5.大飯食らい
「な、なんだ。何が起きたんだ?」
突然爆発が起こり、思わず周りを見渡してしまう。
遠くの方で煙が上がっている――。
突然の爆発……。誰かの攻撃か、それとも魔物たちの争いか。
その理由は分からないけど、この森は領地からの距離も近い。
調べないわけにはいかなかった。
「クルシュ、ラーレ、危険だけど、見に行っていいか?」
「私は構いませんよ」
「仕方ないわね。あの爆発を見に行くんでしょ? でも、油断しないでよね」
ラーレは腕を組みながら、そっぽ向きながら言ってくる。
素直に心配しているといえないようだ。
「心配してくれるのか? ありがとう、ラーレ」
「べ、べ、別にアンタの事なんか心配してないわよ! あんたがいなくなるとクルシュが悲しむから……。ただ、それだけなんだからね!」
恥ずかしそうに顔を赤くして、慌てながら言ってくる。
「でも、気をつけなさいよね。弱い魔物なら私が守ってあげられるけど、強力な魔物とか、複数人の盗賊とかだと私じゃ勝ち目ないからね」
「うん、わかってるよ。だから、様子を見に行くだけだ」
「ソーマさん、この魔力……」
クルシュが何か感づいたようで、話の腰を折ってくる。
「どうかしたのか?」
「あっ、はい。さっきの爆発、かなりの聖魔力を感じました。これほどの力を発するとなると、聖女様か、聖女見習いか、そのどちらかだと思います」
「なるほどな……。どうしてこんなところにいるのかは差し置いて、それなら危険はないか。様子を窺いには行った方が良さそうだな」
「あれだけの爆発魔法を使った、ということはかなり危険な状態だと思いますよ。下手に近づくと私たちも攻撃させるかもしれません」
「そうか……」
確かに魔物と間違えられて、万が一にでも襲われたら大変だからな。
それに、クルシュのこの様子……。
以前聖女見習いだったこともあるから、もしかすると聖女様についてもなにか知っているのかもしれない。
そんなクルシュが危険だというのだから、俺たちだけでは相当危ないのだろう。
確かに俺とクルシュのレベルは1。
ラーレでも11。
まともに戦闘ができるレベルではなかった。
弱い魔物ならまだ、うまく立ち回って、ラーレの素早い動きに惑わして倒すこともできる。
でも、聖女がわざわざこんなところにまで出張って、全力で戦う相手が普通の魔物のはずがない。
下手をすると魔王クラスの何者かがこの辺にいるのかもしれない。
早急にエーファを呼び戻すか?
いや、まだその段階ではないだろう。この森にいるだけなら下手に刺激をすることなく、そのまま引き上げてもらおう。
「わかった、それなら、下手に近づくのはやめておくか。聖女様に会うのが目的じゃないからな」
「それがいいですね」
クルシュがホッと安堵の息を吐いていた。
すると、突然ラーレが声を上げてくる。
「近くに川があるわね! お昼ご飯でも捕っていかない?」
ラーレが目を輝かせながら、川のある方向を見ていた。
朝も魚を食べていたのに、まだ食べるのか……。
ラーレの魚の好きっぷりに思わず呆れてしまった。
◇
川の側までやってくる。
川底が見えるほど、綺麗で透き通った水。
やや冷たいその水は足を付けるだけで、心地よかった。
そして、目に見えるほど魚が泳いでいた。
だからこそ、俺はクルシュに視線を向ける。
「クルシュ、頼めるか?」
「はい、もちろんですよ」
「わ、私もやるわよ!?」
クルシュがあっという間に釣り竿を作り出す。
それを見よう見まねでラーレも釣り竿を作るが、こちらは少々不格好だったが、本人は満足そうにクルシュの隣で魚釣りを始める。
しばらくすると、クルシュは大量の魚を釣り上げていた。
さすがは『釣り』スキル持ち……。
見ているだけでわかるほどに、その手際は見事なものだった。
一方、ラーレの方も頑張ってはいるのだけど、ポツポツとしか釣れていないようだった。
ただ、それでもラーレは釣れあがる魚に対して、一喜一憂していた。
そして、しばらくすると目の前に大量の魚が釣り上がっていた。
それを見ていた俺はカバンから塩を取りだし、釣りをしている二人を見ながら作っていた串と共にクルシュに渡していた。
魚を串に刺し、少量の塩を掛けたあと、たき火で焼いていく。
それを目を輝かしながらラーレは見ていた。
「まだかな、まだかな……」
「ふふっ、落ち着いてください、ラーレちゃん。お魚は逃げませんから」
「に、逃げるよ!?」
「はははっ、まあクルシュに任せておけば大丈夫だろう」
辺り一帯にこんがりと香ばしい匂いが漂い始めると、ラーレは今にも飛びつきそうになっていた。
「も、もう待ちきれないわ!」
「まだ早いですよ。もう少し待ってください」
「うぅぅ……、待ちきれないわね……」
口を噛みしめながら、目の前で焼かれていく魚を食い入るように見つめる。
そして、もう少し経つとクルシュが焼き上がった魚を渡してくる。
「はいっ、できましたよ。こちらをどうぞ。熱いので気をつけて下さいね」
「わぁい! ありがとー!」
ラーレが手を伸ばすが、魚を受け取ったのは全く別の人物だった。
なぜか修道服を着た少女が涎を垂らしながら魚を受け取っていた。
「えっ、だれ?」
「私の魚 !?」
「あっ、あなたは――聖女さま!?」
クルシュが驚きの声を上げていた。
「聖女!? こ、こいつがか!?」
俺は驚きつつ、その少女を見る。
クルシュより少しだけ高い背丈。
でも、修道服の上からでもわかる女性らしい体つき。
肩ほどの銀髪とその手に持たれた三つ叉の槍。
……いや、フォークか?
どう見ても武器には見えないし、先ほどクルシュが高魔力を感じていたところを見ると、基本的な戦い方は魔法によるものなのだろう。
見た目としては聖女、ないしそれに類する神官当たりで間違いないようだ。
「さっきの戦いは終わったのか……?」
「もぐもぐもぐもぐ……」
俺の質問をよそに聖女はひたすら魚を食べていた。
食べることに必死になりすぎて何も話せない状況……といったところだろうか?
俺は苦笑をしながら、聖女が食べ終わるのを待つことにした。
「わざわざ食事中に聞くことでもなかったな。詳しい話は食事を終えてからにしようか」
「私の魚……」
ラーレが名残惜しそうに聖女が食べている魚を眺めていた。
すると、見ていられなくなったのか、クルシュが立ち上がり、別の魚を焼き始める。
「ラーレちゃん、もう少し待って下さいね。次の分を焼かせてもらいますから……」
「うん、ありがとう、クルシュ」
「あー……、この食べっぷりだったら多めに焼いておいてくれるか? すぐになくなりそうだ」
「それもそうですね。捕れた分は全部焼いておきます。足りなさそうでしたらもう少し量を釣ってきましょうか?」
「さすがにそこまでは――」
聖女の姿をもう一度見る。
もうすでに半分以上、手に持っていた魚が消失していた。
この様子だと、完全になくなるまでそう長くはないだろう。
「いや、悪いけど頼めるか? 俺にできることがあったら手伝うから」
「はいっ! 任せて下さい! ソーマさんはゆっくり休んでください」
「そういうわけには――」
「このあと、色々と難しい話をするのですよね? それなら尚更休んでください」
クルシュなりに気を遣ってくれているようだった。
それならここは甘えさせてもらうべきだろう。
「わかった。すまないけどよろしく頼む」
「はいっ!」
無理やり仕事を増やしてしまったのだが、それでもクルシュはうれしそうに大きく頷いていた。




