7.神の裁き
「ふぅ……、満足したよ……」
シロは満足げにお腹をさすっていた。
「二回目も同じ量……か」
「あ、あははっ……、本当に相変わらずですね……」
「また私の魚を……」
大量に置かれた魚の骨を前にして、俺たちはただただ苦笑するのみだった。
「一宿三飯のお礼に、何か困ってることがあれば言ってね。私にできるなら協力させてもらうよ」
目と鼻の先まで顔を近づけてきて、笑いかけてくるシロ。
整った顔立ちのシロが目の前にいると、思わず顔を背けてしまう。
すると、頬を膨らませたクルシュが俺たちの間に割って入ってくる。
「ソーマさんは渡しませんよ!?」
「えっと、 渡す渡さないじゃないと思うんだけど……」
「お兄ちゃんっておいしいの?」
そのまま俺の耳をはむっと加えてくるシロ。
「えっ?」
「わわっ!? な、何をする!?」
突然のことに一瞬呆けてしまったが、すぐに何をされたのか気づき、一気に赤面してしまう。
クルシュもポカンと口を開けて硬直していた。
「はむはむ……」
なぜか口を動かしてくるシロ。
すると、クルシュが慌ててシロを俺から離していた。
「だ、ダメですよ!? そんなことをしたらソーマさんにご迷惑がかかりますから!」
「クルシュちゃんがおいしいって言ったんだよ?」
「い、言ってませんよ!?」
「お兄ちゃん、味はしないけど、歯ごたえは良いね。これからももぐもぐしてもいい?」
「だ、ダメーーーー!!」
クルシュの大声が森の中に木霊していた。
一瞬、場を静寂が襲う。
しかし、すぐに頬を掻きながら、シロが言ってくる。
「うーん、これはちょっとまずいね。クルシュちゃん、一応ここは魔物がいる森だから」
「だ、誰のせいですか!?」
クルシュが必死に言い返す。
「クルシュちゃんが叫んだせい?」
「し、シロちゃんが叫ばせるようなことを言ったせいですよ!?」
「なぁ、あまり聞きたくないんだが、なにがまずいんだ……?」
クルシュたちの会話に割って入る。
すると、森の奥を指差しながらシロが答える。
「魔物たちなら敵がいるとその場から逃げ去るか襲ってくるよね? 特に私たちは強く見えないから……」
シロの言いたいことはわかった。
ただ、それと同時に手遅れだともわかった。
まだ、姿は見えないものの木々の奥から、魔物のうめき声が複数聞こえてくる。
すでに周りを囲まれてしまっているようだ。
「ラーレ……」
「ちょっと数が多いわね。私一人で相手にできるかどうか……」
「ちっ……、わかった。一応バフをかけるから、精一杯堪えてくれ。その間に対策を考える」
そう伝えながら、俺は『鼓舞』スキルを発動させる。
これでラーレの能力が少しだけ上がってくれる。
ただ、魔物の数が多すぎる。
うめき声だけで一桁ではないとわかる。
「クルシュ、一応逃げる準備だけはしてくれ」
「わ、わかりました。で、でも、ソーマさんは?」
「俺はラーレと一緒に時間を稼ぐ。どこまでできるかはわからないけどな」
「だ、ダメよ!? こ、ここは私一人で十分よ! だからあんたも早く逃げなさい!」
「いや、こんな危険なところにラーレ一人を置いていくわけにはいかない。だから、ここは俺も――」
俺たちが言い合っているとシロが不思議そうに聞いてくる。
「えっと、あのくらいなら雑魚だから、パパッと倒して、この場を離れない?」
「それができたらすぐにするんだけど、さすがに数が多すぎる――」
「別に数が多くても関係ないよね? 倒す?」
シロが不思議そうに聞いてくる。
「倒せるなら倒したいが――」
「うん、わかったよ。えいっ」
シロが三つ叉の槍を一度振るとその瞬間に、遠くの方から爆発音が聞こえてくる。
「聖魔法、『神の裁き』だよ。これでもう魔物がいないはずだよ」
ポカンと口を開けて、黙々とあがる黒い煙を眺めていた。
さっき鳴っていた爆発音はこの魔法のことだったんだな……。
それを平然と軽々に……。
「えっと……、そ、それが聖魔法……なのか?」
どちらかと言えば、魔女とか賢者とかが使いそうな凶悪な魔法に見えるのだけど……。
「見ての通りだよ?」
「全然見ての通りじゃないわよ!?」
「そ、そうだな。いや、助かったからいいのか?」
「シロちゃん、魔法の力は圧倒的だから……。その……ちょっと攻撃面に振ってるだけで――」
「えっへん、これでも聖女だからね!」
「全然聖女じゃないだろ!?」
思わず声出してしまった。
「それよりも、さっきの爆発音でまた魔物が来るんじゃないの? この場にいたら危ないわよ!?」
「それもそうか。とりあえず、移動しよう……」
色々と聞きたいことはあるものの、取りあえずこの場は移動することにした。




