3-19 シャルト村
竜暦6557年11月9日
草原の街道を馬車で進む。
蹄の音のリズムが心地よい。
御者台にはアミが座っている。
サリスと俺は室内でゆっくりしている。
サリスは編み物、俺は装備の手入れをしている。
装備の手入れが終わり、編み棒を器用動かすサリスを見つめていると、視線に気付いたサリスが恥ずかしそうに笑う。
(かわいいわー、サリスかわいいわー、本当にかわいいわー)
女性の恥らう姿に興奮する俺がいる。
「それってマフラー?」
「うん、冬になるし」
「しかし器用だな、サリス」
「小さい時からやってるからよ」
「編み物も料理も出来るってサリスはいいお嫁さんになるな」
「う、うん。あ、ありがと…」
サリスが耳まで紅くする。
その姿をみた俺は考えもなしに、ついついサリスにお願いをしてしまった。
「いいお嫁さんのサリスに膝枕してもらいたいなー」
「い、いいわよ…」
「え、ほんと!」
「はやく来なさいよ」
そういってサリスの柔らかい腿に頭を乗せて横になる。
俺もサリスも心地よいスキンシップに頬がゆるんでいた。
アミには非常に申し訳なかったのだが、イチャイチャする二人の姿がそこにある。
膝枕をしてもらった俺は、その気持ちよさからすぐに昼寝をしてしまった。
しばらくしてサリスに俺は起こされる。
「ベック、そろそろ交代の時間よ」
「う、うん。そうかそんな時間か…」
俺は寝起きの頭をふって、気合をいれる。
「よし!アミと交代しようか」
そういって馬車を止めさせてアミと御者を交代した。
アミは室内に戻らず御者台の俺の隣にいるというので横に座らせ馬車を動かしはじめた。
「室内で休んでもいいのに」
「林の中を進むから回りをみてますです」
「そうか、じゃあ警戒お願いするよ、アミ」
「はいですー」
そう草原地帯を抜けて馬車は林の中の街道を進んでいた。
よく見ると、確かに身を隠す場所は多い街道である。
警戒をするほうがよいようだ。
周囲を警戒を怠らずに3時間ほど進んで、ようやく次の予定地のシャルト村が見えてきた。
村に入り宿屋を教えてもらう。
村の中心にある宿屋につき馬車を預かってもらう。
「お一人様一泊銀貨1枚、馬車も一泊銀貨1枚ですが、よろしいですか?」
「それで二泊二部屋お願いします。あと食事については?」
「えっと食事に関してはお客さんに自炊してもらっております」
「なるほど、部屋のみの提供ということなのですか」
「はい、厨房は開放しておりますので自由にお使いください」
そういって主人が頭を下げ、103号室と104号室の鍵を渡してきた。
ベッドのみの提供なので金額が安いのも頷ける。
それぞれ部屋に移動して荷物を置くと私服に着替えてから厨房のある食堂に移動した。
俺は食事作りをサリスにお願いすることにした。
「サリス、以前手に入れたナイトラビットの肉を調理してくれないかな」
「いいわよ、まだクレソンもあるし使っちゃいましょう」
「わーい」
サリスの手料理が食べれることでアミが喜ぶ。
そういえばアミは料理が苦手って話を以前していたのを思い出した。
「折角だしアミも手伝ってみたら?」
「そうね、アミ手伝いお願いできるかしら」
「はいですー」
厨房に美少女が二人たって協力して調理している。
その姿をテーブルで眺めて、俺は頬がゆるんでいた。
最近頬がゆるむことが多い気がする。
そのうち頬が落ちてしまうかもしれない…
でも美少女に囲まれているのは事実だ、仕方が無いことである。
しばらく見つめていたが、完成までまだ時間がかかるようなので俺はアイテムボックスから書きかけの旅行記の記事を取り出し、続きを書き始めた。
熱中して書いているとサリスとアミが完成した料理をもってテーブルにやってきたので、俺は記事をしまった。
「ナイトラビットの肉を使ったポトフよ、クレソンやカブ、ニンジンも煮込んでみたわ」
「美味しそうだね」
「はい、こっちはバゲットですー」
食べやすいようにスライスしたバゲットをアミが持ってきた。
表面にはバターとバジルが塗られて焼かれていて、こうばしい香りが漂う。
「バゲットもレウリで手に入ったし、アミが手伝ってくれたので、ひと手間くわえてみたの」
「頑張ったのです」
「これも美味しそうだね、サリス、アミ作ってくれてありがとう」
「じゃ冷める前に食べちゃいましょう」
「ああ」
「はいですー」
サリスの煮込んだポトフは素材からでる甘さや苦さや旨みが絡まりあい複雑な味わいを醸し出し非常に美味しかった。
サリスは旅で食した各地の料理から調理の様々なコツを吸収しているのかもしれない。
めきめきと腕が上達しているのがわかる。
アミの焼いたバゲットも美味しかった。
オリーブオイルとバター、バジルの組み合わせがバゲットの味を際立たせている。
美味しい食事を終えサリスとアミは部屋に戻り、俺はシャルト村周辺のことを宿の主人に聞くことにした。
「すいません、シャルト村に来るのは初めてなのでこの辺りのことを教えていただけないでしょうか」
「ああ、構いませんよ」
「あの冒険者ギルドに寄りたいのですが」
「それなら、この宿の斜向かいがギルドですよ。たた今の時間はもう閉まっていると思います」
「では、明日伺ってみます」
俺はそう返事をして、さらに続けてこの村のことを聞いてみた。
「あとこの辺りの特産や景色のいい場所を知りたいのですが…」
「うーん、特に何もない村なので、そういったものは…」
「でも人も住んでますし何か生産とかしてるのでは?」
「林で取れるものを売ってるんですよ。春から夏にかけてはハーブ。秋はキノコや果物。冬はラビットやディアの狩猟という感じですよ」
「なるほど…」
この季節はシャルト村周辺の特色が薄いことに少し落胆した。
まだ春や夏であればハーブ採取の散策などに行けるのに…そんな事を考えてると思い出したように主人がある場所の事を口にする。
「そういえば、ここから西にある林の中の沢はちょっと変わってますよ」
「変わってる?」
「ところどころから湯気が出ていて、沢の周辺では嫌な匂いがするんですよ」
「えっ!?」
「沢では魚も取れないし村のものは寄ることはありませんけどね」
(まさか、でも…!)
俺はその言葉に唖然としたのである!
話を聞く限り間違いなく温泉が湧き出ているらしい。
スタード大陸の西端の国ドルドスではお湯に入るという文化がなかった。
この世界に転生してからずっと、俺は手拭やタオルを水やお湯で濡らして体を拭いてきた。
お風呂に入りたいと願った日はなんどもあった。
今、俺の手の届く場所に温泉があるのだ。
俺は絶対お湯に入ってやると意気込む。
「え、えっと折角だし、その沢を一度見に行ってみたいですね」
「そうですか?」
「俺の住んでいた街では、そういう場所はありませんでしたし。是非とも詳しい場所を教えていただけませんか?」
「じゃあ、少しお待ちを」
そういって宿の主人が紙に沢への道の案内を書いてくれた。
「魔獣は出ないと思いますけど気をつけてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
そういって地図を受け取ると、俺の脳内に某RPGのファンファーレが鳴り響く。
『温泉の地図を手に入れた』
2015/04/23 表現追加




