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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
少年期【バセナ旅行編】
53/192

3-7 クレソン

 竜暦6557年10月29日


 寒さで覚醒する。

 朝の冷え込みがきつい。

 冬が近づいている。

 薄目をあけると見慣れない壁と天井が見える。


(ああ、宿屋に泊まってるんだった…)


 ベッドから抜け出し外を見る。

 2階の部屋なので見晴らしがよく田園の風景が遠くまで続くのが見える。

 今日も天気は良さそうだと思い、さっそく冒険者の装備に着替える。


 廊下に出て隣の201号室のドアをノックする。


「俺だけど起きてる?」


 俺がそういうと


「はーい」

「どうぞ」


 中からサリスとアミの声が聞こえてきた。

 入るように促されたのでドアを開けて部屋にはいる。


「おはよう」

「おはよう、ベック」

「おはようございます」


 既に二人とも着替えを終えていた。


「こちらからベックを起こしにいこうかって相談していたところだったのよ、タイミングいいわね」

「ああ、部屋が寒くて早めに起きちゃったよ」


 今日は冒険者ギルドに顔を出す予定だ。

 魔獣との戦いがあるかもしれない。

 久々にスキル分析を全員に使ってみることにした。


(【分析】【情報】)


 <<オーガント・ベック>>→人族男性:10歳:冒険者:観測者レベル11

 Eランク※

 HP 98/98

 筋力 4

 耐久 10

 知性 8

 精神 8

 敏捷 14

 器用 11

 <<装備>>

 シェルスピア

 マルチロッド

 HEレザーヘッドバンド

 HEレザージャケット

 HEレザーアームガード

 HEレザーレッグガード

 スキル【分析】【書式】【情報】【地図】

 観測者レベル11


(以前確認したときより体力が増えてるな)


 俺も少しは成長しているようだと安堵し次にサリスをみる。


(【分析】【情報】)


 <<マリスキン・サリス>>→人族女性:10歳:冒険者

 Eランク※

 HP 111/111

 筋力 9

 耐久 16

 知性 1

 精神 1

 敏捷 14

 器用 10

 <<装備>>

 ストームソード

 スパイクシールド

 HEレザーヘッドバンド

 HEレザージャケット

 HEレザーアームガード

 HEレザーレッグガード


 サリスも体力が上昇していたを確認し、最後にアミを見る。


(【分析】【情報】)


 <<ムイ・ネル・アミ>>→猫人族女性:10歳:冒険者

 Fランク※

 HP 133/133

 筋力 2

 耐久 16

 知性 1

 精神 4

 敏捷 4

 器用 1

 <<装備>>

 ナックルシールド

 ナックルシールド

 レザーヘッドバンド

 レザージャケット

 レザーアームガード

 レザーレッグガード


 男の俺だけが一番体力が低い。


(なにかがおかし……くないか、俺前衛向きじゃないし)


「さてと軽く食事をしたあとに冒険者ギルドにいってみよう」

「「はい」」


 宿のカウンターで朝食を頼み、三人で宿の奥さんが作った野菜のキッシュを味わう。


「このキッシュ、美味しいわ」

「野菜が甘いですね」

「元気がでます」

「さっきカウンターで聞いたが、このあたりで取れる野菜は港湾都市パムに売りにいって農家はお金を得ているらしいな」

「こんなに美味しければ納得ですね」


 楽しい朝食を終えてから、小さな建物の冒険者ギルドを訪れた。


 中に入ると受付に一人の初老の男性が座っている。


「見ない顔だね」

「こんにちは、旅をしてまして昨日セルメについたんです」

「ほほー」


 俺達は冒険者証を見せた。


「パムから着たのかね」

「はい」

「路銀を稼ごうかと思って、寄ってみたのですが…」


 クエスト掲示板を見ると依頼が貼っていないのが見える。


「小さな村だしね、依頼は頻繁に出ていないんじゃよ」

「そうでしたか」


 気抜けする俺がいた。


「しょうがないわよ、ベック」

「そうだね」


 気持ちを切り替えて男性に聞いてみた。


「この辺りで売ってお金になりそうな魔獣はいないでしょうか?」

「うーん…」

「ナイトラビットがいるという情報は宿で聞いたのですが」

「いるにはいるが夜間しか現れないしな、昼間活動する魔獣もこの辺りじゃ少ないよ」


 期待した答えがなかなか返ってこないので、狩りをすることを諦めた。


「では、このあたりで村の人しかしらないような景色のいい場所はありませんか?」

「それなら西に1時間ほど行ったところに綺麗な池があるよ」

「へー」

「ああ、そうじゃもし行くのなら池の周りに生えているクレソンを採ってきてくれないか」

「クレソンですか?」

「ああナイトラビットの肉のつけ合わせとして絶品でな」

「それは美味しそうだな」

「いくならついでに採ってきましょ、ベック」

「そうですね」

「ちょっと待ってておくれ」


 そういって男性が採取箱と依頼票を持ってきた。


「君達Eランクだからワシからの指名クエストということにしよう。報酬は採取箱いっぱいのクレソンの提出で銅貨50枚でどうかな?」

「たすかります」

「「ありがとうございます」」

「最初にお願いしたのはワシじゃから、気にせんでええよ」


 そういって採取箱と依頼票を受け取った。


「気をつけてね」

「「「はい」」」


 そういって村を出て丘を歩いて西に進む。

 1時間ほど歩くと池が見えてきた。


「水が澄みきっていて透明度が高いね」

「綺麗な池ね」

「はい」


 まずは池のほとりでシートを広げ休憩することにした。


「風も心地よいし、夏にここに来ると最高じゃないかしら」

「言うとおり避暑にはいい場所だな」

「鳥が楽しそうに会話しているようですね」


 アミは耳をピクピク動かしている。


「アミは耳もいいんだね」

「それほどでもないと思いますけど…」

「父様に聞いたけど夜でも明るくみえるんだっけ。猫人族って」

「そうですよ」

「アミって、すごいわねー」


 サリスが感心する。

 そこで俺は思っていたことを提案してみた。


「クレソンを採取してから村に戻ったらさ、二人がよければ夜は東の林に少しいってみたいんだけど」

「林ってナイトラビットの出るっていう?」

「うん」

「アミもいるし、上手くすればナイトラビットが取れるかもだしさ」

「私やってみたいです」


 狩りの得意なアミがくいついてきた。


「私もいいわよ、ベック」

「じゃあ昼間はクレソン、夜はナイトラビットだ」

「「はい」」


 ゆっくりと休憩したあと、クレソンの採取を始める。

 水辺にいくと思った以上にたくさんクレソンが生えており、すぐに採取箱いっぱいになった。


「ちょっと多めにクレソンを採っておきましょ。アイテムボックスに保存しておきたいわ」

「そうしよう」

「あとここでクレソンを使った料理を作るからお昼にしましょうか」

「わーい」


 サリスの提案にアミが喜んだ。

 シートに戻りサリスが簡易調理器具、鍋、ナイフ、皿と食材などをアイテムボックスから取り出す。

 俺は水筒から薬草茶をコップにいれ、干し肉を取り出す。

 サリスは自分の水筒から水を鍋に入れて、摘んできたばかりのクレソンを軽くゆで、塩コショウで味をととのえる。

 あとは朝、宿で包んでもらったカンパーニュを薄切りにし、三人分のクレソンとチーズのサンドが完成した。

 ほどなくしてシートの上の皿には、干し肉、クレソンとチーズのサンド、薬草茶が並んだ。


「サリス、すごいです…、私も料理おぼえたいな…」

「ベックの義母様に教わったからよ。昔は私も料理が苦手だったけど勉強すればアミもすぐに上手くなるわよ」


 残念系美少女だったサリスが人にアドバイスするまでに成長するとは…

 俺は感慨にふける。


「さて食べちゃいましょうか」

「「いただきます」」


 美味しい料理を食べ終えて、俺は横になって青い空を眺める。


(ここでのピクニックは是非とも旅行記に書いてオススメしないとな…)


 そんなことを考えていると、つい気持ちよい陽気で居眠りしてしまった。


「ベックそろそろ時間よ」


 体を揺すられて午睡から目を覚ます。


「ああ、寝てしまったようだね」

「うん、気持ち良さそうに寝ていたわ」

「あれ?アミは」

「アミならあそこよ」


 サリスが指差すと、アミが池のほとりで獲物の血抜きの作業をしていたようで俺が起きたことに気付き戻ってくる。


「ナイトラビットを仕留めちゃった」

「え?あれ夜に活動するんじゃなかったの?!えっ?」


 アミが嬉しそうに猫耳をぴくぴくさせ尻尾を振ってナイトラビットの話をすると、俺は事情が飲み込めずにあせった。

 サリスが詳しい話をする。

 経緯としてはベックが眠っちゃったからサリスとアミで周囲を散歩しよういう話になり、その際に茂みの奥で休んでいたナイトラビットを見つけて仕留めたという話だった。


「よく見つけたね」

「私は分からなかったわ、アミが見つけたのよ」

「あー、もしかして茂みの奥の暗い場所でも、アミならよく見えるのか…」

「うん」

「お手柄だったね、アミ」

「本当にそうね、アミはすごいわ」

「えへへ」


 アミが恥ずかしそうに猫耳がパタパタゆれさせ笑う。

 やはりアミの感情と猫耳は密接に関係しているらしい。


(アミってポーカーフェイスはムリだよな、これじゃ…)


 血抜きの終わったナイトラビットは布で包んでアイテムボックスに入れて保管した。


「さて夜、狩り出かけようかとおもったけど目的も達成しちゃったし今日は宿でゆっくり休もう」

「うん」

「はい」


 俺達は池をあとにしセルメ村に戻り、冒険者ギルドの受付の男性にクエストの報告を済ませた。


「すまなかったね、これが報酬の銅貨50枚だ」

「どうもです」

「昼食で茹でたクレソンを池のそばで食べましたけど、確かに美味しいですね」

「ああ、今日の夕食が楽しみだ。ははは」


 男性が嬉しそうに笑う。

 俺達は挨拶を済ませ、そのまま宿に戻ると、ちょうど夕食の時間になっていた。

 俺は宿の主人に話しかけ、厨房にいた奥さんを呼んでもらい料理の話をする。


「ナイトラビットの肉が余ってるなら、手に入れたクレソンをつけあわせに夕食は肉のソテーをお願いできませんか?」

「ああ、平気だよ」

「料金は?」

「クレソンを提供してくれるんだし一食銅貨10枚のままでいいよ」

「ありがとうございます」


 そういってアイテムボックスから新鮮なクレソン一束と銅貨30枚を渡した。

 テーブルに戻るとサリスが呆れた顔で俺に話す。


「ソテーなら私が作ってもよかったのに…」

「サリスの料理が美味しいことは分かってるさ、でも折角だしセルメ村の料理を味わっておきたいのさ」

「なるほどね」

「あとサリスも味付けとかは参考になると思うよ」

「それじゃあ、味わって食べないとね」

「ベックさんって美食家ですよねー」

「そう?」

「ええ、美味しいものに目がないというか…」

「たしかにベックは料理について詳しいわよね」

「ははは」


 楽しい会話をしていると奥さんがクレソンの添えられたナイトラビットの一口ソテーとカンパーニュを持ってくる。


「あんたたち、いいクレソンを持ってきたね。もしかして西の池までいったのかい?」

「ええ、景色が綺麗だという話でしたので」

「あそこはこの村じゃ、人気の場所さね」

「やはり、そうでしたか」

「さて冷めたら美味しくないからね、味わっておくれよ」

「はい」


 そういって俺達は夕食を楽しんだ。

 ナイトラビットの肉は柔らかく口のなかでほろほろと崩れ肉汁があふれ出す。

 添えられたクレソンもかすかな苦味が口の中の肉汁を洗い流してくれるので肉と交互に食べることでいつまでも美味しく味わうことが出来た。


「この味付けは美味しいわね、参考にしないと…」

「多くのお客さんに食事を出してきた宿の奥さんだけあるね、さすがだ」

「美味しいですーー」


 楽しい食事を終えた俺達は、それぞれ部屋に戻り明日出発の準備をする。

 次の村に向かう為に。


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