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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【パラノス旅行編】
91/192

4-4 お風呂

 竜暦6561年3月21日


「食事の準備もあるし先に出るわね」

「ああ、俺はもうすこし浸かってるよ」

「のぼせないでよ」

「うん」


 サリスが先にお風呂からでた。

 白い肌のサリスの後ろ姿が魅惑的だった。


 それと同じくらいお風呂は魅惑的だった。

 やはりお風呂はいい。

 体の疲れが取れる。

 日本人に生まれて本当によかった。

 あ、間違った。

 今はドルドス人だった。


 転生したこの世界のスタード大陸西端の国ドルドスではお湯に入るという文化がなかった。

 しかし10歳の時に入った温泉が忘れられなくて資金が出来、新しいこの3階建ての家を購入した際に、俺は屋上を改築して湯船を設置する部屋を作る。

 サリスもアミも温泉に入ったことがあったので、湯船の話をしたらすぐに賛成してくれた。


 湯船はロージュ工房にオーダーした品だ。

 既存の貯水樽を流用し人が三人ほど入れる大きさの湯船に、魔石を使った技術で水を循環して浄化する機能とお湯を沸かせる機能を持たせている。

 浄化と湯沸しで聖魔石と火魔石をセットする必要があるが、一度水を準備すればいつでもお湯に浸かれる優れものだ。


 最近はサリスに会いにきたイネスもたまにお風呂に入って帰るようになった。

 冷え性が改善したと喜んでいたのが印象的だったのは記憶に新しい。

 そういえば今年あたりジャスチに話してオーガント家にも設置したいとか、言っていたのを思い出した。


 俺は湯船に寝そべって天窓から見える星空を見上げている。


(出発は来週だから、お風呂に入れるのもあと僅かだな…)


 俺はここ数日パラノス行きの船に乗る準備で忙しい日々を過ごしていた。

 経理と事務の件は、結局ヒッチの奥さん達に頼み込むかたちで話がまとまった。


 兄弟の頼みによる手伝いではなく、正式にベック冒険出版商会に雇用するという形にした。

 給料についても今まで冒険者ギルドや行政庁で奥さん達がもらっていた額とほぼ同じ金額にもしている。


 あと基本的に育児を優先することも雇用契約に盛り込んでいる。

 育児の手があいたときに、事務所にきて各種事務を行うという好待遇である。


 これには実は思惑があった、今後サリスと俺の子供が出来たときも、ヒッチの奥さん達に俺達の子供の面倒を見てもらう交渉がしやすくなるという考えからだった。

 アミが将来結婚して子供が出来た場合も同じである。

 クランとしての活動をするために長期でパムを離れていても、子供を預かってもらえる環境があれば動きやすくなる。

 もちろん子育てを放棄するわけではないが、それでもいつ港湾都市パムを離れてもいいように準備をしておくことは大切だと思っている。


 湯船からお湯を右手ですくい左の肩にかけながら、旅行前にやり残したことがないか考える。

 南部都市バセナに行ってから時間はあいたが久々の旅行である。

 失敗はしたくない。

 転生前に旅行に出かけて空港でパスポート忘れてる事に気付いて慌てた失敗の記憶がよみがえる。

 かなりの期間を準備にあててきたが、それでも出発が迫るとドキドキする。

 わくわくする気持ちもあるが、それでも出発前はドキドキする。


 しかしここまで来たらあとは信じるしかないなと夜空を見上げて思い出す。


(あぁぁぁぁー、船酔いの薬準備しないと!!)


 あとでもう一度、準備を品を見直さないといけないなと思う俺がいる。



 湯船から出てタオルで体を拭いてから更衣室にいき、私服に着替えた俺は頭から湯気を出しながら1階の書斎に向かう。


 机の引き出しから旅行準備メモを取り出して船酔いの薬を書き足し、記載した項目をざっと見直す。


 ○旅費

 ○冒険者証

 ○アイテムボックス

 ○テント

 ○寝袋

 ○毛布

 ○照明

 ○着火具

 ○シート

 ○着替え一式

 ○水着

 ○雨具

 ○ナイフ

 ○食料および調味料

 ○水筒

 ○簡易調理器具

 ○ロープ

 ○日用品

 ○記録紙

 ○筆記具

 ○回復薬

 ○包帯

 ○携帯型便器

 ○迷宮灯

 ○腹止丸

 ○巻糸

 ○各種文献

 ○釣具

 ○トランプ

 ○写真機

 ○写真機用銅版

 ○生理用品

 ○馬車(組み立て式)

 ○乗船許可証

 ×酔止薬


 俺は項目を並べて、頭の中で現地に赴いた自分を想像する。

 いろいろな場面を思い浮かべて、用意したもので足りるかどうか考える。

 そこで思い出したことがある。


(宿とかで心付けが必要かもしれないな、お金が無難だろうけどドルドスでしか手に入らない品だと喜ばれるだろうな)


 海外での旅行で現地の人の協力してもらいやすくなるのは、やはりプレゼントであろうと思った。

 ようは相手に喜んでもらえればサービスがよくなる。

 お金としてのチップは万国共通して喜ばれるだろうが、異国でしか手に入らない品を贈るのも効果が高い。


 数を用意できて嵩張らず、港湾都市パムで買ったら安価だが海外では高価な品。

 腕を組み書斎で俺は唸る。

 港湾都市パムの特産品か…

 一所懸命考えても、なかなか思いつかないでいると、サリスが夕食の準備が出来たと書斎に呼びにきた。


 これ以上は答えが出ないと2階の食堂に向かう。


「いい匂いがするな」

「今日はキノコと海老と芽キャペツのパイ包みよ」

「はやく食べるです」


 俺はテーブルにつくとパイ包みをナイフとフォークで崩す。

 中かな芳醇な香りが立ちのぼる。


「オリーブオイルとバターとキノコの香りが凄いな」


 俺は思わず感想を口にだしてしまい、そのままパイと一緒に調理された具材を味わう。

 やはりサリスの料理は美味しい。

 下準備から手を抜かずに調理しているので素材のえぐみを感じない。


 パイ包みに舌鼓をうちながら食事が進んでいく。

 ふと先ほど考えていた件を食事の途中だったが二人に聞いてみた。


「パムの名産品ってなんだろうな」

「だれかに贈り物?」

「旅行先で親切にしてもらった人へ渡そうかと思ってね」


 サリスとアミも考える。

 するとサリスが思いついたようにローズオイルはどうかと言う。


「どこでもあるんじゃないのかな?」

「パムのローズオイルは有名だったはずよ」

「そうなの?」

「有名ですー」


 話をきくとパムから北に向かった地域でバラが栽培されていて、そのバラから採取したオイルが人気なのだそうだ。

 使い道は女性の化粧品に使うらしい。

 そういえばイネスも愛用していたなと思い出す。

 男の俺では気付かない品だ。


「使うと肌の乾燥を防げるって話よ」

「あとはいい香りがするです」

「あー、なるほどな、でも、高いんじゃないか?」

「小さなビンで売ってるけど、そんなに高価じゃなかったはずよ」

「ふむ」


 俺はパイを口に運びながら考える。

 値段にもよるが、パム周辺では安価で手に入る。

 しかも小瓶で持ち運びもしやすい。

 長期間でも劣化しにくい。

 女性へそのまま贈ってもいいし、男性なら恋人や奥さん、意中の人へのプレゼントになるから贈っても迷惑にならない。

 良い品かもしれないなと俺は思う。


「明日にでも買いにいくか」

「じゃあ、私とアミもついていくわ」

「ん?」

「ちょうど化粧品を買っておきたかったのよね、出発は来週だし」

「買うですー」

「二人は若いし、まだ平気じゃないかな」

「師範から聞いたけどパラノスは、かなり暑いらしいわよ」

「そうなのか」

「うん、肌のケアに気をつけろって言われたわよ」

「経験者は語るか。他に師範になにか言われなかった?」

「えっとね、胃腸薬は持っていけって言われたわ」

「食事があわない可能性もあるのか…」


 日差しの暑さは全天候型レインコートを着ればなんとかなるなと俺は思った。

 ただし顔や手は露出するからサリスのいうように日差し対策が必要だろう。

 胃腸薬が必要なのが事前にわかれば準備すればいいので、そこも大丈夫だなと思う。


「ローズオイル、胃腸薬、化粧品、他に追加で準備するものはあるかな?」

「そんなものじゃないかしら」

「じゃあ、明日は買物に行こうか」


(これでだいたい準備は完了かな、来週が楽しみだ)


 にやにやしながら食後の紅茶を飲んでいる俺がいる。


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