4.腹ぺこ聖女
太陽を遮る木々。
音一つない静寂。
じんわりと湿った土。
ひんやりとした空気がこの場所の怪しさを醸し出している。
そんな中を悠然と歩くラーレ。
その後ろを怯えた様子のクルシュと俺が続く。
「あ、あの……、だ、大丈夫でしょうか? 領地から結構離れてますけど、強い魔物は出ないのですか?」
「大丈夫よ、私に任せておきなさい!」
不安になるクルシュを励ますラーレ。
彼女の自信も根拠のないものではなく、そのスキルによるものなので、俺自身は安心して彼女について行っていた。
【名前】 ラーレ
【年齢】 16
【職業】 探索士
【レベル】 11(1/4)[ランクD]
『筋力』 9(142/500)
『魔力』 5(69/300)
『敏捷』 21(3/1100)
『体力』 10(269/550)
【スキル】 『短剣術』3(1964/2000)『索敵』5(2/3000)『気配探知』6(36/3500)『隠密行動』2(1368/1500)『火魔法』1(77/1000)
周囲の索敵に特化している探索士であるラーレ。
こういった、できるだけ魔物に会いたくないときにその真骨頂が発揮される。
「うーん、このまままっすぐ進むと、ちょっと強めの魔物に遭遇するわね。どうする、ソーマ? 倒せないことはないと思うけど」
しばらく進むと、ラーレが迷った表情をしてくる。
「そうだな……。避けられそうか?」
「今回はあくまでも素材集めよね? それなら大丈夫だと思うわ」
「それなら余裕で倒せる相手以外は避ける方向で頼む。俺とクルシュはほとんど戦えないから、ラーレ頼みになるからな」
「――わかったわ。それじゃあ、ちょっと荒れた道を通るから気をつけてね」
そういうとラーレは踏み固められた道から逸れて、脇道へと入っていく。
ただ、歩きにくい荒れた道はいつもよりも体力を奪っていく。
それはクルシュが顕著だった。
「はぁ……、はぁ……」
「大丈夫か、クルシュ? そろそろ休憩を取るか?」
「だ、大丈夫です。まだ……」
いや、全く大丈夫には見えないが……。
でも、クルシュの能力を鑑みると仕方ないかもしれない。
【名前】 クルシュ
【年齢】 18
【職業】 メイド
【レベル】 1(1/4)[ランクE]
『筋力』 1(26/100)
『魔力』 1(0/100)
『敏捷』 1(43/100)
『体力』 2(18/150)
【スキル】 『採取』10(742/5500)『釣り』3(54/2000)『聖魔法』1(78/1000)
ただでさえ戦闘には向いていない能力なのに、いつ魔物が現れるのでは……という緊張感と戦っていると、普段より体力を消耗してもおかしくない。
なるべく迷惑を掛けたくない、と本人が思っているからこそ無理をするのだろう、と思わず苦笑してしまう。
「わかった……。俺の体力がもう持たないから休んでも良いか?」
「ソーマ様、お疲れだったのですね。気づかなくて申し訳ありません。今休憩の準備を……」
「いや、木にもたれ掛かって座るだけで十分だ。だからクルシュも休んでいてくれ」
「は、はい、かしこまりました」
俺が座ったのを見て、クルシュが隣に腰掛けてくる。
その様子をみて、ラーレは苦笑いしていた。
「全く、何をしてるのよ……」
◇◇◇
静寂なる森の中。
それを破ったのはラーレの一言だった。
「そういえばクルシュって、ソーマに仕える前は何をしてたの?」
「わ、私ですか? 私はその……、色んなところを転々をしていました。め、メイドとして……」
「そっか……。でも、何だろう? クルシュってメイドの感じがしないのよね。もっとこう……、清楚な感じが――」
「そうだな。スキルを見てても『聖魔法』があるわけだしな。見習い聖女だった……とも言ってなかったか?」
「あっ、そ、その話ですか……。その……、一応聖魔法も使えるんですけど、威力が弱すぎて、全く使い物にならなかったんですよ」
それからクルシュは、聖魔法が使えるものを集められて、聖女としての修行をした日々のことを語り出してくれた。
◆◆◆
王都の教会を出て、悠然と森の中を歩く一人の少女がいた。
白の修道服を着ており、銀の髪をなびかせている少女。
その手には三つ叉の槍を持ち、いざ魔物に襲われたらこれで突いて倒す……なんてことはせずにもっぱら食事用のものだった。
そんな少女の名前はシロ。
圧倒的魔力と聖魔法の強さから現聖女として認定されている少女だった。
ソーマが手に入れたピコハンについての神託を受けた少女でもある。
ただし、彼女自体は真面目に聖女をするつもりは全くなかった。
「お腹すいたなぁ……。聖職者って、ご飯の量が少ないんだよね……」
お腹いっぱい食べられるから……、と聖女を目指していた彼女だが、実際に出されるのは茶碗一杯だけのご飯とおかずが三品だけ……。
「うぅぅ……、もっとお腹いっぱい食べたいよぉぉ……」
少女の悲鳴が静かな森の中をこだまする。
しかし、ここには少女にご飯を恵んでくれる人は誰もいなかった。
むしろ、少女を餌にしようと魔物たちが現れる。
「わ、 私は美味しくないよぉぉぉ……」
じわじわと後ろに下がっていく。
しかし、魔物たちはどこかへ去ってくれそうもない。
「うぅぅ……、ごめんね、こんなところでやられるわけにはいかないんだ……」
少女は目を閉じ神に祈りを捧げる。
すると、その瞬間に少女の体は光で包まれ、魔物たちの攻撃を全て跳ね返していた。
「これで逃げてくれるといいんだけど……」
しかし魔物達はその場から去らないどころか、鋭い目つきでじっと少女を睨みつけている。
「ダメなんだね……。ならやっぱり倒すしかないか。ごめんね」
光に包まれたままの少女は、そのまま魔物に殴りかかっていた。
その瞬間にまるで爆発でも起きたかのように、とんでもない衝撃が辺りを包み込んでいた。
そして――。
「あー、またやっちゃった……」
少女を取り囲むようにクレーターができていた。
「今度は何を言われるか……」
もっと聖女らしい行動してください。とか、あなたは神の代弁者なんですよ。とか、私は一切関係ないのに……。
ただご飯が食べたかっただけなのに……。
ゆっくり立ち上がると、少女はご飯をまとめてまた森の中を彷徨いだしていた。




