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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【パラノス旅行編】
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4-1 世界旅行準備

青年期【パラノス旅行編】開始

 竜暦6561年3月1日


「ベック、この書類に目を通しておいてね」

「わかったよ」

「ベック、もうすぐ海運商会の方が訪問する時間です」

「あー、もうそんな時間なのか…。アミ、先方の方がきたら応接間に案内しておいて」

「わかったです」


 家の書斎で俺は忙しさに目を回していた。


 14歳となり成人になった俺を取り巻く環境は南部都市バセナに旅に出た頃から大きく変わった。

 どこから説明すればいいか正直とまどう。




 まず11歳となり南部都市バセナから港湾都市パムに戻った俺とサリスとアミは正式にクランを結成した。

 クランの活動としてはパム迷宮の地下2層を中心に活動し、それなりの収入を稼ぎ出した。

 その収入を元に、俺は11歳の初夏にオーガント家から独立し、サリスとアミと一緒に住むための家を借りた。


 そうここで重要なのは『サリスとアミと一緒に住むための家』である。

 当初はサリスと一緒に住むという話だったが、南部都市バセナからずっと一緒に三人で行動しており、アパルトメント暮らしのアミも一緒にすんだらどうかなとサリスが提案してきたので俺も一緒に住むことに承諾したのだ。

 親友であり、かつ同じクランの仲間であるアミを、サリスが俺と同じくらいに大切に想っていたから出た提案である。


 雰囲気としては南部都市バセナの旅がずっと続いているようなものだった為に同居生活は案外スムーズにスタートしてしまったのである。


 あまりにスムーズすぎた為に俺とサリスは南部都市バセナへの旅と同じような感じで清い関係を保った。

 イチャイチャ、ラブラブ、チュッチュッはあるものの清い関係を保った。


 いま当時を振り返り、清い関係でも問題なかった理由を考えると、11歳の体はまだまだ未発達でありサリスも俺も、初潮や精通がまだ来ていなかった為だったからかもしれないなと思える。




 そんな感じで新生活がスタートしたが、12歳を迎えたあと大きな転換点が2点訪れた。


 1点は11歳の秋に出版した南部都市バセナへの旅行記『バセナ紀行』が重版につぐ重版のベストセラーになり、作者としての俺の元に旅行記の収入が転がり込んできた。

 活字という媒体だが、庶民としては自分の知らない土地での未知の体験を読むことで、自分の目で見たような錯覚を覚えたのであろう。

 好評だったのは、そこに行かないと体験できない名所の案内と、その土地の郷土料理の紹介であったと出版を頼んだ活版印刷商会の人から聞いた。

 この世界の人は娯楽に飢えていたのかもしれないなと俺は思った。


 もう1点はロージュ工房で開発された写真機が正式に売り出されたのである。

 写真機本体の売り上げもあったのだが、風景を写し取る銅版の販売がものすごい利益を生み出した。

 ロージュ工房もその利益に潤ったが、俺にも共同開発者として50%の利益が入ってきたことでさらに状況は大変になった。


 まず俺は写真機が失敗したことを想定して、サリスにもアミにも共同開発のことは秘密にしていた。

 しかし莫大な利益が出たため、説明をすることになり、その説明だけでかなり気をつかうことになった。


 旅行記のベストセラーの収入に加えて写真機の共同開発への利益分配金をあわせると12歳が手にする額としてはあり得ない額となった。




 結果として13歳を迎えた俺の資産は金貨120枚をゆうに超えていた。


 ここまで資産があると冒険者をしなくても一生遊んで暮らせたのだが、俺はその資産でクランの仲間であるサリスとアミと一緒に『ベック冒険出版商会』という商会を起業した。

 あとこの起業時に事務所にも家にも使えるように、港湾都市パムの東大通りに面した3階建ての建物を購入したのも忘れてはいけない。


 起業設立の一番大きな理由は《これから先の人生も旅を楽しみたい》という理由だけであった。

 転生前でも旅行がしたいからと大手旅行会社の添乗員になったくらいだ。

 旅にでる十分な資金が手元にあるのに家に篭って遊んで暮らすという選択肢は絶対にありえなかった。


 ちなみに起業に対してのサリスとアミの反応はそっけないものだった。

 サリスは


「ベックの夢が実現しそうなんだし良かったんじゃない。冒険者の腕も磨かないとね」


 といい、アミは


「聖地への調査が進むです!嬉しいです!」


 と俺が旅を優先させたことを、さも当然であるように受け止めていた。

 長い付き合いになると俺の思考が読めるのであろうか、もしくはそれだけ俺の行動がわかりやすいのであろうか、甚だ疑問である。




 さてベック冒険出版商会を起業してからは、他の国を旅行するための各種準備を資産を使って進めることになった。


 最初の準備は移動手段の確保である。


 まず俺はロージュ工房に熱気球の開発を依頼した。

 その時のファバキさんの顔は、写真機のアイデアを披露した以上に驚いていた。

 人族が空を飛ぶというのは、それだけの出来事であった。

 14歳になった今も開発中であるが、ファバキさんいわく数年以内には実用化出来るだろうという話である。

 ちなみに熱気球についてもベック冒険出版商会とロージュ工房との共同開発という契約を結んでいる。


 熱気球の開発は人や物の流れを大きく変える。

 魔獣に怯えなくても旅行できる環境が出来れば、庶民にも旅行という娯楽が広がるだろうなと俺はニヤニヤしていた。


 ただし熱気球が開発されるまで旅行を待つのは時間の無駄になると、海運商会と交渉をして他の国にいく準備も当然進めている。




 次の準備は戦力の底上げである。


 当然魔獣のいるこの世界で旅をするとなると、旅先の知らない土地で魔獣との戦闘に巻き込まれる可能性は高い。

 戦う冒険者としての実力も必要となる。

 ベック冒険出版商会を作ったあとも世界を冒険するためにパム迷宮に赴いて、クランとしての連携の実力を磨いた。


 他には武器や防具の開発に資金を注いだ。


 現在の俺の武器はパワーハンドボウを元にロージュ工房で新規に開発したチェーンハンドボウだ。

 20本のスパイクをセットできるカートリッジを、チェーンハンドボウにセットするとチェーンハンドボウの台座にある筒の中にスパイクが入る。

 筒の中で火魔石の爆発力を利用し、その膨張する空気の力で撃ち出す仕組みである。

 薬莢に詰められた弾丸を撃ち出す現代の銃というより、火縄銃の構造に似ている。


 結果としてパワーハンドボウより連射性能、威力、メンテナンス性が優れた武器となった。

 正直な話として希望どおりの品が出来上がったのだが、最初に試射したときは、その威力の大きさに、こんな武器を作ってしまって本当に良かったのかと自分自身にひいてしまった。

 しかしファバキさんいわく、元からあるパワーハンドボウの延長線にあるので、遠からず開発されたよと言われ少し安堵した。

 ファバキさんも量産化を検討しているみたいで、大陸中央部の城砦都市や防衛都市への輸出を考えないとなと言っていたのが印象的だった。


 あとサリスについても現在はストームソードをベースにロージュ工房とヘイルク装備工房の共同開発した新しい剣、フレイムストームソードを使用している。

 以前たたかったファングベアやロックトータスなど硬い敵でも切り裂く力を得たいということで、刀身が高熱を発するように改造したのだ。

 出来上がった際にパム迷宮のロックトータスで試し切りをしたのだが、あっさりと岩の殻を切り裂いたのに驚いたのは記憶にあたらしい。

 左手の盾もスパイクシールドに同様の処理を加えたフレイムスパイクシールドを使っている。

 盾の表面は高熱を発し、殴ってきた魔獣の攻撃を受け止めるだけでも魔獣にダメージを与えられるという優れものだ。


 アミの盾もヘイルク装備工房の協力でかなり大きな変更が加えられた。

 シールドガントレッドの盾の内側に太さ5cmほどの杭が飛び出す機構を付けたパイルシールドガントレットを装備している。

 強烈なアミの打撃と杭の組み合わせは魔獣にとっては大きな脅威であった。

 場合によっては杭をつかった打撃によって一撃で沈めることも可能になっていた。

 他にはシールド表面部分もサリスと同じように高熱を発する仕組みを付与している。


 最後に防具であるが、三人ともに新調した装備を着用している。

 大陸内陸部に出没するバジリスクというCランクの魔獣の皮を加工した高級なレザー防具をベースに、聖魔石と風魔石と土魔石の粉末を表面のコーティングを施している。

 重量軽減、自動修復、ダメージ軽減と機動性を重視した仕様になっている。

 ただしアミだけは、その防具に追加で硬化処理を施した複合プレートを貼り付けて防御力を上げていた。




 移動手段の開発および交渉、装備の開発と、1年をかけて世界に向けての旅の準備もかなり進んでいた。


 年が明けて三人とも14歳を向かえたが、毎日忙しい日々が続いている。

 ベック冒険出版商会といっても従業員は俺を含めて三人しかいない。

 経理だけでも誰かに、やってもらえばいいとサリスに言われたが、なかなか信頼できる人がいないのが辛い。


 今日はこのあと海運商会との金額面での最終調整が待っているが、溜め込んでいた行政庁に出す資料も作成しないといけないので本当に頭が痛くなってきた。


「事務や経理が出来る人がいればな…」

「地道に探すしかないわね」

「ですー」


 俺は腕を組んで考える。

 やっぱりあの人にお願いするしかないのかなと思う。


「数字に強いし、一時的でも母様にお願いするのがいいんじゃないかな…」

「わたしは反対よ、独立してるんだしベックの実家のイネス義母様に迷惑はかけられないわ」

「サリスの言い分もわかるけど、あんまり見つからないと旅行にいけなくなっちゃうしな…」


 この話になると、いつもサリスに反対される。

 正式に結婚していないが俺の妻としての意地なんだろうなと思ってる。

 しかし旅行に行ってる間のことを任せられる人が必要なのも事実である。

 とりあえずは海運商会との交渉が迫っているので経理のことは保留にしようと書類にむかう俺がいる。


 15時にエワズ海運商会の担当者が、家にやって来た。


「本日は、先日の交渉で出た条件で契約を結ぶことに対して商会上層部の決裁がおりましたので、ご報告に参りました」

「それはよかった。ありがとうございます」


 俺は安堵した。


「これが契約書となります。2通ありますので確認していただき2通ともサインをお願いいたします」


 提示された契約書の文面を確認する。

 既に先方の担当者のサインが2通とも記載されている。

 いままで何度もやり取りをして修正してきた内容なのを最終確認して俺は2通の契約書にサインをした。


 エワズ海運商会の担当者がサインを確認し、1通はエワズ海運商会に持ち帰り、もう1通をベック冒険出版商会で保管することになった。


「本当にありがとうございました」

「こちらこそ、ありがとうございます。数日かかりますがエワズ海運商会所有の船に乗る為の許可証をお持ちしますね」

「はい、お待ちしております」


 エワズ海運商会の担当者は事務所をあとにした。


「ふー、これで移動手段の確保は出来たな」

「よかったわね、ベック」

「ああ、年単位の契約だが、好きな時に乗船できるんだ。これで各国への移動が楽になるな」

「馬車の件はどうなりそうなの?」

「ああ、船に積めるように各パーツを分解できるように改良してもらってるよ。そろそろ完了すると思うけどね」

「組み立てが大変そうね…」

「エワズ海運商会の契約書では、専属の各港にいる船大工を手配できることになってるから平気だよ」

「あ、それも条件とおったの?」

「うん」


 無事に各国への移動手段を手に入れた俺は、残ってる問題を片付けることに専念することにした。


(経理を頼める人を探すのと、サリスとの結婚式の件と、アミのEランク昇格のお祝いの件は、パムにいるうちに解決しないとな…)


 窓から東大通りを眺めながら腕を組んで思案する俺がいる。


2015/04/24 表現修正


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