないといけない一つだろう。
「大丈夫だよ。私はクルシュちゃんと一緒のベッドに寝るから」
「そうですよ、シロちゃんは私と一緒のベッドに……、えっ!?」
クルシュが笑顔でシロの言った言葉を反復していたが、途中で固まっていた。
「ど、どうして、同じベッドで寝るのですか!? べ、別にベッドは予備が有りますから……」
「別に昔は一緒に寝ていたよね? 何もおかしいことじゃないよ?」
シロはさも当然のように言ってくる。
「い、一緒に寝ていたのは、まだ子供だったときのことですよ!? も、もう一緒に寝る必要なんてないのですよ?」
「そんなことを言って……。もう、昔一人でトイレにも行けなかったのは――」
「わー、わー。な、な、何を言おうとしているのかな、このポンコツ聖女様は……」
クルシュが大慌てしながらシロの口を押さえていた。
「まぁ、クルシュと一緒の部屋に寝るのはいいんじゃないか? 久々に会ったのなら、積もる話しもあるんじゃないか?」
「そ、それはそうですけど……。はぁ……、わかりました。それなら、一緒の部屋で寝ましょうね」
「わーい、久々にクルシュちゃんと一緒のベッドだー!」
「べ、ベッドは別のを使いますからね!?」
「それじゃあ、早速その領地へゴー!!」
「待て待て! まだ俺たちがここに来た目的を果たせてない!」
シロが俺の領地へと行こうとするので慌てて止めていた。
せっかくこの遠くの森までやってきたのに、何もせずに帰るのはもったいない。
いや、聖女であって、クルシュの友達でもあるシロと出会えただけでも十分すぎる成果と言っても過言ではないのだが――。
「あっ、それもそうですね。毒草を探しに来たのですよね?」
「そ、そうよ! 取っても大事なことだから忘れたらダメでしょ!?」
ラーレ自身も忘れていたのだろう。今更ながら慌てていた。
「毒草?」
シロは不思議そうに首を傾げる。
それもそのはずだ。
いきなり毒のある草を取りに来たといわれても、怪しむことしかできないからな。
「あぁ、それで万能薬を作ることができるんだ。ただ、なるべく等級の良い毒草じゃないと、作れる万能薬の性能も落ちてしまうんだ……」
「なるほどね、わかったよ! それじゃあ、私も協力してあげるね」
シロは名案とでも言いたげに、ポンッと手を叩いていた。
「それじゃあ、そろそろ三食目を――」
「よし、出発するか!」
「そうですね。行きましょう!」
「さっさと出発するわよ!」
「あー……、待ってよー!」
先に出発する俺たちの後をシロが必死に追いかけてきた。




