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観測者λ567913と俺の異世界旅行記  作者: 七氏七
青年期【ドルドス帰国編】
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6-27 ミキサー

 竜暦6561年9月30日


 時刻は17時。

 ダルカラタさんとの交渉を終えて宿に戻ると部屋にサリスの姿がなかった。


 俺は宿の受付の男性に確認すると、厨房を借りて調理を行っているということだった。

 受付の男性に頭を下げてから、厨房に向かうとアミと一緒にサリスが難しい顔をして腕組みをしている。

 作業台の上を見ると粉カラシの調理を模索しているところらしい。


「ここにいたんだね」


 俺がそういうとサリスがこちらを向きながら険しい表情を見せた。


「カラシって扱い方が難しいわね」

「そう?」

「時間があったから試してみた結果、お湯で練ることでペースト状には出来たけど辛すぎて、どう調理に使うか迷ってるのよ」


 サリスがそういいながらペースト状になった練りカラシを盛った小皿を差し出してきた。

 俺はカラシをスプーンで少しすくってから口に運んだ。

 カラシ独特の香りと辛みが鼻を刺激する。

 確かに辛すぎだと思ったが、転生前にいろいろな料理でカラシを食べたことのある俺としては風味としては悪くないなと思った。

 しかしな食べ慣れていない人からすると、やはりこの辛さは刺激が強すぎなのだろう。

 他のスパイスと一緒にカレーに混ぜるのが手っ取り早そうだが、それだけではもったいない。

 少し思案してからサリスにいくつか提案することにした。


「たしかにこのままだと刺激がきついから、いろいろなものと混ぜたほうがいいだろうな」

「なにかアイデアがあるのかしら」

「蜂蜜とオリーブオイルはあるかな?」

「ここにあるです」


 そういってアミが蜂蜜の入ったビンとオリーブオイルの入ったボトルを差し出してきた。

 俺はそれを受け取ると味見をしながら蜂蜜とオリーブオイルと練りカラシを量を調整し混ぜていく。

 転生前の世界でいうハニーマスタードソースというやつだが、出来上がったソースは蜂蜜の甘さの中にカラシの刺激と風味が加わり悪くない味だった。

 ソースをサリスとアミに味を確かめてもらうと二人が驚いた顔を見せる。


「刺激がかなり抑えられていて悪くないわね」

「お肉にあいそうです!」

「肉を蜂蜜を塗りながら焼く料理があるけど、その際に少しカラシの粉末を加えることで風味がよくなるんじゃないかな」

「たしかにそういった使い方が出来るわね」


 そこまで話をしたところでサリスがアミにブロックの肉をこのソースに漬け込んで焼く様に頼んだあと、いろいろな調味料を取り出して試作をはじめた。

 横で俺は見ていたがサリスの思考の柔軟さに俺は驚いた。

 ビーンペーストと練りカラシを混ぜてカラシ味噌を作ってみたり、ビーンソースと練りカラシをあわせてカラシ醤油を作ってみたりして味を確かめる。


「ヒノクスの調味料とあわせると独特の風味が出て美味しくなるわね」


 そういいながらサリスがカラシ味噌やカラシ醤油の小皿を俺に差し出してきたので味見をしてみたが、どちらも想像以上に美味しい。


「ビーンペーストにカラシを混ぜたほうは魚に塗ってから焼くと美味しいかも」

「それいいわね。ソースのほうはサラダにかけるほうが良さそうね」

「うーん、それも悪くないけどライスペーパーの料理のソースに使うのはどうかな?」

「あー、それもいいわね。淡白なライスペーパーの味が引き締まりそうだわ」


 俺は美味しい春巻きが食えるなとつい味を想像してしまった。


「塩やコショウと同じように、少し加えることでカラシの風味を楽しむようにすればいいのね」

「うんうん」


 そこまで話をしたところで俺はさらにカラシを使った調味料を思い出した。

 そうカラシマヨネーズである。


「サリス、マヨネーズにも合わせるといいんじゃないかな」

「そうね。でもちょっとマヨネーズ作るのはちょっと面倒ね」

「攪拌がたしかに面倒か…」

「ええ、時間があるときならいいんだけど」


 以前パムにいた時にサリスに頼まれて自家製マヨネーズを作るのを手伝ったことがあるが、確かにあの時の攪拌作業を考えると手軽に作るのは躊躇してしまう。

 俺はふと転生前の世界にあったミキサーを思い出した。

 ああいうマジックアイテムがあれば、マヨネーズも手軽に作れるようになるはずである。

 俺は旅行準備メモを取り出して、"ミキサー"と書き込んだ。


「メモを取り出してどうしたの?」


 サリスが俺に尋ねてきたのでミキサーについて説明をした。


「なるほど攪拌専用のマジックアイテムがあればいいってことね」

「原理は単純だからロージュ工房に話をすれば、すぐに作れるんじゃないかと思ってね」

「そんなマジックアイテムが出来たら、かなり売れるんじゃないかしら」

「へー」

「ベックはピンと来てないようだけど料理をする人からしてみたら、重労働から解放される道具は非常にありがたいわよ」

「じゃあ、これも共同開発にしたほうが良いってことだな」

「そうね。でもよくこういうことを思いつくわよね」

「ほら、少しでも楽になればいいかなって思っただけだよ」


 本当はそういった製品のある世界から、この世界に転生したと言えない俺はそういいながら話題を変えることにした。


「そういえばカラシの思案に夢中で伝え忘れたけど、明日ルードン村に向けて出発できそうだよ」

「思ったより早かったです!」


 肉の漬け込み作業中のアミがそう俺に言ってくる。


「ダルガラタさんとの話はどこまで進んだのかしら?」

「オルが頑張って仕上げてくれた契約書類を今日渡したんだけど、ルードン村まで行ってバイムに戻ってくるまでにダルガラタ船工房として問題がないか確認するって話まで進んだよ」

「じゃあ、あとは気兼ねなくルードン村に行けるわね」

「うん」


 アミが俺とサリスの話を聞きながら、尻尾をふりふり肉を下ごしらえをしていくのが視界に入る。

 いろいろと思うところがあるがオルとアミにとっては重要なことである。


 俺はそう思いながら厨房をあとにして部屋に一度もどることにした。


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